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ミュージカル好きな人の頭の中がどうなってるのか解説する


日本人の、とくに男の大半が敬遠しているあの独特の世界。

なんであれが好きになれるの?
どういう感性なの?
頭のなかに花でも咲いてんじゃないの?

そう思ってる人たちに、ミュージカル好きな僕の頭の中が一体どうなってるのか、自身の経験を交えてお伝えする。

無理に良さをわかってほしいとか、好きになってほしいみたいなのはあまりないけど、「へー、そういう感覚なんだ」くらいに思ってもらえればいいかなと。
あとミュージカル好きな人も、共感できる部分があったら嬉しいです。

ダサくてヘンテコなおどりとうたのげき

僕は今でこそミュージカルが好きだが、元々は全く興味がなかった。
まだ子どもの頃、もう演目が何だったかも忘れたけど、学校の行事か何かで、ミュージカルを見に行く機会があった。

そのとき、歌のシーンを何ともいえず白けた気持ちで見ていたのをよく覚えてる。
(なにこれ?なんか歌いだしたよ。え、歌で気持ちをつたえてるの?なんでふつうにしゃべらないの?
さっきまで言い合いしてたじゃん。ケンカすると思ったのに、なんでみんなこっちむいて歌いだしてんの?
敵どうしでしょ?戦うんでしょ?こっちじゃなく相手をみなよ。こんどは踊りだしたよ。何やってるんだろう。なんでそんなにクルクル回るの?
恥ずかしいなあ、歌いながらみんなで踊りだして、また回ったよ、回るのホントにかっこ悪いなあ。回ってないで戦ってよ。
ヘンテコだなあ、迫力ないなあ、つまんないなあ、早く歌終わらないかなあ。あ、終わった。えっみんな拍手するの?)
こんなことを考えながら見ていたと思う。とにかく僕の感想はすべからく「バカみたい」の一言しかなかった。

他にも、これまた何のタイトルかも忘れたがアニメで(たぶんディズニーじゃない海外のアニメ)ミュージカルのシーンを見て、小さな女の子が男の子を嫌う気持ちを歌にするのがまったくもって滑稽に思えて、もうこんなバカバカしいアニメがあるんだということを誰かに伝えたくて仕方なかった。

どちらも何の作品だったのか気になるし今だったら喜んで見るんだけど、とにかく、こんな感じで僕はミュージカルの良さがわからなかった。


少しづつ気持ちが変わり始めたいくつかのきっかけ

①大学から演劇を始めたこと。
その頃は相変わらずミュージカルに興味はなかったけど、人前で自分の感情を開放して大きな声を出したり、日常ではしない動きをしたりする演技というものが新鮮で楽しかった。
人前でパフォーマンスするのは、それをするのも観るのも楽しいことだと気づいて、この時たぶん、ミュージカルに一歩近づいた気がする。

②コントのために覚えたダンス
演劇部でやったコントで笑いを取るために、一発芸的なノリで某アイドルの有名曲の振り付けを見よう見まねで練習していた。覚える必要があるのはサビのパートだけだったけど、いつの間にか自分でフルパートを覚えるところまでいった。

最初は誰かに笑ってもらえるのが面白かった。それがだんだん、誰にも見せなくても自分で練習して踊れるようになる過程が楽しい、と思えるようになった。
そのきっかけがアイドルソングだったのは、なんとなくだけどミュージカルに対して持ってた恥ずかしさを取っ払うのに一役かっていたと思う。

③とっかかりになったミュージカル映画の有名曲たち

まず影響を受けたのは授業で見た「マイ・フェア・レディ」の『wouldn't it be loverly?』と『I could have danced all night』
それと「雨に唄えば」の『good morning』と『Singin' in the rain』。

映画全体をそれほど好きにはならなかったけど、楽曲そのものの良さが取っ掛かりになった。

歌のシーンで今まで感じたことのない種類の高揚感とか多幸感を感じたのを覚えている。なんだろう、何だかわからないけど、なんかいいかも。
この心地よさは何だ。心躍る感じは何だ。

