米とぎお化け (後編)

 それから、この妖怪を頻繁に見るようになった。私が黙認しているから味をしめたんだと思った。とはいえ、米を研ぐ他は何もしないし、むしろ手間が省けて助かっていた。何度か食べても体に異常はないから、悪いものは入っていないはずだ。

 ただ、疲れて帰って来た時にヤツが米を研いでいると、炊かなくてはならないから困った。私が頼んだ時に研いでくれればいいのに。けれどもヤツは勝手気ままに、好きな時に来ては米を研いで去って行く。

 ある時、もう何だか億劫になってきて、無洗米を買うようにした。食べると、やっぱり味は劣る。けれどすぐに慣れた。それに、忙しいと米を食べる頻度は減ってくる。時々ふいにヤツの研いだ米が恋しくなったけど、結局私は大学を卒業するまで無洗米を買い続けた。

 普通の米に戻せば、ほいほい帰って来るものだと思っていた。

 就職して私は引っ越した。一人暮らしの社会人って、意外と寂しいなって思っていた時、アイツの研いだ米が久々に食べたくなった。きっと妖怪だから、人間よりずっと長生きだし、他にすることもないから、私が米を用意したら内心ウキウキで研ぎに来るだろう。そしたら、仕方ないから、私がそれを炊いて食べてやろう。

 でも、来なかった。1週間待っても来なかったので、耐えられなくなって自分で研いだ。


 そんな時、祖父の容態が面白くないという連絡があった。私は久々に帰省することにした。

 そういえば、1年近く実家に帰っていなかった。何を持って行けばいいのかもわからなくて、もたもたと準備をして、結局到着日が1日ずれた。そんなことをしているうちに、祖父は眠ってしまった。

 私はどんな顔で家族に会えばいいかわからなかった。電話でしか話していなかった母は、以前より老けて見えた。

「どうしよう、おばあちゃん大丈夫かな」

 母は祖母をひどく心配していた。おじいちゃんはお喋りで、おばあちゃんは静か。そんな夫婦だった。

 だけど、そんな心配とは裏腹に、祖母は意外と元気だった。不思議だったけど、夜になって謎が解けた。

 米とぎお化けだ。あいつ、こっちに来てたんだ。

 おじいちゃんの具合が悪いから、私より先にここに来ていたみたいだった。

 憎いやつ。でも、母はその姿を見たことがないらしい。何で私には警戒心がないのかよく解らなかったが、とにかくヤツは、祖母の家でも私の目の前でせっせと米を研いでいた。

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