ブレーキを踏むには「明確な意思」が必要。〈W杯グループG・セルビアvsカメルーン マッチレビュー〉

試合情報

FIFAワールドカップ グループG第2節 セルビアvsカメルーン
@アル・ジャヌーブ・スタジアム 現地時間13:00K.O.
前半1-1/後半2-2 合計3-3

スターティングメンバー

〈得点者〉
【セルビア】
(45+1分)パヴロヴィッチ
(45+3分)S.ミリンコヴィッチ=サヴィッチ
(53分)A.ミトロヴィッチ
【カメルーン】
(29分)カステレット
(63分)アブバカル
(66分)シュポ=モティング
〈交代〉
【セルビア】
(56分)パヴロヴィッチ→S.ミトロヴィッチ
(78分)ベリコヴィッチ→バビッチ、ジヴコヴィッチ→ラドニッチ
(79分)S.ミリンコヴィッチ=サヴィッチ→グルイッチ
(90+1分)コスティッチ→ジュリイッチ
【カメルーン】
(55分)ホングラ→アブバカル
(67分)カンディ→オンドゥア、トコ・エカンビ→バソゴグ
(81分)アンギサ→グウェット、ムベウモ→エンクドゥ

※レビュー内でGIFをいくつか使用していますが、GIF最下部にGIFの進度が分かるバーが付いていますので、それを目安に見ていただけると見やすいと思います

1敗同士の命運をかけた戦い

セルビアは初戦でブラジルに0-2、カメルーンは初戦でスイスに0-1と両チームともに初戦を落とした状態で迎えた。両チーム勝ち点3が欲しい中で挑むであろう第2節、セルビアは左WBをムラデノヴィッチからコスティッチへ、CHをグデリからマクシモヴィッチへ変更。
カメルーンは初戦の試合後に監督と衝突という報道が出たGKオナナがベンチ外に。代わりのGKにエパシ。また中盤の1枚をウム・グウェットからカンディに変更。
セルビアはブラジル相手に悪くない時間帯を作るも、リシャルリソンの2得点に沈んでしまった。ただ前線のタレントは驚異的であることには変わりない。勝ちが必要なこの試合で攻撃陣の爆発を期待したい。
カメルーンはスイス相手に低調な試合。エンボロの1点に追いつくこともできず敗戦。監督と選手のサッカースタイルの衝突という不安なニュースがある中、勝ち点3を手にできるのかが気になるところ。
では前半から振り返っていこうと思う。

前半

行ける時は行く、セルビアの「ダイレクトさ」

まずカメルーンの前線守備から。基本的には全体でマンツーマンをし、パスを繋いでのビルドアップは阻害したいように見えた。中盤はダディッチが下りてきたときのみ数的不利になるカメルーンは、セルビアの2CHであるマクシモビッチとルキッチのどちらかを一旦放置するような形をとった。

このカメルーンの前線からの守備に対して、セルビアはバックライン3人+GK、ときおりCHのどちらかがバックラインにサポートへ入り一度ボール保持をしながら、相手が出てきたところで、質的優位かつカメルーンがマンツーマンによって空けた中盤のスペースを使いながら前進を狙うようになる。それが上手く行えたのが下のGIFのシーン。

まずバックラインでボール保持しながら相手が出てきたところでA.ミトロヴィッチがポストプレー。この時に大事なのがレイオフできる位置にしっかりS.ミリンコヴィッチ=サヴィッチがいること。そしてそれを見た左WBのコスティッチが背後へのランニングを行っている点だ。セルビアはカメルーンが食いついてくることを使って、スペースがあればとにかくゴールに向かう、向かえる時はゴールにダイレクトに向かうを1試合通して続けていた。IHのS.ミリンコヴィッチ=サヴィッチ、またダディッチが下りて前向きにプレーできるときはWBが背後に走り出す。このシーンはセルビアの攻撃コンセプトが見られる良い1シーンといえるだろう。
しかし先ほど言った「1試合通して」ということがこの試合では裏目に出ることになる。これについては後半に触れることとする。

