ネガトラの未整備は相手のリトリートを誘発するだけ〈アビスパ福岡戦レビュー〉
試合情報
J2リーグ第39節 アビスパ福岡vs東京ヴェルディ
@レベルファイブスタジアム 13:00 KICK OFF
前半1-0/後半1-0 合計2-0
〈得点者〉
【東京V】
なし
【福岡】
(25分)實藤、(56分)松田
〈交代〉
【東京V】
(60分)奈良輪→山本
(66分)パライバ→河野
(82分)クレビーニョ→澤井
【福岡】
(82分)城後→森本
(83分)木戸→田邊
(93分)松田→前川
スターティングメンバーと基本フォーメーションはこちら↓
課題通りにやられただけ
前節は横浜FCに完敗。まだまだ完成度に余地が多く残るヴェルディは残留争い中のアビスパと対戦。しかし結果は0-2でまたもや完敗。やはり前から出てきてくれない相手に対してどのように攻略するのかが全く見えてこないというか、選手が迷っているというか。そんな今節をこれから振り返りたい。
それでは「攻撃」、「守備」、「Haru+」、「被カウンター&ボールロスト分析」の4部構成で振り返る。
攻撃
ヴェルディは常に押し込み続ける展開。基本的にはビルドアップのフェーズはなく、即ゾーン2〜3から。左右から攻めるパターンがこの試合では見られた。まず右サイドからのパターン。
この試合で1番上手くいっていたのはこの攻撃。相手は5-4-1で引いており、裏とライン間をなるべく使わせないようにしていた。そんな中で押してダメなら引けば良いというのを体現したのは梶川だった。梶川がはっきりと福岡中盤ラインの前に下りきってしまうことで相手のHVの前にスペースを作り出し、相手CHを引き出す役割を務めた。そこからパライバがハーフレーンに移動、クレビーニョが上がることで右サイドトライアングルのローテーションをする流れと、レアンドロが受けて同じくクレビーニョが最後にポケットに入る動きだ。この流れでクレビーニョがPA内侵入をするシーンもでき、梶川の頭の良さが垣間見えたのが、この攻撃だったと考えられる。なので今節に関しては梶川のIH起用は良かったのではないかと思う。
そして逆の左サイドの攻撃が下のGIF。
左サイドは右サイドからのサイドチェンジからを基調として攻撃。今節の小池はインサイドへのダイアゴナルランを何度も見せていた。それが有効活用できていたのがこの攻撃だ。ただこれは左サイドの動き出しのタイミングがズレてしまうと無効化され相手のマーク特定が間に合い守りやすい。そこまでビッグチャンスにはならなかったが、繰り返しできた形ではあった。
以上2つの形ではいかにアウトサイドレーンの選手をフリーにするかという工夫はあっただろう。ただこれが得点に繋がるかといえば、ハイボールクロスは今のヴェルディが仕留めるには難しい。福岡ディフェンス陣には競り勝つのが難しいからだ。ここは考える余地があるだろう。
またなぜ左サイドではローテーションが機能しなかったのかに関してはブログの1番最後に書く「筆者の戯言」と題する部分で触れようと思う。
そして後半は福岡の前プレに苦しむ機会も増えてくる。それが下のGIF。
前半はリトリートで完全に固めてきた福岡だが、後半からはヴェルディのCBのボール保持を合図に何度も前プレを仕掛け始める。前半は押し込み続けていたため後半にも選手は前に位置を取っており、また裏へのランニングも少なく、前プレに耐えられず立ち位置が悪いことが多かった。上福元を使ってのプレス回避の形すら見せられず、前半の押し込んだ状態に慣れきったヴェルディは後半も攻め手に苦しみ得点をとることなく試合を終えた。
守備
ヴェルディはこの試合の守備で4-4-2のような4-5-1のようなシステムでかなり中途半端な状態での守備を敷いていた。
