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【簿記1級目指す人向け】減損会計の「なぜ?」から本質を理解しよう
このnoteは、社会人で簿記1級合格を目指す方のために、減損会計の本質的な理解を目指すものです。
わたしは日商簿記1級を20代で取得し、その後財務会計コンサルタントとして、主に会計データの分析をやってきました。
日商簿記1級の知識は非常に役立っており、合格できてよかったなと本気で思っているのですが、その時に役立った知識って、
「なんでこんな考え方になっているの?」
という部分なんですよね。
例えば、
「そもそも、なんで減損を検討しないといけないの?」とか、
「なんで減損の兆候から考えるの?いきなり時価を確認すればよくない?」とか、
「減損の認識のところで、なんで割引前将来キャッシュ・フローを使うの?割引後キャッシュフローだとダメな理由は?」
といったもの。
でも、こういう話って、簿記のテキストにはあまり詳しく書いてなくて、簿記1級をお持ちの方でも丸暗記で乗り切った人多いんじゃないですかね?
学生時代ならともかく、社会人の学習において丸暗記は危険です。すぐ頭から抜けていってしまいますし、ちょっとひねった問題には全く歯が立ちません。
簿記1級の勉強で「テキストの内容がなかなか覚えられない。すぐ頭から抜けていってしまう」と感じる方は、こういう「なぜ?」の部分の理解を甘く見ている傾向があります。
また、経理やコンサルタントの仕事のご経験がある方はよく分かると思いますが、こういう本質の部分の理解ができてないと、仕事で成果をあげることって難しくて、役職が上がっていかないのです。
経理の方だったら、減損計上するとなったとき、経理畑じゃない取締役の方に説明するのは相当骨が折れることです。経理課長や経理部長は、それがしっかりできるからその役職に就かれているのです。
コンサルタントの方だったら、お客様から「なんとか減損しないようにできない?」と言われることもあります。そんなとき、「減損会計の考え方」の本質を理解していないと、「無理なものは無理」とお客様に伝えることもできませんし、満足のいくサービスを提供できません。
そこで今回は、簿記1級の学習でも、その後の実務でも役立つ「減損会計の本質」をQ&A形式であなたにお伝えします。
①「そもそも、なんで減損を検討しないといけないの?」
まずは、「なんで減損会計が存在しているのか?」っていう部分ですよね。
これは、企業会計審議会が公表している「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(平成14年8月9日)」に書かれています。
二 会計基準の整備の必要性
我が国においては、従来、固定資産の減損に関する処理基準が明確ではなかったが、不動産をはじめ固定資産の価格や収益性が著しく低下している昨今の状況において、それらの帳簿価額が価値を過大に表示したまま将来に損失を繰り延べているのではないかという疑念が示されている。また、このような状況が財務諸表への社会的な信頼を損ねているという指摘や、減損に関する処理基準が整備されていないために、裁量的な固定資産の評価減が行われるおそれがあるという見方もある。国際的にも、近年、固定資産の減損に係る会計基準の整備が進められており、会計基準の国際的調和を図るうえでも、減損処理に関する会計基準を整備すべきとの意見がある。
このような状況を踏まえ、固定資産の減損について適正な会計処理を行うことにより、投資者に的確な情報を提供するとともに、会計基準の国際的調和を図るなどの観点から、固定資産の減損に係る会計基準を設定することが必要である。
ポイントは太字部分の
「不動産をはじめ固定資産の価格や収益性が著しく低下している昨今の状況において、それらの帳簿価額が価値を過大に表示したまま将来に損失を繰り延べているのではないかという疑念」
のところです。
日本は、第2次世界大戦後から平成バブル期まで、土地の価格は上昇を続けていました。
(参考:https://ameblo.jp/23763794/entry-11821095123.html)
そのようなことから経済界では、「土地価格は下落しない」という神話が生まれるほどであり、評価損(=減損)なんて考える必要がなかったわけです。実際、長い歴史をもつ企業の中には、大昔に購入した土地や建物で、巨額の含み益があったりします。
