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異世界転生‐男の娘2/僕とリリーの奇妙な関係 28-30
28 カルビン司教の最後
「もしかしたら、この骨がカルビン司教なのかもしれません。この指輪をルーク司教に見せればはっきりすると思います」
指輪を拾い上げると、僕はポケットに収める。
「でも、それじゃあもともとこの洞窟に居た怪物はどうなったんだよ」
僕は戦慄と共にポケットの中の指輪を手のひらに感じていたけど、その意味はリリーには伝わっていないようだ。
当然だろう。リリーは僕を襲った怪物を見ていないのだから。
「僕たちが来たときにここに居た怪物は、もともとこの洞窟に居たやつではなかったと思うんです」
僕が言うと、リリーは不審な表情で、どういうことだ? と聞き返した。
「多分、もともとこの洞窟にいた怪物は、カルビン司教によって倒されたのでしょう。でも、その時カルビン司教は変身してしまった」
そう、この想像が僕を恐怖に陥れているのだ。
「変身? 何に?」
「僕を襲った恐ろしい怪物。その足にはカルビン司教の衣が纏わりついていたんです」
その時の映像を思い出してゾッと寒気がした。
「なんだよ。それじゃあ、ライムやルークをぶっ飛ばしてお前を襲った怪物がカルビン司教だったってことか?」驚きのあまりかリリーの声が一段高くなった。
「カルビン司教の痣は身体中に大きく広がっていたそうです。なんでも善行を一つ重ねるごとに痣が広がり、その痣が全身を包みこんだとき、サタノスと一心同体になれると彼は信じ込んでいたようなんです」
善行とはサタノスの能力を使うことと同義だ。
僕の言葉にリリーは黙り込んでしまった。
二人で洞窟の出口に向かう。
洞窟の途中に散らばっていた衛兵の死体は片付けられた後だった。
血の匂いだけが残っていた。
外の眩しく明るい世界に出てくると、すべてが夢のように感じられる。
でも確かめないといけないことがあるのだ。
僕はゆっくりローブをまくり上げた。
裸の下半身に風が当たりひんやりと股間が涼しくなる。
「おへそにあった紅い痣はどうなってますか?」
自分で見てわかってることだけどリリーにも聞いてみる。
「うーん、少し、大きくなったかな。いや、気のせいかな。お前が変なこと言うからだよ」
リリーは無理やりな笑顔でそう言うけど、僕にはすでにわかっていることだった。
紅い痣は広がっているのだ。
多分、僕がサタノスの力を使うごとにこの痣は大きくなっていくのだろう。
そしてこの痣が僕の全身を覆ったとき、僕はサタノスに変身してしまうのだ。
僕が意識的にサタノスの力を使ったことはないが、さっきみたいに絶体絶命のとき、自動的にサタノスの力が発動してしまうのだ。
それを止めることは僕にはできない。
「そんなことまだわかんないだろ。勝手に決めつけるな」
怒った顔のリリーが僕を睨んでぐっと顔を近づけてきた。
頭突されるのかと逃げようとしたら、リリーの左手が僕の後頭部を支える。
そのままリリーの唇が僕の唇に合わさった。
え? キスされているのか? 驚いていると彼女の甘い舌が僕の舌先を絡め取るように入ってきた。
この三年で僕よりも肉体的に強く成長した彼女の力強い腕に抱かれながら、甘いキスを交わす。
すうっとリリーの顔が離れた。
そして優しい目で僕を見る。
「お前を変身なんか絶対させないからな」
リリーのその言葉に、僕は涙があふれるのを感じていた。
29 明日はハイルース山へ
「これは、確かにカルビン司教の指輪のようですが、どこにあったのですか?」
ルーク司教は指輪を確認した後、そう言った。
回復魔法で怪我は治療したようだが、まだ顔色が悪い。
横では同じ様に沈んだ表情のライム司教も頷いている。
僕には予想通りだったけど、リリーはショック受けたみたいだった。
「この指輪は、僕らを襲ったあの怪物がはめていたものです」
正確には、僕が目覚めたときにその洞窟内にあった白骨死体の指にはまっていたもの、だけど、面倒なのでそう言い切った。
「私が気絶していた後、あなたがあの怪物を倒したのですか?」
ライム司教が聞いてきた。まだ頭がはっきりしないのか、指輪をはめていたのが怪物だったということには反応しない。
見るからに非力な男の娘サキュバスにそんな力があるのか、疑問に思う眼だった。
