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植物とともにあるアカの暮らし|あいだラボ 北タイ・食薬FW
2024/11/8-11に、北タイの山岳少数民族「アカ」の食薬に関する伝統知を学ぶフィールドワークに参加してきた。コロナ禍前ぶり久々の海外にちょっぴりドキドキしつつも、これまで学んできた農業経済学と、今学んでいる人類学とが交差しそうなテーマでとても惹かれた。
アカ(Akha)とは?
アカは東南アジアの山岳地帯に暮らす少数民族の一つで、中国の雲南省を中心にラオス、ミャンマー、ベトナム、タイなどに散在している。タイには約120年前、中国南西部から移動式焼畑を営む中で移住してきた。現在では、チェンライをはじめとする北部7県の山地に、約7万人が居住している。言語はチベット・ビルマ語族に属するアカ語を話し、文字はもたない。「アカ・ザン」という、アカの人々のアイデンティティや自然界との関係性にまつわる様々な神話、儀式、習慣が含まれる総合的な文化的枠組みが今なお伝承されている。
今回のフィールドワークは、アカの伝統知の継承者であり、「Akha Life University」を主宰する Athuさんにナビゲートしていただいた。Athuさんのお父さんはシャーマンだったそう。
フィールドノート
ラトゥパ(おもてなしセレモニー)
1日目はチェンライ中心部近くのAkha Culture Centerへ。アカの伝統的な生活や世界観を次世代に継承するためにAthuさんが創設した文化体験施設。
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夕食は「ラトゥパ」というおもてなしセレモニーのごはんだった。重ねた両手の上に置いてもらったゆで卵、チキン、ごはんを一緒に食べる→ウイスキーを飲む→先祖を表す黒い紐を料理の上で3回まわす(=先祖が料理を食べている)→男性は右手に、女性は左手に結んでもらうという流れ。これによって精神と身体が離れているのを紐でロックするのだそう。
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私もやらせてもらったけど難しかったや笑
村で音楽教室
2日目。昨晩たくさん飲んだからということで、腎臓に効く黒サトウキビのお茶を作ってくれた。
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チェンライ市内から車で1時間ほどのところにある山間部のアカの村へ。親のいないアカの子たちの寮があって、そこで週に1回アカの伝統的な楽器を教えているそうで、参加させてもらった。
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この日は村にある Athuさんの実家に宿泊。
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「オマ」の儀式
3日目。昨晩もたくさん飲んだからということで、肝臓に効くハーブティを淹れてくれた。その日の体調に合わせて庭に生えてる植物をとってきてお茶淹れるとか最高だな、、、
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この日はとある儀式に参加させてもらった。この儀式は「オマ」というアカの伝説で神様からもらったとされる米粒が小さい稲が見つかった時にだけやる。60歳のAthuさんもこれまで2回しか経験がないくらいめったにないことで、滞在中にたまたま参加できてめちゃくちゃラッキーだった。
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儀式の間、男性は豚押さえたりしてたけど、女性の多くは私たちと同じように動画を撮っていた。めったにない儀式だから、動画も活用しつつ継承していくのかな?みんなで撮影しててなんか不思議な感じだった笑
ちゃんと見ていられるか不安だったけど、案外しっかり見れた。豚の血が噴き出す音と内臓がでろんって出てくる感じが、脳裏に焼き付いている。
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山を散策
儀式後、豚を料理してくれている間に、私たちは山を散策。
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ごはんを食べた後、帰り道にAthuさんの山にも寄った。タイには竹が12種類もあるらしく、日本のとは違って1本1本生えているんじゃなくて、一箇所から複数本まとめて生えているような感じだった。私には違いが全然わからなかったけど、種類で用途も決まっているみたい。
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シャーマンの庭を散策
Athuさんのお父さんはシャーマンで、実家の庭というか森には治療とかに使ういろんな植物があった。近所のモヤ(薬草医)のおっちゃんと子どもたちと一緒にまわった。ちなみにモヤになる方法は①親から継ぐ、②夢にでできてハーブの使い方がわかるようになる、③学ぶ の3つ。でも、西洋医療が入ってきて、こういう伝統医療は政府が認めておらず違法になってしまうそう。それに若い世代は西洋の薬の方が効果が出るのが早いからそっちを使う。日本も明治維新の頃に経験しているけど、国家による医療の制度化・一元化はとてももやもやする。
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朝お茶を飲みに行った親戚の家で、儀式に参加した人たちで夜ごはんたべてから、Akha Culture Centerに戻った。軽トラの荷台に揺られながら見る星空が最高だった。
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薬草であれこれ
