ファーストディフェンスの重要性が詰まった試合。〈甲府戦レビュー〉
試合情報
J2リーグ第37節 東京ヴェルディvsヴァンフォーレ甲府
@味の素フィールド西が丘 15:00 KICK OFF
前半2-0/後半0-1 合計2-1
〈得点者〉
【東京V】
(8分)ジャイルトン・パライバ、(15分)梶川
【甲府】
(80分)佐藤
〈交代〉
【東京V】
(60分)森田→レアンドロ
(71分)小池→平
(87分)クレビーニョ→安在
【甲府】
(46分)曽根田→アラーノ
(59分)横谷→金園
(78分)エデルリマ→宮崎
スターティングメンバーと基本フォーメーションはこちら↓
ギリギリでつかんだ連勝
今節の対戦相手はヴァンフォーレ甲府。まだ昇格の望みをつないでいるチーム。前回対戦では勝利したものの辛勝。甲府にはいまだホームで勝ったことがなく、不安要素の大きい試合だった。しかし、そのジンクスもはねのけて連勝をつかみ取った。しかし試合運びは相手の戦術に左右され、常にボールを持つところまではいけなかった。一見前半は守れているようで、甲府の意識が中央に向いていただけだったので、後半は守備がうまくいかなかった。甲府が早めに割り切っていたら、おそらく勝てなかっただろう。そのあたりについても触れていきたいと思う。
それでは攻撃、守備、Haru+、被カウンター&ボールロスト分析の4部構成で振り返っていきたい。
攻撃
ヴェルディは主に2CH脇からの前進が主になっていた。
甲府は5-4-1のCFとSH、CHでヴェルディの4バック+アンカーを見る形。しかしウタカのファーストディフェンスがあいまいなため、ボールホルダーがフリーな状態で遅れてSHが出て行ってしまったり、CFが寄せてアンカーが空いてしまったりと前線からのプレスに難を抱えていた。そのためヴェルディは甲府の2CH周辺を使いながらビルドアップし前進を効果的に進めていく。
先制点では琉球戦でも言っていたように、優先順位が最も高い裏への抜け出しによって得点を生み出す。これは甲府のファーストディフェンスが緩いので簡単にCBから裏に蹴ることができた。甲府のブロック守備は守備基準点が整理されることなく試合序盤を過ごしてしまい、押し込まれるシーンが少し多かった。ヴェルディは前半の30分まで(相手守備がアジャストする前の目安)はある程度有利に試合を運ぶことができるので、この試合でもその優位性を活かして2点をもぎ取った。
しかしその流れも少しずつ失い後半は攻撃が完全に機能不全になってしまう。理由は下のGIFで示したような甲府の守備にある。
このように前からのプレッシングをかけ、マンツーマン気味に守備をして前に蹴らされてしまった。前半から数シーン同じようなプレッシングの形があったのだが、完全に移行してきた。4-4-2のような形に可変できるようにし、強度の高いプレスを展開し始める。ここでヴェルディは前に行けなくなり、押し込まれ始めたところで、5バックに変更。守備側に振り切ったと言えるだろう。カウンターのシーンもあったのだが、落ち着いて時間を作ることができず、自ら試合をオープンにしてしまい試合運びの下手さをまたもや露呈してしまった。ここは改善すべき点だろう。
カウンターを狙ったことは後で紹介する「Haru+」でのプレーエリアマップでよくわかるはずだ。甲府のサイド攻撃と、ヴェルディの中央からのカウンターが顕著に表れている。
結局後半は攻めることがなかなかできず試合終了。これは守備にも起因しているので次のトピックにもつながってくる。またボールロストの位置でも攻撃できなかったことがはっきりしてくるので、最後までお読みいただけると嬉しい。
守備
守備はいつも通りの4-4-2。甲府は3-2-5での攻撃陣形を敷いてきた。それが下のGIFである。
基本的にはCFが甲府の2CHをカバーシャドウしながらサイドに誘導。前半は甲府が同サイドからライン間に楔を打つことを中心とした攻撃をしていたこと。またライン間の選手の立ち位置の悪さも相まって、甲府の攻撃は停滞した。ヴェルディの守備が上手くいっていたというよりは、甲府が自ら罠に嵌まりに行ったという構図が正しいのではないかと考える。
ただ、逆のHVに運ばれるとヴェルディの守備の泣き所である2CF脇かつSH前に運ばれてしまい、エデルリマに自由にやられるシーンもあった。
そして後半、甲府はライン間からの攻撃というこだわりを捨て、サイドチェンジからの攻撃に割り切る。ここからは甲府ペース。さらにレアンドロの投入でファーストディフェンスが弱まり、サイド攻撃を加速させてしまう。また後半から入ったアラーノのチャンネルランも多用しサイド攻撃を中心に攻め込んでくる。(いかのGIF参照)
しかしヴェルディもこのままでは終わらない。このままサンドバックでは失点するのも時間の問題。ここで平を投入して5-3-2気味に変更。しかし幅は足りるものの中盤の選手の担当する幅が広くなってしまう。そこで次は薄くなったセンターレーンを独力で突破されたりし始めピンチを招く。正直なところ、交代カードに関しては疑問を覚えた。おそらく5-3-2でボール奪取後のパワーが必要になることも考えて2枚を前に残したのだとは思う。しかし被チャンスの多さから考えても、しっかりと5-4-1を組んで守備を徹底した方がいいのかもしれないと感じた。