ライム司教もルーク司教も怪物に襲われたところまでは記憶にあるが、その後、目が覚めてみると、この教会のベッドに寝かされていたということで、まだ事情が飲み込めていないようだ。
「僕の命が危機にさらされると、自分の意思に関係なく僕の中のサタノスの能力が発動してしまうようなのです。以前、山賊に襲われたときも同じようなことがありました」
僕が言うと、二人は納得したように頷いた。
「いや、ちょっと待て。あの怪物の指にその指輪がはめられていたっていうのは? カルビン司教の物を奪って、というのは変だよな」
ライム司教が、やっとそこに気づいたようだ。
あの怪物はカルビン司教が変身したもので、ピンクの痣が全身を覆ったときにその変身が起こったという僕の考えを二人に聞かせた。
「そんな馬鹿な。信じられない」
ルーク司教が叫んだ。
信じられないというのは、信じたくないと言う意味だろう。その気持はわかる。
ルーク司教自身にもその痣が体を覆い始めているのだから。
「とにかく、僕はこれからロイナース師の助言をもらいにハイルース山に登ってみるつもりです」
僕が言うと、それなら私も同行しますとルーク司教がかって出た。
ライム司教は留守番ということになった。
とはいえ、今から登るのは無理がある。これから暗くなっていく中で狭い崖っぷちの七千階段を登るのは危険だ、ということもあるし、まだルーク司教も体調が回復していない。
出発は翌朝ということになる。
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「それで、どうして無傷だったの? 話聞いてたら、トラックに轢かれて死んでいてもおかしくないように聞こえたけど」
草原に座る凛々子が聞いてきた。周囲は柔らかな日差しに満ちた広大な風景が広がっている。
凛々子と言ってもゲーム内のキャラだから、リリーなのだけど。
「それが、おかしいんですよ。僕を轢きそうになったトラック、ドライバーがどういう操作したのかわからないけど、変な具合に動きを変えて僕の身体スレスレで横転してしまったんです」
ソラリムのゲーム内で、僕は凛々子と話をしているのだった。
今日の地震、かなり揺れたように思ったけど、近隣の被害はそれほどでもないようだった。
家具が倒れてけが人が数人出た程度だったのだ。
晴れ渡った空がとてもきれいだった。
小さなメガネ型モニターのお陰で、視界のほとんどがソラリムの景色を映している。
首の動きとはまだ連動していないから、それはまだコントローラーの出番だけど、視界だけでも十分その世界に生きてる雰囲気を味わえる。
「凛々子さんの方は大丈夫でしたか?」
僕が聞くと、
「俺の方はなんてことなかったよ。部屋の中でふらついたけど、家具は固定してあるしな」
凛々子が答えた。
最近、凛々子はゲーム内では男言葉を話すようになっていた。
このキャラにはこれでしょ、といたずら小僧みたいに笑った凛々子の顔を思い出す。
そのリリーもキャラメイクで少し変えたのか、ボディがずっと色っぽくなっている。
お尻が少し大きくなっているし、露出の多い忍者スタイルからは太腿がむっちり人目を引きつけている。
「ところで、お前はサキュバスの訓練してるか?」
凛々子が問い詰めてきた。
サキュバスの訓練とは、アナルオナニーのことだ。
男の娘サキュバスは、お尻の穴で男とセックスして精液を吸い取るという設定なのだ。
だから、現実の僕にも、お尻でセックスできるように訓練しろと彼女は命令してきたのだった。
「まあ、それなりに頑張ってます」僕はそう言ってごまかす。
「じゃあ、今度あったときにディルド突っ込むからな。それでトコロテンできなかったら、鞭打ちのお仕置きだからな」
凛々子は薄く笑ってそう言った。トコロテンというのは、アナルを犯されて精液を漏らすことだ。精嚢が押されて精液を漏らす場合と、前立腺を刺激されて射精してしまうときの二種類ある。
いずれもアナル調教が進んでいないとうまくできないらしい。
話をしているのは凛々子じゃなくてゲーム内のキャラクターのリリーだけど、その表情もきちんと本人をトレースしているみたいだ。モニター付属のカメラが、本人の表情をトレースしてゲーム内のキャラクターに投影する技術も進化している。
ここ数年のゲーム機の進歩に驚いてしまう。
「ほら。裸になってこっちにお尻を向けてみろよ」
凛々子(リリー)が命令する。
