花組『アルカンシェル』の感想8

 5月4日11時の阪急貸切公演の感想です。
 
 4月に見たときよりさらにいろいろな人の気持ちが細やかに伝わってきて、すごく物語に引き込まれました。柚香さんのお芝居を見ているときの、今、目の前で人の気持ちが動いているのが感じられる楽しさが、いろんな人から感じられて嬉しかったです。この人ってこういう性格の人なんだろうな、というのが台詞で語られている以上に想像できて、ここに来てますますこの作品世界が好きになりました。
 
 あと、パリが解放されたときのマルセルのようすがものすごく印象的でした。
 気持ちがすごく伝わってくるのに、伝わってきた気持ちを言語化しようとするとうまくできなくて、生のままの感情をそのまま渡されたような気分でした。今まで見たこの場面のなかで、一番リアルで、深い感情に触れた気がします。
 
 今までは、「辛い時期がやっと終わったことを時間をかけて飲み込んでいるんだろうな」とか、「フリッツやジョルジュへの複雑な感情を胸のうちに収めようとしているのかな」とか、伝わってくるマルセルの気持ちを租借しながら見ていたんですが、このときは、無理に租借しようとすると大事なところがこぼれてしまうような気がして、ただ「この物語の末にこの表情なんだな」とそのまま受け取りました。毎日、戦争の悲しいニュースを見ているせいか、大規模な災厄が同じ人間の手で行われた悲しさを受け止めているようにも見えました。
 
 マルセルの部屋で、レビューへの思いを語るカトリーヌを見つめるマルセルの眼差しも、やっぱり簡単には言語化できない思いに満ちているようで、もう十回以上見ている場面なのに、初めて見るみたいにドキドキしてしました。
  
 その前後の気持ちは、いつもどおり詳細に伝わってくるんですよね。
 本当は好きなんだけど好きになってはいけない相手を部屋に呼ぶ緊張感とか慎重さが感じられたり、椅子やコーヒーを優しくすすめる声には結局嬉しさがにじんでいたり。 

 でも、ベッドに腰かけてカトリーヌを見つめるときの眼差しは、カトリーヌが無事でよかった、とか、自分の部屋に好きな人がいる眩しさとか、大切な話を聞かせてくれる嬉しさなどを、表に出さずにこっそり噛みしめてる感じもしたし、恋してはいけない相手だからと思いを抑えようとしているようにも見えたし、とにかく一言では表せない思いが詰まっていて、すごく素敵でした。
 
 柚香さんのお芝居は、なんで直接言っているわけではないのにこんなに感情が細やかに伝わってくるんだろう、と不思議に感じることが多いのですが、今回は、それを越えた表現を見れた気がして、見に行けてよかったな、とすごく思いました。
 
 他に特に好きだったところや思ったことです。
 
・髪型!
・落ちている花束に近づくピエロ、やっぱり好き。
・コーエンに「アルカンシェルは夢を売るんだ」と言われたときに、「だからこういう夢を見せたいんだ」みたいなことを言い返したそうだったところ。
・「たゆたえども沈まず」の前半の表情。あと、前よりいろんなところを見てくれてる? 一階上手側だったため、四小節ぐらい真っ白になって記憶が飛びました。手を差し伸べるのは反則過ぎる。
・ダンスの監督、今までで一番厳しめ? カトリーヌが演出を、となったときの、プロの演出家なしのショーなんてありえない、って思ってそうな首の振り方とか、ピアノ伴奏もできることから考えると、もともと自分のダンスだけじゃなくて、舞台全体について自分なりの考えをしっかりと持っている人に見える。あと、ダンスを教えているところ、すごく好きなので長く続いてくれて嬉しいです。教えられてときめいてた娘役さん、いつも可愛い。ドイツ兵の検閲のときにも能天気な感じで、そばの男役さんがあわててやめさせるところ、逆に緊迫感がリアルに感じられて好き。
・マルセル、カトリーヌ、ジョルジュの言い争い、またもや変わっていて、すごく好き。
・ポールの「ワーオ」と「俺でも弾ける」。不敵な感じで好き。
・「SWING」でカトリーヌと踊るところ。さっき口喧嘩して、そのあと歌と伴奏で協力して、そして今はこの表情なのね、という心持ちで見てる。
・それにしても、毎日グリッサンドしてる柚香さんの指が心配。
・青きドナウジャズバージョンリハーサル後半のさいご、マルセルをずっと見ていたい気持ちと、カトリーヌのほうも見ないとやりとりがわからない気持ちに挟まれる。
・夜の街で喧嘩になりかけた相手を逃がしてあげるジョルジュ。こういう長所をアルカンシェルで発揮するタイミングがなくていられなくなったのかな、と切なくなる。
・ナンパの手際が鮮やかすぎるドイツ兵と、しなやかで強そうなパリっ子(レジスタンス)。
・振り付けを変えていい?と言われたときの、「君たちを信用しよう」を言うまでが今までより悩んでて、そこからの「遅くまで付き合ってくれてありがとう」が優しくて好き。
・コンラートが椅子の背を撫でるところ、ぞわぞわってなる。素晴らしく悪役。
・マルセルの部屋で「俺たち似てるかもしれない」と言ったときの笑顔。すぐ両想いになるって知ってるのに、情緒をかき乱される。
・尋問のリアリティがすごい。確実に内蔵にダメージを負っているので三か月ぐらい安静にしてほしい。
・尋問のあと、フリッツに拒絶反応? 同じく最大の被害者であるイブをかばったあと、フリッツの言葉で気持ちが変わっていくのが好き。アネットとフリッツの仲を冷やかす感じだったのが楽しくて好きだったけど、考えてみればイブの心配でそれどころじゃないね、と冷やかさなくなったことにものすごく納得。
・慰問先でのカトリーヌの「待ちましょう」。寄り添うような優しさで始まって、皆の心にすっと入ってきたあと、朗々と響く感じで、すごく好き。
・慰問先でペペと歌うイブがちょっと笑い声をあげたのが、すごく涙腺に来た。
・コルティッツが、面倒なこと押しつけられたお偉いさん感が強くて、連合軍と取引してさっさと逃げたという顛末にすごく納得。
・爆破を止めにいくマルセルが、戻ってこれないかもしれないと告げたとき、強がりで返して、かえって皆を笑わせてしまうカトリーヌを見るマルセルの眼差しがとてもとても好き。
・基本強がってるカトリーヌが、ぴょんってマルセルに抱きつくの、ほんと可愛いし、くるくるしてる二人があまりにも少女漫画なシルエットで大好きすぎるし、虹に気づいて気をとられながらおろすところが最高に好き。

 まだまだたくさんあるのですが、明日も見に行くので続きはまた書きます。
 
 ところで卓上カレンダーの柚香さん、4月はれいざさんが背中を見せていて、去って行ってしまう感じだな、寂しいな、と思っていたのですが、5月の柚香さんは、いったいどこに帰るの?という感じで、見るたびに笑ってしまいます。

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