婚活七福神~40女幸せ婚の叶え方~第22話 婚活で作家になる?②
「……できないです。
諦めるなんて、できないです」
こぼれた涙は頬をつたい、
ひざの上で握りしめたこぶしの上に落ちた。
わたしは泣くほど作家になりたかったのか。
それなのに、なんでわたしは書かなかったのだろう。
自分の怠惰に反吐が出る。
いつの間にか、わたしの傍らにいたえび天が、
そっとわたしの方に手を置いた。
「……えび…すさま」
涙に濡れた顔をあげると、ほんのりワンカップの匂いがした。
「確かに作家になるんに期限はあらへん。
そやけど、自分んなかの感情に火ぃつけな、一生作家にはなれへんのや。
今自分、火ぃついたやんな?」
えび天がにかっと笑った。
「……はい」
へにゃっと口を持ち上げたら、
また涙が溢れだした。
「よっしゃ!
そうとなったら早速婚活じゃあ!!」
えび天は右手を突き上げて仁王立ちになって立ち上がった。
一瞬、何が起こったのか分からずにえび天を見上げた視線の先に、
壁掛け時計の時間が飛び込んできた。夜中の2時!!
「……や!!ちょっと!!
なに大声出してんですか!!
今、何時だと思ってんですか!!」
両手をメガホン代わりに口に当てて、
極力声をすぼめてえび天に訴えかける。
「てか、だからなんで作家になる話から婚活になるんですか!!」
近所迷惑も理解できない上に、言っていることが支離滅裂すぎる。
ちょっとでもいい奴(神)かもと思った自分が情けない。
とにかく、これ以上しゃべらせないようにしないと。
えび天を止めようと立ち上がろうとした途端、
「そうと決まれば善は急げや!」
えび天は再び叫んでから狩衣の隙間に右手を突っ込むと、
A4サイズの紙束を掴みだしてわたしに押し付けた。
「ここにやること書いといたから、
ちゃちゃっと読んでサクサクっと実行しといてな!
じゃ!!」
バンッ!!
言うが早いか、
えび天は玄関まで駆け寄り勢いよくドアを開け放った。
だから、深夜2時だって。
そのまま走り去ってくれれば良かったのに、
思いっきりタメを作ってからえび天は振り向いた。
「わしがおらんで寂しいかもしれけど、
全部出来たらまた来るさかい、
それまで自分……頑張ってやり遂げるんやで」
人情芝居がかったセリフは、
お茶らけているとしか思えなかった。
「あ、わしは来れへんけど、
他の七福神が課題するごとにチェックに来るさかい、
それで寂しさ紛らわしてな」
ばちりとウィンクして、えび天はようやく出て行った。
わたしはえび天がいた扉のあたりを呆然と見つめた。
身体から力が抜けて、手から紙束が零れ落ちた。
頬の涙は完全に乾ききっている。
つづく
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