パライバが右のSHのような振る舞いを見せたようなシーンもあったが、相手の左HVに引っ張られて福岡左サイドの輪湖はフリー。そこからのアーリークロスによってゴール前に何度も迫られた。これは正直言って、今更すぎる問題だと考える。4-4-2ブロックでサイドが空くのは当たり前で、フォワードのファーストディフェンスで限定することによりサイドへ誘導し、マークを確定させていく。しかしファーストディフェンスの機能が上手くできなかったことや、パライバの中途半端な位置取りで輪湖に時間を与え過ぎてしまったりと守備組織としては良くない振る舞いだった。それなりの期間やっているので、もう少しファーストディフェンス→サイド誘導→マーク確定→ボール奪取のローテーションの練度を高めておいて欲しかったなというのが本音である。
そしてネガトラの部分。今日はフィニッシュやクロスまで行かないまでも、ロングカウンターで大きく前進をされるシーンが多過ぎた。
ヴェルディはこの試合でトラップミスやパスミス、ライン間へ無理にパスを入れたり、難易度の高いプレーを選択するシーンなどなど容易にボールロストするシーンが多かった。そこに加えて今節は押し込む時間が多かったため、SBの高さを上げる時が多く、ネガティブトランジションの強度が下がり過ぎたりSB裏を狙われ続けたりしていた。これはサイドのトライアングルのローテーションが上手くいっていれば問題ないのである。IHが下りる→WGがハーフレーンへ→SBがアウトサイドレーンを上がるという手順をしていれば、ボールを失ったとしてもIHがファーストディフェンダーとして機能することができるが左サイドは特に機能しなかった。よってアンカーと2CBが晒され簡単に前進させてしまった。アビスパの狙い通りであり、永井監督も相手を引き出せなかったと言っていたが見事にヴェルディの方が引き出されたのである。皮肉な話だ。
Haru+
今回のこのコーナーで取り上げるのは、ヴェルディがどれだけ守備に対して準備できていなかったのか。またそれと反対にカウンターへ集中を研ぎ澄ましていた福岡の対照的なデータの話。まずは警告の枚数から。
これが今節の警告の枚数。ヴェルディが3枚、福岡が0枚。これの差は守備時ボールにアタックする際の距離の目安になる。つまり福岡はコンパクトでヴェルディがそこに自ら入り込んでいったので選手の距離が近くなり、ファウルになるようなタイミングでのアタックは少なかったということ。一方ヴェルディはネガティブトランジションでの強度で劣るため、簡単にフリーで前進され、ボールへのアタックが遅れていると考えられる。それぞれのカード全てに共通するのはカバーリングがない状態での1v1であること。クレビーニョは松田へ寄せるのが遅くファール。若狭は交わされると一発カウンターというシーンで止めるためにファール。理仁も被カウンターでの石原との1v1で交わされかけてファール。この事実はとても重い。被カウンターは失点のリスクはもちろんのことカードのリスクも高い。つまり通年で考えた時にかなりダメージを負う可能性がある。短期的にも長期的にもリスキーなためヴェルディはここの修正が必須だろう。
また福岡は上手くいったともいえる。カウンターの発動によってこれらのカードを取ったからだ。そして福岡が上手くいったデータはまだある。
まずPA内プレー数に注目したい。ヴェルディは32回、アビスパは18回。割合的には大体半分で試合のイメージと合致する部分もあるだろう。しかし次のデータをみると異常な感じを受けるかもしれない。アビスパはアタッキングサードプレー数、敵陣30m以内のプレー数がヴェルディの5分の1なのである。単純比較がいいかどうかは少し微妙なところがあるが、このプレー数5分の1に対して、PA内プレー数が2分の1であることは簡単にPAに入られている証拠である。さらにシュート数は16対9とほぼ倍の差をつけられた。ネガトラにここまで何度も言及してきたが、多種多様なデータより攻撃のためのポジショニングや攻撃のためのサッカーでしかないことがわかっていただけただろうか。もちろんリスクをかけることが悪ではないし、良いときもある。しかし今の状況は間違いなくバランスが悪い。もう何試合ネガトラに言及したか分からないが、今シーズン中に少しでも改善してほしい。
