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『密やかな結晶』(小川洋子)

この本は、ある島で「消滅」が起きると、人々はそのモノの存在を忘れてしまうお話。

もしも現実世界で「消滅」が起きたら、人はどう振る舞うのか。
例えば、ある日、スマホが消滅したら、数日間は大きな混乱が起こるだろう。
でも、ある程度の期間が経てば、人はスマホの存在を忘れて、スマホ以前の方法で人と連絡を取り合うようになるのではないか。
そういう意味で、意外と人は「消滅」に対応できるのではないかと思う。

一方、「消滅」しても過去の記憶を保持している人が、「消滅」する世界で生きていたら、相手にいくら説明しても理解してもらえず、もどかしい思いをするのではないか。

タイトルについて

『密やかな結晶』というタイトルに惹かれて購入。おしゃれな響き。

「結晶」には、触ったらすぐに壊れてしまうからこそ、大切に扱わなければいけないイメージがする。儚さ、脆さ、消えやすい存在。

そこに「密やか」が付くことで、主人公たちが共有している「秘密」を表現しているのではないかと思った。

「・・・あなたの心が感じるものには、ぬくもりと安らぎとみずみずしさと音と香りが溢れているけれど、わたしの心はどんどん凍りついてゆくだけ。いつか粉々に砕けて、氷の粒になって、手の届かないところで溶けてしまうの」

『密やかな結晶』(p.375)

今回読んだ本


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