僕はコントローラーを操作して後ろを向くと、衣類を脱ぐ設定にして、四つん這いになってリリーにお尻を向けた。
ヒュンと音がして僕のコントローラーが振動した。
一人称視点だからわからないけど、鞭で尻を打たれたようだった。
痛みは感じないけど、屈辱感で胸がキュンとくる。
「うーん。やっぱり実際に鞭打ちしないとつまんないな。じゃあ。冒険行こうか」
凛々子が言って、リリーが立ち上がった。
今日の冒険は、村の村長に聞いた洞窟の魔物がりだった。
30 夢からヒントはもらえない
「リリーさん、夢、見ましたか?」
目が覚めるとすぐに、僕は隣りのベッドに寝ているリリーに聞く。
リリーがむっくり身体を起こした。薄い下着ごし、リリーの胸がぷるんと揺れた。
「うん。なんか忍者みたいな格好してたな」
ソラリムのゲーム内のリリーの衣装のことだ。やはり同じ夢を見ていたみたいだ。
「村長に頼まれた魔物退治に行くって言ってたけど、ゲームの中にはカルビン司教もいなかったし、やっぱりこの世界をそのままトレースしてるのではなさそうだな」
リリーの言う通りだ。向こうの世界のゲームはあくまでゲームで、この世界の現実と同じではないのだ。
「ということは、やっぱり夢からヒントか何かをもらえるというのは無理ですね」
少しは期待していたのだけど。
「まあいいさ。今日はまたあの階段登りだからな。朝飯たくさん食っとくぞ」
リリーがベッドからひょいと降り立って大きく伸びをした。
下着姿のリリーの胸の膨らみが僕をときめかせる。すっかりお年頃の彼女なのだ。
男の娘サキュバスとして、僕の性行為の相手は男なんだけど、若い女性の胸元に胸キュンする男心がまだ少しだけど残っている。
それは僕自身にとって嬉しいことだった。
僕はサキュバスだけど、まだ一応男という自覚はあるのだから。
朝食のテーブルでは、ルーク司教の顔色がさえなかった。
昨日はハイルース山に自分も行くと張り切っていたのに。
どうかしたのか聞くと、上着の襟を広げてみせた。
「紅い色が思いのほか広がってしまっているのです。手先から始まった変色がすでに胸まで来てしまっています。時間が立つほどに広がる速度が早くなるようです」
浮かない顔で彼は言った。
以前はこの変色こそサタノスの祝福で、これが全身に広がったときに完全なる仮神になれると喜んでいたのに。
僕の推測を聞いたことで、その考えが180度変わってしまったようだ。
僕の言葉を信じられないと言ってはいたけど、彼の思い込みには根拠などないものだったわけで、僕の言い分のほうが合理的だと思わざるを得なかったのだろう。
「でも、まだ僕の推測が正しいと決まったわけではないですから」
ついそんな事を言ってしまった。
「そういえばジュン様はどうなのですか。もともとジュン様がサタノス神と交わったのが最初なのですから」
ルーク司教の横の席でライム司教が訊いてきた。
なるほど、その疑問は当然だ。
「僕の方もお腹の変色が広がっているようなのです。だからロイナース氏に意見を聞きたいと思って」
「でも、それって変ですよね。サタノス神の力はすでにジュン様の中に宿っているわけで、今現在のジュン様が自分を見失っていないのなら痣のことは関係ないはずでは?」
ライム司教の言い分はもっともだ。なかなか頭いいな。
実際どうなのだろうか。
「いや、でもジュンの中のサタノスはまだ覚醒してないわけで、それなら今のうちに消去してしまえばいいんだよ」
僕の横でリリーが叫んだ。
「だからハイルース山に行くんだ。ロイナース師が追い出してくれるよ。そうだ、何だったらあのショタ法師の五蔵呼べばいい。あいつならなんとかしてくれるだろう」
ショタ法師五蔵のことなんてルーク司教たちが知るわけもない。
でもリリーはそんな事、気にもしてなかったのだろう。
リリーはいつも以上に感情的に思えた。
もしかして、僕のことを心配してくれてるんだろうか。
僕はそれが嬉しかった。
朝食を済ませて、僕ら三人は厩から馬に乗って出ていく。
留守番のライム司教は最期まで心配そうに見守ってくれていた。
先日と同じように、僕はリリーの馬に乗せてもらっている。
手綱を持つリリーは僕の後ろで、僕を抱きかかえるみたいに馬にまたがっている。
年の離れたお姉さんに世話してもらっている弟みたいなポジションだ。
カッポカッポと乾いた馬の蹄が響いて、階段を登っている。
左側の崖の下にロリテッドの町並みがゆっくり遠くなっている。