Haru+
今回取り扱うデータとしては、甲府のサイドチェンジからの攻撃への割り切りに関してだ。これはフットボールラボのデータを引用させてもらうが、かなり顕著に表れている。次の図が前半。その次の図が後半である。
甲府の前半は先ほど守備のトピックで述べたように、グラウンダーパスがカットされる場面が多く敵陣侵入が全くできていない状態だった。チャンスを作れても裏に蹴ってセットプレーからというところ。正直バーに当たっていたシュートが1本でも入っていたら、ヴェルディの勝利はなかったと思われる。そして、中央から崩すことが上手くいかなかった甲府は後半からサイドチェンジに移行。右HVから左WBの内田の流れが増えたのも影響して、その選手周辺のプレー頻度が高くなっているのが分かるだろう。
このようにプレーエリアマップにかなり変化が表れていることや、甲府が後半主導権を握ったことから、戦術の変更はある程度効果を発揮したということになるだろう。正直後は決めるだけのような気もする。
一方ヴェルディは前半もバックラインでのボール保持が長く、ゴール前に迫るシーンは少なかった。また後半はボールを自陣深くの位置で奪取することになるので、自陣から抜け出すので精いっぱいというところだろう。
被カウンター&ボールロスト分析
今回被カウンターに該当したのは2シーン。それが下図。被カウンターの定義については以下の通り。
1.敵陣でのヴェルディボール保持からのボールロスト
2.ボール奪取後15秒以内にPA付近に侵入しシュートまたはクロスをすること
今節はこの2つが被カウンターの定義に当てはまったシーンである。今節も中盤で失う機会が多く、被カウンターとなるシーンは少なかったが、1つ目のカウンターのようになる可能性も多くあったので、ビルドアップでのイージーミスは減らしたいところである。2つ目のカウンターに関しては、純粋に守備が軽すぎた。正直30m近く同じ選手に運ばれ、守備は人数が足りているのにシュートまで運ばれたことプレーは試合を閉めようとしているチームのプレーではないだろう。いくらウタカとはいえども、1v1で誰もディレイできないのは正直信じられない。これにはちょっとばかり失望したところもある。
そしてボールロストマップだ。ボールロストの定義は以下の通り。
チームのプレーから相手に奪われ、相手チームが2タッチ以上のキープまたはパスを1本以上つないだシーンに関してをボールロスト(またGKのキャッチもトランジションが発生するのでカウントする)
まずはヴェルディ のボールロストマップから。
まず前半に関して述べると、押し込んでいた時間が多かったため基本的にゾーン3が中心。右サイドでクレビーニョや澤井がボールを触るシーンが多くゲームメイクに大きく関わっていたのでボールロストが多い。左サイドはロングボールなどからチャンスを作っていたのでボールロストは少ないが、ゲームを作るサイドとチャンス作るサイドの使い分けのような形になっていた。
後半は5-3-2への変更や、甲府の攻撃が変わり押し込まれたことにより、かなりゾーン2でのボールロストが増えた。やはり押し込まれたことにより前に行くパワーが必要になったものの、甲府に封じられたというのとだろう。また集計開始から最もボールロスト数が多くなった試合でもある。
そして甲府のボールロストマップ。
ここまで述べてきたことが顕著に表れている。前半はライン間攻略を中心にしていたためゾーン2の奥〜ゾーン3の手前のエリアでボールロストが多い。後半はゾーン3がほとんど。これはサイド攻撃を主とした時間帯でサイドでのロスト、クロスボールをあげてからのロストがかさんだため少し多いロスト数になっている。つまり本数は多かったものの、そんなに中の選手に合わなかったということでもあるだろう。また自陣でのボールロストが少ないのはヴェルディのプレスラインの低さも垣間見えるところである。クロスを多く上げてくるとなれば、クロスをあげるエリアに侵入させないことが重要になるので、プレスラインをあげることも視野に入れても良かったのではと思う。
まとめ
今回のレビューいかがだっただろうか。ファーストディフェンスの強度の高い方が試合の主導権を握った試合だった。前半は緩くとも制限をかけたヴェルディと、後半は強度の高い前プレを実行した甲府。現代のサッカーではCFの選手から守備をする必要がある。特にヴェルディのようなチームと対戦する場合、前線からの制限がない場合、後ろの選手の選択肢が多すぎてしまい簡単にライン間に運ばれてしまう。ヴェルディも甲府がサイドチェンジをしてくると分かっていながらなかなか強度を高められなかったし、5バック化してからも前線からの守備はさらに強度が下がりセンターレーンを自由にさせてしまった。ファーストディフェンスが与えた影響の大きい試合だった。
次節は横浜FC戦。今調子の良いチームである。カウンターが得意なため、今節のように中盤でボールロストする回数が多いと被カウンターは自ずと増えてしまうだろう。いかに狙いを持ってライン間や裏を取れるのかに注目したい。
それでは次の記事でお会いしましょう。
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