「ハリエット」感想
さて、先週に引き続き映画館に。
平日の夜で、作品としてもやや地味な所為か、空いていたのは良かった。
ただ、映画館周辺の飲み屋さんが普段通りっぽい混み方をしていて、ちょっと大丈夫か?と思ってしまったけど。
ということで、「ハリエット」。
まさにハリウッドという感じで2時間を飽きさせない作りはお見事。
ただ、掛け値なしに面白かった?と問われると、首を傾げてしまうというか、物凄く勿体ないのでは…という思いがある。
なので、今回はやや辛目の表現が多くなるけど、映画って難しいよね、映画に限らずかもしれないけど、万人に受ける創作って難しいよねというスタンスで、個人的にはどうしても気になってしまったという点について記述していく。
勿論、個人的な意見だから、こうした映画が正しい!と主張したい訳ではないので、悪しからず。
偉大な人間を描くこと
知識不足なので、元々はこの題材となった、ハリエット・タブマンについては地下鉄道の指導者の1人であることしか存じてなかったのだが、作品を通して、また彼女の事績についてさわりだけでも調べてみると、まさに偉人と呼ぶに値する人間だと思わされた。
だからこそ、2時間という映画の枠に上手く収めることが難しくなってしまったのだと思う。
彼女のドラマチックな生涯と様々な事績をできるだけ詰め込みたいという事で、どうしても取っ散らかってしまっている印象が強い。
たとえば全体の構成から見て、ラストのシーンはどうにも蛇足だったように感じる。
無論、彼女の偉大な功績の一つではあるのだろう。
ただ南北戦争での活躍だけでもう1本映画作れちゃうであろう話を、たった数分のシーンとして挿入する必要があったのかやや疑問。
このシーンがないとテーマとして伝わらない、ということもないはず。
丁度良い対比になると思うのが、「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」。
これもチャーチルという、あれもこれも描こうと思えば幾らでもネタのある男の映画だけど、首相就任~ダンケルクまでの僅かな時間を切り取ることで、却ってシンプルにチャーチルという人間に迫っていたと思う。
この辺の取捨選択は一つの作品に纏める上で一番難しいところなのかもしれない。
特にその人を表現しようとすればするほどに、思い入れが強くなってしまうから余計に。
英雄として、或いはその時代を生きた一個人として
ハリエットの描き方はクライマックスの奴隷主との決着のシーンを筆頭にして、かなり劇的に描かれている。
並み居る南部の奴隷主たちはおろか、同志である地下鉄道のメンバーのリアリズムさえも認めずに、闘う孤高の姿は極めてフィクション的に映るし、相当に脚色されているだろう。
一方で、彼女が奴隷として虐げられている姿、苦しむ姿は真に迫っていて一人の黒人奴隷としての真実味がある。
また逃亡によって別れた夫が、別人と再婚していた時の取り乱し方なんかもとても人間的だ。
ここにギャップを感じてしまう。
多分に、苦しみを乗り越えて英雄になったという見方もできるのだとは思う。
それでも、自分にはアメリカ史に残る偉人のヒロイックなストーリーとして描きたかったのか、その英雄を等身大の人間として見つめる視点なのか、どうしてもブレてしまっているような気がした。
リーダーとしての資質
最後の項目は、これまで以上に好みの話でしかないかな。
作中の彼女の最大の資質は天からの啓示である。
決断力も勇気も優れているけれども、周囲からもそう見られるように、超自然的な何かがリーダーとしての源泉となっている。
モーセというコードネームには相応しいだろう。
作中でも喩えられたようにジャンヌダルクを思い起こさせる効果もあった。
そして、史実としても、そうであったのかもしれない。(不勉強で申し訳ない。)
信心深い人々にとっては神の啓示こそがリーダーの証であると納得できるのかもしれない。
ただ敬虔な宗教者でない自分としては、自身の力よりも超常的な力で人々を率いる、束ねるということについて、どうしても懐疑的になってしまう。
だから、これは自分の持つあるべきリーダーシップの形としてはピンと来なかった、ただそれだけの話ではある。
それでも前段に繋がる話として、奴隷制度時代の1人の解放運動家、1人の黒人女性というスコープで見るなら、やはり突飛な印象は受けると思う。
終わりに
今回は割と批判的なスタンスで、つらつらと書き連ねたけど、面白い映画であったということは改めて言っておく。
特に最後の楽曲「Stand Up」は必聴の価値があるかと。
本文では触れなかったけど、この作品の根底にあるのは「自由か死か」という台詞に集約されていると思う。
自分がこうやって、人の目も気にせずに好き勝手に書けるような「自由」も命懸けで勝ち取らねばならなかった先人がいることを噛みしめながら、思い切り「自由」に書かせていただきました。
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