その快感を繰り返し味わうことでミュージカル好きの回路が開かれていった。

ミュージカルというのはお気に入りのナンバーができると、不思議と何度観ても飽きず、繰り返し楽しめるものなんだというのが分かって、何か大きな財産を手にしたような気分になった。

それであれこれ名作と言われるものを観てみるようになって、とっつきやすさから、これまでたいして興味のなかったディズニー作品をちょこちょこ観るようになった。正直ストーリー的にはまったく好きになれないものも多かったんだけど、ミュージカルでは大好きなシーンがたくさん発掘できた。

これは不思議だけど、ミュージカルシーンが好きになると、その他のシーンや、作品全体の印象もそれまでより魅力的に見えるようになっていく。
強烈に好きなシーンがあることで全体の印象が底上げされていくというか、ミュージカルシーンのもつ世界観の魅力が、他の部分まで補完するように感じる。

④決定的なきっかけは「魔法にかけられて」

どの音楽も素晴らしいけど、『that's how you know』(想いを伝えて)が別次元だった。
最初は曲に惹かれて、そこから踊りと、歌い手に惹かれる。
シーン全体に惹かれる。その作品の世界に惹かれる。そんなふうに感情移入の幅がどんどん広がって、自分の中の何か深いものをそこに投影するようになっていき、
繰り返し見るたびにその感覚はどんどん開かれて、言葉にならないくらい魅了された。

今でもこの曲と、この曲のシーンは僕の中のミュージカルの心象風景と言っていいくらいに脳裏に焼き付いていて、僕にとってミュージカルの最も素晴らしい感動と魅力の全てはこの曲に集約されている。

これが、自分ではっきりとミュージカルが大好きだと言える人間に生まれ変わるきっかけだった。
(ちなみにこの映画で作曲を手がけたアラン・メンケンという人を初めて知り、昔から好きだったアラジンや美女と野獣の曲を作ったのもこの人なのを知った。現在僕がアラン・メンケンをどれほど深く敬愛しているか、別な記事であらためて語ってみたい)

それからは、色々な作品を観るようになって、自分の財産が増えていった。とは言っても退屈に思えたり、好きになれない作品もかなり多く(たぶん好きな作品よりもそうでもない作品のほうが多い)、無条件で何でも好きになったわけじゃない。

だけど観たことないミュージカル作品を観るのは、目に見えない宝探しと同じ感覚だ。時々見つかる名曲と名作に巡り合う感動があるから、飽きない。

面白いのは、始めは石ころにしか見えなかったものでも、だんだん輝きを増して宝石に変わってくことがあるということ。

ミュージカルは、「一体感(ワンネス)」や「天国」を垣間見せてくれるもの

ミュージカルで心が動かされているとき、内面で、本質的な部分で何を感じてるのかを突き詰めて考えてみた。
僕にとってミュージカルは、刹那的にワンネスを垣間見せてくれるものなんだと思う。

自分たち人間と、人間の住む世界が、本当はすべて一つのものとして相互につながりあっている、と感じさせてくれる。

主役も脇役も、良い人も悪い人も、すべてが一つの大きな芸術を創り出すために存在していて、本当は敵も味方もなく、仲間といったら陳腐な表現になるけど、それ以上のもの、もっと大きなひとつの共同体なんじゃないかと思わせてくれるのだ。

ミュージカルシーンは楽しいものばかりじゃない。
暗いもの、退廃的なもの、不条理なもの、ナンセンスなもの、負の感情に満ちたものなど様々だ。
だけどそこに共通しているのは、全員がひとつになって、そこにひとつの世界を創りあげようとするところ。
その一体感だけは壊さないと、言葉に出さなくても目に見えないところで同じ意志を持っている、そういう暗黙の了解、共同意識、まあ言ってみればお約束なんだけど、その目に見えない揺るがない信頼関係みたいなものを感じて、胸が熱くなるのだ。

人と人との間に何の隔たりもない、本質的な一体感、どこかにあるかもしれない理想郷。
この現世が実は一つの舞台で、僕たちはみな登場人物で、それは夢のようなもので、本当はもっと高次の現実が別に存在していて、そこは皆が分かり合える世界、隔たりのない世界かもしれないことを、一瞬だけでも思い出させてくれる。

