不器用な愛
「ねえ、私たち。またすぐ会えるよね?」
そう言って彼女は僕を見て呟く
20時、広々とした駅のホーム
新幹線を待つ僕たちに
冷たい風が纏わりつく。
高校生から付き合っていたが、
大学進学の為、彼女はこの街を出た
あの頃は何も言わずとも
お互いを近くに感じられていたので
特別な言葉を交わすことはなかった。
しかし、今は違う
想っていることは伝えないと
心が離れていくのはあっという間だ
「もちろん、またすぐ会えるよ」
ぼくは彼女の顔を見る事ができない。
会えるはずなのに、どこか自信がなかった
すると彼女は寂しそうな顔をして
そっか・・。と一言だけ呟いた
新幹線の到着する音がホームへと響くと
プシューッという音と共に
扉が開き、いそいそと皆、乗っていく
「じゃあ、またね。」
彼女はそう告げて新幹線へと乗り込む
僕は小さく手を振って見送る
いつも手を笑顔で振り返してくれる彼女は
今日は居なかった
静かに寂しそうな背中だけがずっと脳裏に残る
本当はこんなことがしたかったんじゃない
ちゃんと、彼女の目を見て
「好きだよ。」って伝えるべきだった
そう気付いても、もう遅い
無慈悲にも新幹線の扉は閉まる
窓越しから見えた彼女は
顔にハンカチをそっとあてている
僕は何をしているんだろう
どうして、あんなに悲しい顔をさせるんだろう
自分にどうしようもない苛立ちを感じた
自信がなかったんじゃない
この状況を変えようとしなかった自分から
目を逸らすことしかできなかったんだ
それが、大好きな彼女を苦しめた
毎日会えていたあの頃とは違う
そう気付いていたはずなのに、
知らないフリをした
僕は本当に最低な奴だ
大切なものは失ってから気付く
そんなの分かっていたはずなのに
こうも簡単に崩れていってしまうのかと
途端に怖くなる
ピコン
僕の携帯がなると
画面に彼女にからのメッセージが映る
「今日もありがと。」
たった一言だけど
この言葉は僕の心に重く響く
彼女の優しさと悲しさと不安と苛立ち
全ての意味をこの言葉は背負っている
「あのさ、あとで電話して良いかな?」
そう僕は返す。
彼女からは、一言「うん。」と返ってきた
もうすぐ冬が始まるのだろう
鼻がツンとするような冷たい風
徐々に冷えていく僕の指
「・・さっぶ。」
そう言いながら自転車を家まで走らせる
家に着き扉を開けると
冷たい部屋が僕を招き入れる
昨日までは、この部屋は暖かみがあった。
彼女が居るだけで
僕の生活はあんなにも豊かになるのに
それに気付かないなんて、馬鹿だ。
そんなことを考えていると
だんだんイライラとしてきて
ベットに勢いよく身を任せた。
ふと上を見ると
さっきまで彼女と見ていた
小さなプラネタリウムがキラキラ光っている
何の罪のない星たちはいつまでも
ゆっくりと天井を照らす
この時した会話さえも
今、思い出す事ができない
彼女と話すのが怖い。
それが今の正直な思いだ
どうなるか、そんなの誰にも分からない
それなのに僕の胸は既にギュッと
締め付けられている
静かに涙が頬を伝う
どうしてこうなってしまったかなんて
分からない。
いや、分からないんじゃない
僕はなにも分かろうとしなかった。
あの時は、
彼女のことを一瞬でも忘れる日は無かった
また明日ね。笑顔で別れてからも
連絡が途切れることはなかった
それに僕は甘えた
本当に彼女は幸せだったんだろうか。
もう、答えは分からない
そんなことを考えていると、
いつの間にか眠ってしまっていた
ひんやりとした感覚がして
僕は夜風に起こされる
スマホを見ると彼女から連絡がきていた。
「ごめん、話そうと思ってたんだけど
今はどうしていいか分からなくて・・
私たち、もう一緒にいるべきじゃ無いのかな・・。」
そんなメッセージを見て
グッと現実に戻される。
君しかいない。と
気付いた僕にはもう遅い。
そとは静かに雨が降り始めた。
❇︎優里さんのドライフラワーを
イメージしながら作りました。
切なく、寂しい夜に
なかなか上手くいくことのできない
不器用な恋愛を重ねていくような
そんなお話です。