花組『アルカンシェル』東京公演の感想
4月20日の11時公演を見てきた感想です。
話のスピード感がすごく上がったように感じられました。
以前は冒頭から「たゆたえども沈まず」までが一息に進み、そこから苦難の時期が続く、という感じでしたが、東京公演では、冒頭からパリが解放されるまで一気にお話が進んだ感じがしました。
そんななか、緊迫したドラマ、華やかなショー、ほっとする日常、柚香さんのいろんな見所(マルセルの「仕事に私情を持ち込まない」主義が実践されて、ダンスがさらにかっこよくなったように見えました)が立て続けに展開し、見ごたえがすごかったです。あらためて、一つの作品にいろんなものがぎゅっと詰め込まれているな、と感じました。
話のスピード感があがったのは、マルセルが以前より前向きな性格になっていて、物語をぐいぐいけん引したことと、いろんな人の台詞や行動が物語の細かな文脈をつなげて、お話の強度を上げたことにあると思います。
登場人物は全員が同じ方向に進んでいるわけではないのに、それぞれの物語がいきいきと見えてくると、メインストーリーの活きもよくなるような、そんな感じでした。
あと、以前より前向きな性格のマルセルが、苦境にひるまずに歌う「たゆたえども沈まず」が力強くて、すごく印象的でした。
大劇場公演では、理不尽に生活を壊される悲しみや、いつ明けるともわからない苦難の時期の辛さが描かれていたけれど、東京公演では、苦境にひるまず、希望を持ち続けて生きる強さが讃えられているように感じました。
どちらもすごく好きなのですが、特に、辛さや弱さを丁寧に追究したあとに強さを表現するという順番が好きです。
印象的だったのは、地下水道ですべてが終わったときの場面です。以前は、やっと長い苦難の時が終わったという感慨深さが強く感じられる場面でしたが、東京公演ではそこが控えめで、そのぶん、このあとどうなるのかわからないフリッツやジョルジュへのなんとも言えない気分が前面に出ていた気がします。マルセルはジョルジュを連れて帰りたそうだったけれど、ジョルジュは軍の帽子をかぶりなおして、すごく切なかったです。フリッツも、あの場にいるのは、左遷された先で、なおマルセルたちのために動いたせいなのに、そこがマルセルに伝わってなさそうな感じが辛い……。それまでずっと前を見据えつづけてきたマルセルが、そのあとも前進し続けるために、彼らへの感情をどうするのかが気になって、もうお話のなかの人物というより、ふつうに現実の人と肩を並べて生きてる人を見る気分で見守っていました。
他に、投降するドイツ兵を見送るパリ市民たちの合唱の場面も印象的でした。初めて見たときは、いたたまれない気持ちになって、ドイツ兵役の人もここだけはパリ市民役になればいいのに、と思っていました。でも、旗を破るときには喜び一色だったパリの人たちが、相手が人間になると、喜びのほかに怒りや悲しい抗議の表情をする人、仲間や大切な人がそちら側にいて辛くなる人と、反応が千差満別で、何度も見るうちに印象深くなっていったのを覚えています。そして、東京公演で、作品のテーマが前進する力強さに変わったなと感じたとき、この場面の、すごくいろいろな表情をした人たちが声を合わせて歌う「たゆたえども沈まず」の複雑で深い響きが好きだと思いました。
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