People in The Boxというバンド
初めて聴いたのは『はじまりの国』という曲だった。
当時大学4年生だった自分がTSUTAYAでジャケ借り(ジャケット写真を見て視聴せずに借りる)したなかのアルバムに入っていた。
たしかほかに借りたのはnico touch the wallsとかcinema stuffとかそういうのだったと思う。
イントロのギターの突き抜けるような『青さ』が晴れ渡った空を連想させ、またボーカルの少年感のある声にもAメロ終わりに入る不思議な展開にも物語性が溢れていたのが印象的だった。
このアルバム『Frog Queen』は戦争を想起させるような不思議なアルバムだった。
そこかしこに「独立記念日」や「流血のあと」「地球にタバコを押し付けて」「鳴るよ、トランペット」など、戦争に関連しそうな言葉が目白押しだ。
なかでも、
-僕は戦争の本を読んだ 取り憑かれてしまった
残酷な、残虐な部屋に立って
このクリーム色の壁紙には
どれだけの言葉が染み込んでいるんだろう
『一度だけ People in The Box』
この歌詞は自分にとってはアウシュビッツ収容所を強く連想させた。
こんなバンドがいたんだと衝撃だった。
でもまだハマることはなかった。
数年後、たまたまYoutubeで『月曜日/無菌室』の動画を見た。
このバンド知ってるぞ…そうだ、あのバンドか!と。
そのあと気になって『Frog Queen』を聴きなおしてみた。たぶん5年ぶりくらいだったと思う。
そしたら驚いた。だってあの時と聴こえ方が全然違ったから。あんなに難解だったフレーズも単調に聴こえていた演奏部分もドラマチックに色がついて、まるで小説から映像化された映画を見直しているようだった。
それからPeople in The Boxというバンドが大好きになった。
People in The Boxは難しい。おそらくほぼすべての人はPeople in The Boxを初めて聴いたときにピンとこないと思う。キラーワードもないし飛び抜けたキャッチーさもない。だから入り口がものすごく狭いバンドなんだろうなと思っている。だけどどうだろう。一回入り込んでしまうともう抜け出せない。
People in The Boxは物語を紡いでいる。そしてそれは誰も主観的にはなれない物語だ。どの楽曲も私たちの気持ちを代弁しようとはしていない。あの時はこんな恋をしてたなぁという若気の至りや焦燥感を歌っていない。あくまで客観的に一歩引いた時点でその場面を切り取って覗いているものばかりに思える。だからこそ年月が経っても本を読み返すように普遍的に存在している。いつでも登場人物が揺るがぬ存在感を持ってそこにあり続けている。そこに私たちの主観性は要らないのだ。
音楽に共感を求めるリスナーはとても多いと思う。それは音楽が自分の言葉にできない思いを代弁してくれるからであり、そこに救われる人が多いからだろう。
でもそうじゃない音楽にも触れてほしい。音楽というものの可能性はもっと広い。People in The Boxは私にそれを教えてくれた。
ありがとうPeople in The Box。君たちに出会えたことがなによりも幸せだ。できれば周りにもっと薦めやすい楽曲が増えたら…いや、良さに気づける人が気づいてくれればそれで良い…いやでも…という葛藤はこれからも続いていくだろう。