しかし、バブルの崩壊によって土地神話は崩壊。特にバブル期に値上がりを期待して土地や建物を買った会社の中には、巨額の含み損を抱えることとなりました。
(参考:https://f-mikata.jp/history_43/)
このような時代背景の中、「バブル期に高値掴みして取得した固定資産の含み損を、将来に繰り延べずに損失として計上させよう」という考えが広まり、日本での減損会計の導入が決定されたのです。
②「なんで減損の兆候から考えるの?いきなり時価を確認すればよくない?」
次は減損計上までのステップについてです。
日本の減損会計って、
ステップ1:減損の兆候があるかどうか?(減損の兆候)
☟兆候があった場合
ステップ2:減損を計上する必要があるかどうか?(減損の認識)
☟計上する必要があると判定された場合
ステップ3:減損損失の金額を決定する(減損の測定)
ってことで、3ステップあるじゃないですか。で、これだけ聞いたら
「3つもステップあるなんてめんどくさい」
「兆候とか考えずに、さっさと全部の固定資産の時価を確認して、それと簿価を比較して仕訳きればいいじゃん!」
って思いません?私が最初そう思ってました。
ただ、「全部の固定資産の時価を確認」って、めちゃくちゃ大変なんですよ。
日本国内にある土地だったら、「公示価格」・「固定資産税評価額」・「相続税路線価」とか、いろいろある価額から考えないといけないし。
もし、日本に工場を持っていたとしたら、「工場の時価ってなに?どうやって算出するの?」って話だし。
海外に土地や営業所・工場を持っていたら、「なおさらどうしたらいいの?」って感じじゃないですか。
だから、「全部の固定資産の時価を確認」って、ありえないぐらい大変な作業なわけですよ。
その辺の実務の事情を分かっているので、減損会計基準では、負荷をかけすぎないために、
ステップ1:まず、減損を考えないといけないような兆しがある固定資産があるかどうか確認してね
(減損の兆候)
☟
ステップ2:兆しがあるようだったら、その固定資産について割引前将来キャッシュ・フローを算出して、それと簿価を比較して、減損を計上しないといけないかどうか判定してね
(減損の認識)
☟
ステップ3:「減損を計上しないといけない」となった固定資産については、回収可能価額を算出して、簿価との差額を減損損失として計上してね
(減損の測定)
の3ステップを採用したわけです。
このような考え方は、企業会計審議会が公表している「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(平成14年8月9日)」に書かれています。
2.減損損失の認識と測定
(1) 減損の兆候
本基準では、資産又は資産グループ((6)①における最小の単位をいう。)に減損が生じている可能性を示す事象(減損の兆候)がある場合に、当該資産又は資産グループについて、減損損失を認識するかどうかの判定を行うこととした。これは、対象資産すべてについてこのような判定を行うことが、実務上、過大な負担となるおそれがあることを考慮したためである。
③:「減損の認識のところで、なんで割引前将来キャッシュ・フローを使うの?割引後キャッシュフローだとダメな理由は?」
先ほどの減損会計の3ステップの話で、
ステップ2:兆しがあるようだったら、その固定資産について割引前将来キャッシュ・フローを算出して、それと簿価を比較して、減損を計上しないといけないかどうか判定してね
(減損の認識)
と述べました。
これを読んだときに、
「なんで割引前将来キャッシュ・フローを使うの?割引後キャッシュ・フローだとダメなの?」
って思われた方、あなたは非常に鋭い視点をお持ちです。ここも非常に重要な論点なので、お話させてください。
まず、将来キャッシュ・フローとは何か?ってことですが、これは、
「その固定資産を使うことで今後得られるキャッシュ・フロー」でして、賃貸に出している土地だったら「賃料✕12か月✕年数」で算出できますし、工場だったら、「その工場で生み出される製品の売上から、原価や経費などを除いて得られる "営業キャッシュ・フロー" ✕年数」で算出できるわけです。