福岡は堅守速攻をチームのゲームプランとし、完全に遂行しきった。正直に素晴らしい、その一言ではないだろうか。ヴェルディのサッカーも良くはなかったが福岡の守備が良かったのには違いない。
(データはSPAIAより引用)
被カウンター&ボールロスト分析
今節は4つの被カウンターがあった。定義については以下の通り。
1.敵陣でのヴェルディボール保持からのボールロスト
2.ボール奪取後15秒以内にPA付近に侵入しシュートまたはクロスをすること
お分りいただけると思うが全て左サイドのSB裏を攻略されている。もちろん右サイドも失点シーンでは攻略されていたので、SB裏が課題だったのは間違いない。また全てパスミスでのボールロスト。別に福岡が誘導した先とかではなくイージーミスばかりなのである。これでは勝てない。そして疲労面でもかなり良くない影響を与えていた。中盤の3枚は試合終盤ですでに疲弊しており、梶川は戻ることも苦しそうだった。
また2つ目、3つ目に象徴されるのは森田、小池、左SBの3枚が逆三角形になっておらず、ローテーションの不完全さとネガトラの未考慮が明らかである。チームとして取り組めていないのは明確だ。押してダメなら引くがなぜできなかったのかは考えなければならない。
そして次はボールロストマップ。またボールロストの定義は以下の通り。
チームのプレーから相手に奪われ、相手チームが2タッチ以上のキープまたはパスを1本以上つないだシーンに関してをボールロスト(またGKのキャッチもトランジションが発生するのでカウントする)
まずヴェルディから。下の図を見ていただきたい。
これを見れば一目瞭然だが、最もボールロストの多いゾーンはゾーン3のPAまでの間。この試合で言えばアビスパ守備陣のライン間だろう。無理やり縦につけて奪われたり、中央突破を阻止されたりであまりにも中央でロストしすぎている。もちろん、シンプルにミスしたシーンもある。押し込みすぎたが故に1人1人のプレーするスペースは狭くなり、相手が近く少しのミスも許されない状況でロストがかさんだ結果とも言えるだろう。
チームとして最初の選択肢は裏なのだが、この試合は裏を使えない。次に使いたいのはライン間なのだが、実直に縦パスでライン間を狙いすぎてしまい相手に引っ掛けてしまうシーンが多かった。つまり縦を入れるための横パス、斜めのパスが少ないのが問題だろう。またライン間を空けるために相手を引き出したかったが、2CBの高さが高すぎるため引き出すスペースを作り出すこともできずに終わってしまった。
また後半のボールロストは自陣が増えた。これは攻撃のトピックでも触れたが、前プレを回避できなかったことに起因する。自分たちがやりたい事ができないとここまで試合が悪くなってしまうのではこの先難しいだろう。
そしてアビスパのボールロストマップ。
基本的にカウンターで前進する機会が多かったため、体感よりもゾーン3まで前進していた。正直、ロングボールを使った前進が多かったのでボールロストしたところで5-4-1ブロックが崩れたりすることは少なかった。この辺りは福岡のゲームプラン通りだろう。
まとめ
今節のレビューいかがだっただろうか。全く良いところが無かったわけではないが、悪い試合であったことは間違いない。戦えていなかったように見えた人もいると思うが、戦える状況をそもそも作れてるのかという時点で割と疑問もある。まだまだ課題は山積みだ。これからもこのサッカーを見るというのは決まっている。これからも変化に敏感になりつつ、考えながら見ていきたい。それでは次の記事でお会いしましょう。気になる方はこのさらに下に筆者の戯言という名のあとがきもありますので気になる方は読んでみてください。
また下の記事のような取り組みを始めました。もし記事が面白かったと思った方がいらっしゃれば投げ銭の方お願いいたします。
最後までお読みいただきありがとうございました!