そして次はカメルーン撤退後の守備とセルビアの攻撃。
下の図のような配置が前半は幾度か訪れた。

セルビアはバックラインにCH、特にルキッチがサポートに入りながら、サイドのCBをSBのように振舞わせる配置。
カメルーンは前線での守備とは打って変わって、スペースを埋めなることが最優先に見えた。つまりセルビアの選手がフリーで前を向いたときは、中央のスペースを消し、後から前に出ることが多かった。しかし前に出る基準は統一されておらず、選手が前にプレスへ出ていく際にその選手の背後にスペースができたり、埋めることが優先になるためブロックの前のPA前のスペースを消せなかったりしていた。そこに積極的に付け込んだのがセルビア。背後へのランニングや、相手が空けたスペースにドリブルやランニングで人がなだれ込んでいく。
この試合でピックアップするのは下のGIFの39:40~のシーン。

このように食いついてきた背後のスペースを使いながら、前に進めば埋めてくるカメルーンの手前を使いながらミレンコビッチも絡んでくる攻撃の迫力はあった。またセカンドボールの回収にも非常に長けた配置になりやすいので、切り替えのスピードを速くしてプレッシングし、前半に逆転した2得点目のような形を生むことができた。つまり強度が保てる状態であれば、セルビアは攻守での主導権を握りやすい状態にはなっていた。
しかしこのGIFの最後の状態からもわかるように、もし前向きにボール奪取された際は被カウンターには弱い配置になるときがあるため、プレーが切れずに相手ボールになることは前半から見られるリスクの1つであった。

スイス戦から続く、得点への布石

カメルーンのボール保持とセルビアのハイプレスについて。それをまとめたのが下の図。

セルビアはIHがCBにプレス、ボールサイドのWBがSBに出ていき、逆サイドのWBがバックラインに参加する形。逆サイドのSBは捨てて、ボールサイドに圧縮し、蹴らせることでバックラインの高さを生かして攻めの芽を摘むのが狙いだ。
一方カメルーンはセルビアのプレッシングの強度が高かった前半では、中盤でのデュエルに勝ちきれないことや、配置での解決はしなかったため、背後に蹴ることを増やしていた。シュポ=モティングに納めてもらうのが唯一の道筋に感じたが、それが成功したのも何度かのみ。基本的には相手の中盤からボール奪取しての敵陣ボール保持などが多く、自陣から再現性をもってというシーンは少なかった。

しかし、前半大きなチャンスを作ることができた形が1つある。それが下のGIFのシーン。

この前進は前節スイス戦でも何度もトライしており、実際ハーフスペースで前を向いて前進することもできていた形。このシーンではアンギサがSB-CB間に下りてフリーな状態で前を向き、右SBのファイがサイドを押し上げて、右WGのムベウモがハーフスペースでレイオフ。ムベウモがパヴロヴィッチを引き出した裏のスペースにIHのカンディが抜け出すという流れ。
基本的には前線に蹴ることが多かった中で、前線に付けられるときはFW3枚が下りてきて受けることは狙っていた。スイス戦からの継続でもあったので、チームとしては意識していたと考えられる。さらにこの形が、後半の得点に繋がることになる。

後半

強度が維持できる間に得点し切るセルビア

セルビアは後半開始からS.ミリンコヴィッチ=サヴィッチとダディッチの位置を入れ替えてスタート。両チームともに選手交代はなし。リードしながらもセルビアは強度を落とさず、ゴールに迫り続ける。それが実ったのは3得点目。ダディッチの中盤でのディフェンスからカウンター開始。チャンスとあらば人数をかけるセルビア。両WBも最終的には参加し、最後はA.ミトロヴィッチがゴール。試合が決まったようにも感じる3得点目だった。

しかしここからもセルビアの攻撃の方針は変わらない。選手交代を交えながらも、前を向いて背後へのアクションをする。そしてゴールに迫る。しかし時間が経過していくにつれて出ていくことはできても、疲労からかPA付近での判断ミスや技術的なミスが散見されるようになる。
またカメルーンもそれに相手をしているために、両チームが強度を落とし始め、カメルーンが前半行っていた埋める守備も機能しなくなりセルビアはそれを見てさらに攻撃の手を強めていく。セルビアの攻める意思とカメルーンの強度低下により試合がよりオープンな展開に。セルビアは自身の意思以上に「攻めれてしまう」という状況に陥ってしまった。これが大きな落とし穴になる。

両チームの強度低下が布石を輝かせる

55分にIHのホングラに代わってアブバカルを投入したカメルーンは4-4-2に変更。2CFをシュポ=モティングとアブバカルにし、より相手のバックラインへの圧力を強める形に。それがいろいろな形で影響をもたらす。