賃貸に出している土地だったら、精度高く将来キャッシュ・フローを見積もれるかもしれませんが、工場だと、将来の売上から考えないといけなくて、かなり主観的になりますよね。
このような事情を考慮して、減損会計基準では
「さすがにこれは減損損失を計上しないといけないレベルじゃない?」という場合だけ減損損失を計上しようね。
という考え方を採用しています。
(2) 減損損失の認識
①減損損失の測定は、将来キャッシュ・フローの見積りに大きく依存する。将来キャッシュ・フローが約定されている場合の金融資産と異なり、成果の不確定な事業用資産の減損は、測定が主観的にならざるを得ない。その点を考慮すると、減損の存在が相当程度に確実な場合に限って減損損失を認識することが適当である。
で、「割引前将来キャッシュ・フロー」は、「将来得られるキャッシュ・フローの額そのもの」なのに対して、「割引後将来キャッシュ・フロー」は、「割引前将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いたもの」なんです。
ということは、金利がプラスの世界(=通常の現実世界)では
「割引前将来キャッシュ・フロー」>「割引後将来キャッシュ・フロー」
の不等式が成り立ちますよね。
ここまで来たら質問への回答ができます。
「さすがにこれは減損損失を計上しないといけないレベルじゃない?」という場合だけ減損損失を計上しようね。(=減損の存在が相当程度に確実な場合に限って減損損失を認識することが適当)」
という考え方を採用することとしたため、「割引後将来キャッシュ・フロー」よりも金額が大きい「割引前将来キャッシュ・フロー」と簿価と比較することにした、というのが質問への回答になります。
④「なんで回収可能価額って、正味売却価額と使用価値のどちらか大きい方なの?」
最後は、「ステップ3:減損の測定」の部分の話をしましょう。
ステップ3はこんなお話でした。
ステップ3:「減損を計上しないといけない」となった固定資産については、回収可能価額を算出して、簿価との差額を減損損失として計上してね
(減損の測定)
ここで登場する回収可能価額は、正味売却価額(=売ったらいくらになるか)と使用価値(=使い続けたらいくらの価値を生み出すか)のどちらか高い方の額、と減損会計基準で定められています。
で、「なんで回収可能価額って、正味売却価額と使用価値のどちらか大きい方なの?」って疑問が出ると思うんです。
これですが、「経済的に合理的な方」で考えてみてください。
固定資産を使い続けるか売るかの判断って、普通は価値が高くなる方を採用しますよね。だから、「どちらか大きい方」なんです。
この考え方は、他の会計基準でも生かせます。
例えば、リース会計のファイナンス・リース取引において、貸手の購入価額がわからない場合は、以下のどちらか低い方ですよね。
・見積現金購入価額
・リース料総額の割引現在価値
これって、物を買うときは、普通は安い方を採用しますよね。だから「低い方」なんです。(資産の過大計上を防ぐという視点もあります)
まとめ
今回は4つの疑問を取り上げて、減損会計の本質にせまりました。
質問と回答を整理しておきましょう。
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質問①:「そもそも、なんで減損を検討しないといけないの?」
回答 :「バブル期に高値掴みして取得した固定資産の含み損を、将来に繰り延べずに損失として計上させよう」という考えが広まったから。
質問②:「なんで減損の兆候から考えるの?いきなり時価を確認すればよくない?」
回答 :「全部の固定資産の時価を確認」って、めちゃくちゃ大変だから。
質問③:「減損の認識のところで、なんで割引前将来キャッシュ・フローを使うの?割引後キャッシュフローだとダメな理由は?」
回答 :「さすがにこれは減損損失を計上しないといけないレベルじゃない?」という場合だけ減損損失を計上しようね。(=減損の存在が相当程度に確実な場合に限って減損損失を認識することが適当)」という考え方を採用することとしたため。
質問④:「なんで回収可能価額って、正味売却価額と使用価値のどちらか大きい方なの?」
回答 :「経済的に合理的な方」だから。
参考図書
今回の記事を執筆するにあたり、以下の書籍を参考にさせていただきました。ありがとうございます。
・新財務諸表論 第6版 田中 弘著 税務経理協会