筆者の戯言
ということであとがきみたいな感じで筆者が思ったことを書き連ねるだけの、独り言コーナー(笑)。なんとなく考えたことを書き連ねるだけの場所なので読みにくいですがご承知おきを。
今回はヴェルディが中央突破にこだわってしまうことに関して。今節中央突破のイメージも強い人もいるのではないだろうか。個人的にはヴェルディの攻撃の優先順位としてゴールに最も短いコースで向かいたいという前提の下でやってるんじゃないのかなと考えている。その前提は永井監督の指示がそういう風に解釈されてるという可能性も含む。これ自体に特に問題はないがその手段が問題である。今のヴェルディは縦に行くために縦に行ってしまっている。それの何が悪いか。サッカーには敵がいる。相手は最短コースは一番に切ってくる。なのに縦に突っ込む。これは悪手なのは間違いない。相手をずらす行為が少ないと筆者は考えている。
今のチームは縦がだめだから横、斜めを選んでるように見える。そうではなくて縦のための横、斜めに変わってくれば少しはプレーの選択に変化が加わるのかなと考えている。相手のベクトルをヴェルディが攻めやすいように変えるということ。ベクトルに内包されるのは意識、重心、視野、体の向きなどである。それを変化させるためには、ボールを動かすか人が動くかの2択。ボールを動かすのは先ほどのように横や斜めのパスで相手の意識をずらしたりボールスピードの変化など。人を動かす場合は今節も右サイドで出てきたトライアングルのローテーションみたいな事象である。この2つの変化には今後も注目したいかなと思う。
サッカーは一番奥のレイヤー(※1)である第4レイヤー(ディフェンスラインの裏)から順々に選択肢を探し選択する。今節は裏がない。そうすると次のレイヤーは第3レイヤー(ライン間)となる。ヴェルディはここにボールを運びたいのだが人をかけすぎたり、相手中盤ラインを引き出すためのスペースも2CBの位置が高すぎて食いつぶしてしまう。監督は引き出せなかったといったが、本当に引き出す気はあったのかという。梶川は攻撃のトピックで取り上げたように、中盤ラインの前に下りてライン間にスペースを作った。森田はそれができなかった。つまりローテーションを促せず、相手のマークは確定しっぱなし。ノッキングをおこし左サイドボール保持からのチャンスメイクは少なかったし、被カウンターも多かった。森田はもしかするとCBのドライブでの前進を促したかったのかもしれないが、それはプレーエリアを狭めるトラップに近い。CBがドライブできるという事実は良いことではないこともあるのである。それは柏戦でも一緒。なんとなく内田がドライブできたけど、その先の選択肢は特にない状況。永井監督は空いてる場所を攻めるというが、無いときはどうするのか、どこに作り出すのか、それをどう作り出すのかそのあたりの具体性が必要だろう。もちろんゴールからの逆算なのでそこから考える必要がある。ボールを持ち圧倒するのは良いが、押し込むだけがサッカーではない。押してダメなら引くのである。
まあ雑にまとめるとボールを支配するのが得意なヴェルディは相手の支配が拙いということである。選手が迷うのだってどこを空けたいのか、どう動くのがいいのかなどなどいろいろ可変なものに対して、ベストな選択を知らないのかもしれない。それを選ぶ評価基準のようなものがないのかもしれない。でも縦パスやドライブなどの手段は持っている。だからまず最短ルートを選び中央突破を選んでいるのかもしれない。本当のことは知らないけれど(笑)。
(※1)レイヤーについてはせんだいしろーさんの下のブログからどうぞ。
今回はこの辺で。適当すぎて何言ってるか分からないし、間違ってることもあると思うが、まあ戯言なんでお許しを。本当はもっとちゃんと考えるべきなんだけど(笑)。ではではこのへんで。次の記事でお会いしましょう。
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?