アイリッシュマン所感(ネタバレありかも)
アイリッシュマン見た。
スクリーンで見たかったので、ネットフリックス断ちして映画館へ。
こういう需要に応えて上映してくれる映画館さんありがとう。
折角なので、所感でも。
核心部分はぼかして記述するけどネタバレ気になる場合は回れ右推奨。
掛け値なしに凄かった
兎にも角にも圧倒的な映画だった。
基本的には、あんまり、あーだこーだ理屈をこねくり回すタイプの作品ではないと思う。
渋くてスタイリッシュでエンタメとしても抜群のマフィア映画だし、スコセッシが監督だし、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシの3人の演技の厚みみたいな物は見れば解るし。
どちらかと言えば、じっくり余韻にひたるための作品ではないかと。
まあ、それでも感想を書きたいから書く。本当に野暮で申し訳ない。
登場人物やストーリーについてあれこれ
登場人物のキャラクターで自分が着目したのは、2点。
まずデ・ニーロ演じるフランクの無色透明な感じ。
劇中での彼はドンドンと深みに嵌っていって複雑な背景を持っていくのにも関わらず最後まで掴み所のない人物像であったと思う。
敢えて言うなら、感性としては割と普通の人といった印象(発露の仕方は「普通じゃねえな」というシーンもあるけど)。
人並みに出世欲があって、人並みに人情を解して、人並みに保身的で…それがヒットマンであることが不気味でもあり、かえってリアリティをもたらしていたと感じる。
残りの両者については、権力者とは何なのかという人物の作りこみ。
ホッファの強烈な扇動と無邪気とも言える程の頑なさ、ラッセルの眉ひとつ動かさない果断とその裏腹の誠実さ。
両極に位置するカリスマの魅力も怖さも充分すぎるほどに伝わるものだった。
どちらも正しくどちらも間違っている権力者を完璧に演じられていることが、この作品の肝のように思う。
もし、偏りのある描き方、演じ方であれば、片方が道化に成り下がって作品としての価値を大きく損なっただろう。
そういう意味ではアカデミー賞の助演賞の候補になっているけど、この2人で甲乙つけがたすぎて、2人は選ばれない気がする。
選ばれないじゃなくて、「選べない」から。
ストーリーについて
筋書きとしてはクライマックスの暗殺シーン以降に続く数十分が個人的には重要だったと捉えている。
普通に暗殺で締めて哀愁漂うエンディングに持っていく方が、マフィア映画としてはしっくりくるように思う。
だからこそ、それからの時間を敢えて描写した段階でもう勝ったんではないかと。
一言で言ってしまえば、諸行無常を描き切ったということ、かな。
もう少し自分なりの言葉で言うと、老いていくときも死んでいくときはどうしようもなく独りでしかないし、ただの人間でしかないということ。
その現実をクライマックス以降に突き付けてきたように自己認識している。
だからラッセルの死もフランクの老いも(ホッファの死も)、決して美しくないし、ある種、醜悪で空虚なものと個人的には受け止めた。
これが言い過ぎてあったとしても極めて人間たちは俗物として表現されているように思える。
※ここは特にかなり私的な感覚で捉えたので極端な話、真逆に受け止めた人さえもいるのではという感もあるけど。
だから、作品のテーマとして正しく受け取れているかは判らないが
「どうして死んでしまったら、老いてしまったら、ほんの些細な事件が起きてしまったら、一瞬で消え失せてしまう権力に人は囚われてしまうのか」
「権力の欲求とは理性ではなく、本能に近いのではないか」
そんなことを見終わった後に、ぼんやり考えたりしてみることになった、というのが感想かな。
ネット配信の作品を劇場で見ることについて
あと、自分で小見出しの見方をしてみて感じたこと。
去年のROMAも映画館で見てるから初めてではないけども。
やっぱり映画館で見るために作られてないとは思った。
まず、シンプルに「長い」。
自分は覚悟して準備してたけど、お客さんの3割くらいは途中でトイレ行ってたからね。
休憩あってもいいかもしれない。
ただ長い時間を使えたことで、前段で述べたような構成が可能になったと思うから「長いと駄目よ」って訳ではないとも言っておく。
あと、人物の利害や関係が結構複雑なので、一回通しで見るスタイルだと、消化しきれない部分はどうしてもある。
この辺は戻ったり、止めたりができる(ネットで見てないから知らないけどそうだよね?)方が良いかもしれない。
映像の迫力とかスクリーンの方が明らかに上だし一長一短ではあるんだけど。
ともあれ既存の映画とは違うし、陳腐だけどコンテンツの見方の過渡期だと実感することになった。
最後に
だらだらと書いたけど、「あくまで感想。レビューじゃないよ」とだけ言い訳を。
でも、好みは人それぞれは承知の上で、面白いのは間違いないからおススメできるし、自分自身、今度改めて丁寧に見返してみたい作品。
ちょうど、アカデミー賞候補の公開が増えていくし、こういう記事をまた書けたらいいなあ。