4日目は昨日とってきた薬草でいろんなものをつくった。
虫除け
シトロン 、シルマコ(こぶみかん) を小さく切って、75%アルコールを入れるだけ。
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アチ(納豆)
においが日本のとはまた違って、少々きつかった笑
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お茶
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ハーブサウナ
めっちゃスースーして気持ちよかった。外気浴しつつハーブティーを飲んでハーブづくし。
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伝統衣装
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振り返って
全体で成り立っている
お庭や森があってこそ、そこに生えている植物を使ったハーブティやごはん、バナナの葉のお皿、竹のテーブル・椅子がある。竹の楽器やそれにあわせた歌がある。囲炉裏やかまどがあってこそ、そこで燻されたかごや納豆がある。アカの文化というか暮らしは全体として成り立っている。一つだけ取り出して成り立つことはなくて、「ホーリスティック」とはこういうことかと。なんとなく頭で理解していたことを感じられた4日間だった。バナナがない都市部(買わないといけない場所)で、バナナの葉を使ったお皿とか包みなんてないだろうし、囲炉裏のない場所で燻した納豆なんてないだろうし。
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たとえば私はフードシステムに関心があるけど、人や環境に良いフードシステムを考えるにも、フードシステムだけ見ててもたぶんだめで。まわりに畑や森がなくて身近に手に入らないけど買って成り立たせるというのはやはり違うし、忙しい暮らしだとそんなことやってられないという問題もある。暮らし全体としてつくっていくことがやっぱり大事で、そうなるとやはり地域という場で暮らしを考えていくというのが必要な気がする。
伝統や文化も全体として成り立っているということを考えると、近代化であらゆるものがぶつ切りにされて壊されている中で、残っていくのってめっちゃ難しい。博物館の展示みたいにパッケージ的に保存されるのではなくて、その伝統や文化のなかで生きる人によって伝えていくものだと思うから、なおさら。
つながることで壊れるかもしれない
私は修論で、都市と地方、消費者と生産者、人間と自然など、市場経済的なものと非市場経済的なものがつながることで、自分ごとになって資本主義社会も変わっていくのではないか?という議論をした。それに対して「市場経済と非市場経済がつながることで、逆に非市場経済が壊れてしまうこともあるのではないか。非市場経済の方を国とかで保護するという方法もあるのではないか。」という質問を受けた。その時はうまく答えられなかったけど、この滞在中になんかわかったというか、掴んだ気がした。2年半経って。
アカの村では国家からの統制や外からの力によって暮らしが変化していることが多々あった(焼畑ができなくなったり、定住したり、改宗したり、伝統的な医療が違法になったり)。外とつながらない方が中がまもられる。ある種鎖国みたいに。高速道路や新幹線ができてまちに観光客がたくさんくると思ったら、通学・通勤圏が広がってまちからどんどん人が流出してしまったとかもそうだけど、つながることの弊害がある。
ずっと鎖国のような状態が維持できるならそれはそれで理想かもしれない。でもそうじゃない現状がすでにあるから、そこから考えないといけない。
最近大学院で人類学者ティム・インゴルドの『生きていること』を読んだ。インゴルドは、私たちの生きる世界は点と点を結ぶ直線のような「ネットワーク」ではなく、織物のように編み合わされ絶えずのびていく線からなる「メッシュワーク」なのだという。たぶんネットワーク的につながるのではなく、メッシュワーク的に出会うということが重要な気がしている。
人類学
人類学者ってまさにこういうところに来てフィールドワークしているんだろうなとリアルに想像できて、人類学を学びはじめた私にとってはとても良い機会だった。
タイ語、アカ語、英語が飛び交うカオスな中、唯一わかる英語を頼りに理解していく。でもめっちゃとりこぼしてて、本当はもっといろいろ聞きたくて、現地語でコミュニケーションをとれるようにならないと始まらないなと思った。アカ語を教えてもらったりもしたけど、聞こえたことをメモしようにもなんて書いていいかわからない…と度々なった。言葉ってわからないと、本当に音の組み合わせに意味を付与しているだけだなと感じた。日本語だと当たり前に聞き取れてしまうし、意味もわかっちゃうけど、その前提が崩れていった感じはおもしろかった。
今回は食薬がテーマだったけど、信仰や伝統文化、国家の制度などそれぞれ関係し合っているから、目の前に起きていることが一体どういうことなのかを理解するには幅広い知識や視点が必要になる。そうなるとたぶん1-2年とかではどうにもならなくて。それは全然知らない外国だからというのはあるかもしれないけど、別に日本でもどこのフィールドでも本当はそういうものなのかもしれない。
自分たちの暮らしとあまりに違いすぎるから、こういう歴史を持っていて、こんな伝統的儀式をやっていて、ということを記述していけば、「へえそうなんだ、おもしろい」ということにはなりそう。でもやっぱり自分たちの暮らしと結びつけて、自分たちのあたりまえをひっくり返したり揺るがすような視点を得て、初めてちゃんと研究になっていくんだと思う。
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