そして迎えた63分。途中からCFで投入されたアブバカルが早速結果を出す。それが下のGIF。

まず強度が落ちたセルビアのハイプレスは蹴らせるところまでは行けず、制限もできなかったため、逆サイドのCBであるカステレットにボールが渡る。この形はこの記事の途中で紹介したカメルーンの狙うSB押し上げ、WGハーフスペース下りの形。カステレットは前に運び、ムベウモとシュポ=モティングが下りて相手を引き出す。しかしこのとき前半から違うのはCFが2枚であること。シュポ==モティングが下りてもアブバカルが抜け出せるのである。アブバカルは積極的に背後への抜けだしを狙っていたため、それが実を結ぶことになる。最終的にはこれを決めて2-3。1度はオフサイドで認められなかったが、VARオンリーレビューでオンサイドの判定。得点が認められた。

しかしそれでも攻めるセルビア。前半以上に疲労がたまったセルビアは前線のスピードのある攻めに対して中盤のスペースがケアできなくなり、ラストパスのミスからファイがボールを拾って中盤の空いたスペースを持ちあがり、アブバカルがまたも裏に抜け出し、最後はシュポ=モティングがしっかり決め切って3-3の同点に。
これも攻めれるがゆえに起こった出来事でもある。またカメルーンも戻って埋めることもできず攻め残りが多かったことで、セルビアは「攻めれてしまう前線」と「攻め残りへのケア」という2つを同時にこなさなければならなくなり、最終的にはそれが裏目に出てしまった。
つまり前半はお互い強度が保てていたからこそセルビアが優位に見えたが、少しづつ運動量や守備の練度が落ちてきた中でカメルーンのほうが優位になってしまったということになる。

試合はこのままドローで終了。3-3になった後も決定機を作ったセルビアだったがフィニッシュワークで精彩を欠き、得点を決めることはできず。
試合の舵をうまく握ることのできなかったセルビアは勝ち点2を落とすような後味の悪い試合に。一方カメルーンは引き分けでも良いかのような終盤の試合展開だったのは少し気になる。最終戦はブラジルであることを考えると勝ちたかったようにも思えるが。

まとめ

試合に存在する変数への向き合い方

個人的にこの試合で気になったのはセルビアのゲームメイクだ。これで良かったのかと思わざるを得ない。3-1のリード後もゴールに向かった判断には正直疑問である。
試合にはたくさんの変数がある。初戦の結果、得点状況、残り時間、疲労状態、気温、采配etc…。この試合であれば得点状況やカメルーンの守備の構築の甘さ、初戦敗戦していることによるこの試合の立ち位置など、総合的に考えてもクローズさせる方向に行くことはできたのではないかと。
しかしブレーキを踏むことはなかった、そしてそれが裏目に出たのが最終的な結果だ。タイトルに「ブレーキを踏むには明確な意思が必要」としたのはこのあたりのことを考えてである。セルビアはカメルーンの守備の穴を突くことができる状況だった。つまりアクセルは踏めるし、チームの攻めのコンセプトにはばっちりの景色。しかし進まないを選択するには、それに反抗する意思が必要になる。これがセルビアにはなかったのか、選ばなかったのかは我々にはわからない。ヨーロッパの予選も大して見れていないため、正しいかどうかは置いておいても、個人的にはその判断に大きな疑問を残した。
カメルーンはアブバカルの投入が景色を変えたように思う。前半は背後へのボールを供給できないことや3バックに3トップが捕まっていたことを考えると厳しい前半だったが、背後にボールを供給できるようになった後半からは、アブバカルの起用+4-4-2への変更が上手く作用したと思う。守備の練度には難があるのが最終戦への最も大きな課題になるか。
両チームともに最終戦、勝利必須で2位を狙っての戦いになる。この試合の結果が最後はどう影響するのかも含めて、非常に楽しみである。


いかがだったでしょうか。久しぶりのレビューで、ミスしている場所もあったかもしれませんが、少しでもレビューがお役に立てていれば幸いです。
またこの記事は下のリンクの、ワールドカップアーカイブ化計画のほうにも載せていただいています。他の試合のレビューも気になる方は、ぜひ下のリンクからチェックしてみてください!

ではまた次の記事でお会いしましょう!


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