夢なんだけど夢から醒めたような感覚にさせてくれる。

ミュージカルは夢の世界だとよく言うけれど、本当は普段いる場所が夢で、ミュージカルの世界こそが現実なんじゃないか、そんなふうに思わせてくれるところが、ミュージカルに惹かれる理由なんだと思う。

刹那的、突発的だからこそ成り立つ世界

上述したように感じさせてくれるのは、ミュージカルシーンというのがご存知のようにあの独特の始まり方をし、そしてほとんどの場合長くは続かずに元の会話劇に戻るという、あの構成があるからこそだと思う。

ミュージカルが嫌いな人、苦手な人の理由として最もよく聞くのが、「いきなり歌い出すのに戸惑う、失笑する、意味がわからない、ついていけない」というものだ。

それは僕も以前はそうだったからわかる。あの違和感とか恥ずかしさ、ダサさみたいなものがどうしても鼻につくんだろう。

「なんか始まったw」とか「でたーw」みたいな感じ。

今、僕にとっては逆にあの瞬間、セリフが歌に切り替わって、どこからともなく音楽が挿入される、ふわっと別世界にシフトする感覚こそがたまらなく好きで、期待と喜びに満ちた、正反対の意味での「始まった!」とか「きたーー!」というテンションになる。

まさにアレが肝なのだ。あの始まりかた、入りかたでないとダメなのだ。
場面をいったん区切ったり転換させたり、今から歌のシーンが始まりますよと予告してから始めるようなことでは意味が無いのだ。

ふいに始まるから、それまでの時間の流れを断ち切らずに始まるから、それが現実と何の関係もない、縁もゆかりもない全くの別世界じゃなく、自分たちのいる世界の延長線上にあるのだと思える。

同じ時間と空間に存在しているのに普段は決して知覚できない、けどどこかでつながっている並行世界のように感じさせてくれる。

そこに、一体感を感じる、天国とかワンネスを垣間見るしかけがある。
今ある世界のどこにもない、でもどこかにある、そんな儚い世界がふっと重なる瞬間。

目に見えない奇跡が起きて、つかの間のあいだ、世界が高い次元にシフトする、パラダイムシフトならぬパラダイスシフトが起こるのだ。

お約束のように全員が一体になって歌ったり踊ったりするのは、深い解釈をすると、起こるはずだったもう一つの現実とか、元から存在していたもうひとつの可能性と言える。

ここで起きているものにも見えるし、ここではないどこかで起きているものと見ることもできる。色んな可能性を同時に映し出してくれるのだ。

そして、それはずっとは続かない、ずっと続けていたらたぶん天国ではなくなる。その天国は永住するものでなく、刹那的に感じるもの、垣間見るものなのだ。

だから音楽が終わるとたいていの場合、スッと元の世界に戻る。
それこそ夢から醒めたように。

それがまた素晴らしいのだ。ミュージカルやフラッシュモブは、音楽が終わったとたん全員がそれまでの一体感などなかったかのように赤の他人に戻り、日常に戻っていくことが多い。

その「何もなかったことになる」感じがまた素敵だし、それがあるから、ミュージカルは僕にとって一時だけ魔法にかけられている状態なのだと思う。

だからミュージカルが好きな人と嫌いな人は、「ミュージカルの、もっともミュージカルらしい部分」にそれぞれ正反対の感じ方をしているのだと思う。

僕はその感じ方が180度変わった。
それはすごく幸運で幸せなことだったと思う。


まとめ

・ミュージカル嫌いもミュージカル好きになることがある

・ミュージカルの構成要素はダンス・演技・歌。その一つひとつは好き、と言える人は開花する可能性が高い

・歌(曲)はとくに一番きっかけになりやすい。本当に好きな曲が見つかると一気に見方が変わる。その人を変える運命の一曲がどこかにあるかも

・僕がミュージカルが好きなのは、ミュージカルシーンの中にある種の天国を見出すから

・ミュージカルがいきなり歌い出したり踊りだすのにはこの上なく明確な理由があって、その「いきなり」こそがミュージカル最大の肝である。

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