ドSな彼女 Ⅲ-17
17 トリプルデート
翌日の日曜日、早速三人でデートすることになった。
指定された時刻に近くのバス停に行くと、片岡先輩がすでに来ていた。
グレーのパーカーは昨日と同じだったけど、下は昨日のジーンズとは違って、カーキ色のカーゴパンツを履いていた。
「おはようございます、片岡先輩」
僕が近寄って挨拶すると、薄曇りの空を見上げていた先輩は、おうと答えて僕の頭をくしゃくしゃっとなでた。
こんなふうにされるのが嬉しい。なんだか幸せを感じてしまう。
里緒菜さんと二人の時はベスパでよかったが、三人だとそれでは無理だから、今日は里緒菜さんが家の車を借りてくるっていうことだった。
三人でドライブデート。
楽しくなりそうだ。
「片岡先輩はないだろ。橘さんのことは里緒菜さんって行くんだから、俺のことも名前で呼べよ」
先輩は僕の頭をヘッドロックして言う。
「わかりましたよ、修一さん、でいいんですよね、今度からそうしますから、許して」
僕の悲鳴でやっと腕を離した先輩が、僕の額にキスした。
11月も近くなって秋も深まっている。
今日は紅葉でも見に行くのかな。やっと涼しくなってきたことだし、気持ちの良い一日になりそうだ。
二人で待つこと五分位で、一台のカーキ色の軽自動車が僕らの前に停まった。
里緒菜さんだった。
「スズキのハスラーって車だな」
片岡先輩が言った。
乗って、とパワーウィンドウが開いて車中の里緒菜さんが言った。
さあ、ここでどう乗るか。
運転手は里緒菜さんで決まりだけど、助手席に僕が乗るか、修一さんが乗るか。
僕が乗ると修一さんが仲間はずれになるし、修一さんが乗ると僕がおまけみたいだし、かと言って後ろに僕ら二人が乗ると、里緒菜さんが完全に運転手扱いでかわいそうだし。
考えていると、お前は安全な後ろに乗れと言って、修一さんが前に乗った。
まあいいか。僕は後ろのドアを開けて乗り込んだ。
軽自動車だから幅は狭いけど、天井が高くてゆったり乗れる。
「とりあえず海の方に行くね」
いつものライダージャケットではなく、水色のワンピースに白いカーデガン姿の里緒菜さんが車を発信させながらそう言った。
今日はいつもの眼鏡をしていない。薄い色のサングラスをかけていた。
耳には金色のリングピアスまで。
なんだかいつもと違うなと思ってしまう。
「可愛いですねハスラー」
修一さんが里緒菜さんに挨拶していう。
「私が選んだんだよ。家の車だけどね。色々使いやすいから」
ウインカーを出して里緒菜さんが車を発進させた。
「後ろをフラットにして、全裸に剥いたミチルを縛って転がしておくのも面白そうですね」
「うふふ、修一くんこんなこと言ってるよ、ミチルくんどうする?」
里緒菜さんがルームミラーで目線を送って僕に言う。
いつもと違う里緒菜さんに見つめられて、ドキンとしてしまった。
「そんなの、見つかったら通報されますよ」
僕が声を大きく言うと、そりゃそうだと二人が笑った。
なかなか雰囲気いいじゃないか。トリプルデートはそうやって発進した。
住宅の立ち並ぶ坂道を登って、峠を一つ越えると海が見えてきた。
じわじわ標高を落としてT字路を右折すると、シーサイドラインだ。
ベスパの時なら、ふわっと海の匂いがする所だけど、今日は車だからなんか物足りなく感じる。
「今までいろいろSMプレイをしてきたって聞きましたけど、どんなのやってみたんですか? 俺も少しはSプレイ勉強しないと」
修一さんが里緒菜さんに質問した。
「そうね。縛り上げての寸止め手コキに、アナル責め、あと乳首責めもしたわね。乳首に洗濯ばさみ、あれ痛そうだったね」
ふんふんと里緒菜さんが答える。
あの洗濯ばさみは痛かった。あれは想像以上だったな。
僕も思い出してゾクリとした。
「それから、尿道責めもしたね。あれ、どうだった?」
里緒菜さんが僕に訊いてきた。
「あれは、痛いというのもあるけど、とにかく怖かったです。いつズキンとくるかドキドキで」
僕が答えると修一さんは興味深げに里緒菜さんに訊く。
「へえ。尿道に何か入れるんですか?」
「導尿用の医療用カテーテルとか、でもステンレスの先の曲がった棒、ブジーっていうんだけど、それが簡単かな。シリコンよりも金属の方が滑らかで滑りが良いから痛みも少ないし、怪我もしにくいのよ。あと、中空になってるチューブ状の物よりはただの棒が良いわね。中空だと中まで消毒するのが難しいから毎回煮沸消毒しないといけなくて、面倒なんだよね」
「へえ、詳しいですね」
修一さんが感心している。
「まあ、一応医学部だし」
「え? 里緒菜さんって医学生だったんですか?」
驚いてつい訊いてしまう。
女子大生ってことまでで、学部まで聞いてなかったっけ。
「言ってなかったかな? 私と遠藤さんは医学部で向井さんは工学部、田中さんは文学部だよ」
初めて知った。そんなことが話題にならないくらいに、エッチな事ばかりしていたってことだ。
そう言えば小説書くのが趣味とか、文学クラブの集まりとか聞いていて、僕はてっきり里緒菜さんは文学部だと思い込んでいたのだ。
「だって、そうじゃないと尿道責めとかアナル拡張責めとか素人には無理があるでしょ」里緒菜さんの言うのは一理あるか。
「なるほど。おチンコ好きだから泌尿器科医を目指してるんですね?」
修一さんの言葉に、ウフフと笑って里緒菜さんが、当ったりーと嬉しそうに叫んだ。
しかし、女子大生と医学生じゃあ、里緒菜さんのイメージがだいぶん変わる気がする。良い方に変わるのは問題ないんだけど。
坂道を上って大きく右にカーブしたところで里緒菜さんが言った。
「あの店でランチだよ。イタリア料理店だからピザかスパゲティ食べようね」
薄いオレンジ色の壁の洒落たレストランが見えてきた。
赤、白、緑のイタリアの国旗が風になびいている。
いつの間にか、薄曇りだった空は透き通って青い色がきれいに晴れ渡っている。
気持ちいい日だなあ。三人で楽しむランチの後は、どんなふうなんだろう。
サディストの勉強を進める修一さんには少し不安もあるけど、それもまた期待に変わっていくようだった。