①2年後キーエンスと合コンに行く早稲田女子新卒との出会い
「あれ? ここ誰か来るんですか?」
その日に俺がデスクの前に来ると
無人だった俺の隣のデスクが整理され、中央に名刺が置かれている。
「あ、そこね!今日からうちの部署に入る新入社員。」
知らなかった。
そうか。4月も半ば。新卒の子が入るタイミングか。
何度も新卒を迎えているが、やはり自分の部署に新卒が来ると心地がいい。
「あとさ、はるのちょっといい?」
「え、なんですか?」
部長に朝から呼ばれるなんて珍しい。
連れられるまま、俺は会議室のドアに入った。
「課長代理?」
「そうだ。はるのには、うちの課長代理やってもらっていたい」
「ありがたいですが、久山さんは…?」
「久山が課長になる。現課長は今季から別ミッションだからな。とはいえ久山一人じゃ何かと大変だろう。そこではるのが課長代理となって色々サポートしてほしい」
「久山さんを…」
昇進といえば聞こえはいいが、課長代理で上がる給料は雀の涙程度だった。
おまけに4つ上の久山は頑固者で他の部署からクレームをもらうことも多かった。そこで俺に色々間に入って、調整役をやらせたいのだろうなという部長の意図を感じた。
「まぁ頼むよ。新しい子も来るから。色々教えてやってくれ」
「はぁ、、」
部長はそう言って会議室を出た。
会議室から席に戻ると正面の席で久山が座っていた。
「はるの、聞いたぜ。おめでとうな。」
「久山さん、知っていたんですね…ありがとうございます。」
俺は久山があまり得意じゃなかった。
なんていうか、主人公気質なんだ。
ル〇ィとかゴ〇とか桜〇みたいに、あまり自分の事を客観視しない。
それに比べて俺はめちゃめちゃ人の目を気にして生きていた。
嫌われないように自分の意見コロコロ変えた。
久山にはそれがなくてまっすぐだった。
「お前にも初めて部下ができるな」
「え?」
「いやその子」
俺のデスクの隣。空いている席を見た。
「あぁいや。新卒ですし。後輩に近いですよ」
「まぁ部下でも後輩でもいいよ。その後輩ちゃんを面倒みてやれよ」
「はあ」
そう言われて、俺は先ほどもらった課長代理の名刺を見ていた。
その日の仕事は夏に向けた販売計画を立てる事がメインだった。
午前最後の打合せをテレビ会議で終えて、PCから顔をあげるとリクルートスーツ姿の女の子が一人ポツンと立っていた。
「え?」
「あ、すみません。今日からこの部署でお世話になります、○○です!」
「あ、新入社員の? えーっと待ってね。」
辺りを見渡し、久山と部長を探したがみつからなかった。
まじかよ。
「ごめん。人事の方になんて言われている?」
「えっと配属される課の課長の話を聞いてくれと」
「あ、そうだよね…えっと、課長が今席を外していて…」
「あ、すみません」
「ん?」
「課長がいなかったら課長代理に相談しろと言われております。。」
たしかに。その通りだ。その為の【代理】だ。
「そうだね。まぁ一回座って。」
「失礼します!」
「あ、リラックスしていいからね!」
お前がリラックスしろよ。と思いながら、俺は自分も席に着いた。
それから簡単に自己紹介をした。
そして、部署の説明をしてその後輩ちゃんを連れてフロアを回った。
後輩ちゃんは俺の後ろをついた。
ある程度、挨拶を終えると久山がいた。
「おーお疲れ!はるの、ありがとな。後輩ちゃんよろしく!俺が久山!」
「よろしくお願いします!」
「まあ最初研修いっぱいあるだろうけど頑張ってな!」
久山の陽気な言動でその場の空気が和んでいく。
こればっかりは自分にできないことなので助かる。
「そうだ!三人で昼飯いこうよ!はるの、空いているか?」
「え、あぁまあ…」
急ぎPC上のスケジュールに【離席】と入れた。
それから久山に連れられ、エレベータフロアへ向かう。
エレベーターでも久山が気さくにその子へ話しかけており、後輩ちゃんも時折笑顔が見られた。
まぁそれは仕方ない。俺はバレぬように深く息を吐いた。
俺は契約社員上がりだった。
久山と後輩ちゃんは新卒からの正社員。
そこには見えない壁があった。
大学を出て広告企業で働いた。
とにもかくにも目まぐるしく忙しかった。
何が正しいのかも分からず走り続け、気がついたら会社をやめていた。
それからぼんやりと過ごしていたが、貯金がつき働かなくてはと思い仕事を探した。
とりあえずどこでもよかった。
今ではない別の会社で働きたくて多少給料が落ちてもホワイトな環境で働こうとした。
それで今の会社の募集を見つけた。
契約社員でも構わなかった。
その会社は俺に合っていた。今までの経験も活かせており、我ながら貢献できている気がしていた。その時27歳だった。
そこから2年猛烈に働いてみた。今までと何か変わるかもしれないと必死だった。
部長から正社員にならないかと打診され、承諾した。
そこから久山が上司になった。
久山からの無茶ぶりにも耐えながら2年も過ぎてしまった。
正社員という肩書も慣れてきたところだった。
でもやはり新卒が多いうちの会社ではどうしても居心地が悪い。
エレベーターの後方で、後輩ちゃんと久山の笑った横顔を見ていた。
窓から照らされた二人の背中が眩しかった。
エレベーターが1階で止まった。
「じゃ、はるの!頼むな!」
「え?」
「俺用事あるから!あとは二人で!」
「はあ!?」
「楽しんでな!」
そう言って久山は去っていった。
久山の背中に蹴りを入れたいと思いながら、俺は振り返った。
後輩ちゃんが先ほどと同様に肩をすくめてお辞儀をした。
これが後輩ちゃんとの最初の出会いだった。
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