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「パラサイト半地下の家族」感想

前回の「アイリッシュマン」に続いて、映画の所感。
これまた評価高い、「パラサイト半地下の家族」。
例によってネタバレあり。

韓国の「万引き家族」

他のレビューを見ていないので解らないが、見出しのような喩えが多くなされているのではないだろうか。
少なくとも私ならば誰かにワンフレーズで伝える必要があれば、「これは韓国の「万引き家族」だ」と表現するだろう。

こう喩えたように、経済格差がストーリーの背景として貫かれている。
そして、徹底的に富める者と貧しき者のコントラストに焦点を当て続けられているのが特徴だと言える。
作品内の、半地下の窓からの風景と豪邸のリビングから見える庭の景色の構図が頻繁に映し出されることが最も端的に雄弁に物語っているだろう。
だから、クライマックスとなる凶行の舞台は、豪邸の庭が更に華やかに演出されたパーティ会場であったことが、当然というかそれ以外にありえないという説得力を持った演出になっている。

印象的なシーン、ポイント

1.良い人なのは誰?

ちょっと正確なセリフは覚えていないのだけど作中で「金持ちなのに良い人だね」「金持ちだから良い人なのよ」というキム夫妻のやり取りがある。
ここがリアルさであり、やり切れなさのようなものを思う。
心の美しい貧者と卑しき金持ちというのは往々にしてイメージされやすいが「そのステレオタイプ合ってる?」という問いかけのように感じた。


2.「臭い」という彼我を隔てる壁

パク・ドンイクがあまりの臭いに顔を背けることが、最後の引鉄を引くことになる訳だけれども、この「臭い」は物理的なそれであるだけでなく一つの象徴だったように思われる。
いかに表面上を取り繕っても、持てる者と持たざる者の間には乗り越えられない壁の象徴であろう。
最初にキム一家が同じ匂いだと気づくのが息子のダソンであることも今思えばよく練られている。「子供だから臭いに敏感なんだ」としか見ていた時は思わなかったのだが、今にして思えば最も幼いころから金持ちで更に生育環境的に最も「半地下の臭い」に対して敏感なのがさもありなん、というところであろう。

だから、顔を背けたことへの「怒り」ではない、まさに鼻つまみ者でしかなく、いつまでも違いを乗り越えられないことに「絶望」したこと。
これが最後に包丁を突き立てた動機だったのだと、私は解釈している。

3.悲劇というものについて

父が人を殺めて逃亡犯となり、母もまた正当防衛とは言え同じく人を殺し、娘が死に、息子も罪を起こし物理的にも大きな傷が残るという顛末、この結果はまさに悲劇だ。
そして、この事件が終わったからといって、はいお仕舞ではない。その後も惨劇の傷を残しながらも人は生きていかなくてはいけない。

実は悲劇というものは、切り取られた一つのシーンではなく、それでも人生は続いていってしまうことを含めて「悲劇」と言うべきなのかもしれない。
むしろ後者こそが悲劇の本質なのではないか、そんなことを想起させられた。

作品の評価として

まずはアカデミー賞の候補作になることに、自分としては異論がないと感じるほどの、質の高い映画だったと言っておく。
ストーリーには既に触れたが、その他で傑出していたのがエンタメ性とリアリティにあると思う。
この物語には陰湿さが付き纏う、題材としても非常に重たいものを扱っている。
しかし時に調子を外したユーモアやスリリングな展開は高尚ぶった退屈さとは縁遠いものだったと感じる。
そして、リアリティについても所感を。
この物語はあらすじを見てみると、キム一家が疑いなく受け容れられてパラサイトしていく展開、隠された本当の地下室の存在が明るみになるところ、事件後にギテクが身を隠すと誰にも発見されないこと、よくよく考えると荒唐無稽とまでは言わなくても、冷静になればありそうにない話だと思う。
それなのに、こんな事件があってもおかしくない気がしてしまう。
この感覚の拭えなさはリアリティの点において、卓越していたのではなかろうか。


少し前回よりは体裁も気にしつつ書いてみた。
いや、シンプルに言うと「良かった」「凄かった」だけなんだけれども。

次はフォードVSフェラーリの予定。
見たい映画が詰まっているから、早めに書こう。

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