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いつまでアリアハンの周りをうろうろしているの?


小学校に入る前、3つ上の兄がプレイするドラゴンクエストIIIを見ていた。

兄はいつまで経ってもアリアハンの周りをぐるぐる周っていて、その光景を見るのはとても不思議で、とても退屈だった。

地道にレベル上げをし、貯めたゴールドをはたいて、どうのつるぎを買い、スライム、おおがらす達を気持ち良さそうになぎ倒していた。

そして兄は、アリアハンで買える最強の装備を揃えた後、次の街レーベへと向かう。

レーベでも同じように街の周りをぐるぐると歩き周り、今度はさそりバチ、フロッガー達を駆逐することによっての経験値、ゴールド集めが始まる。

勘弁してほしいなー。

僕は思った。見ている側としては退屈だったので、今でもその光景は鮮明に覚えている。


数年後、今度はそんな僕がドラクエをプレイする機会を得た。

僕はというと、そんな兄と25%同じ遺伝子を持っているとは考えられないほど、似ても似つかないプレイスタイルで同じゲームをプレイしていた。

経験値は貯めない。レベルも上げない。ゴールドも貯めない。どうのつるぎも当然買わない。

スライム、おおがらすと命からがらの死闘を繰り広げる。

そしてレベル上げもせず、装備も貧弱なまま北へ歩を進め、さそりバチ、フロッガー。強くなっていくモンスターを前に何度も、何度も僕のパーティーは全滅を繰り返す。

どうしても物語が詰んだ時のみ、武器を買い揃え、レーベ、ロマリア、カザーブ。とにかく次の街、次の街へとひたすら向かっていく。

兄はそんな僕を見て、悟すように

「リョウタ、ちゃんとレベル上げなあかんねんで。」

とか

「装備揃えるまで次の街行くんやめとき。」

と語りかける。

しかし僕はそんな兄の忠告も耳に入れず、ただひたすら物語を前に進めていく。


それから20年以上経った今、僕は今でも時に全滅を繰り返しながら、物語を少しずつ前に前に進めている。

相変わらずレベル上げも、武器を買い揃える事も無いので、全くスキルも無いのに医療法人の事務長をやったり、英語全然話せないのに海外で働いてみたり無茶をして、まぁ、大体の場合、全滅する。

挫折、焦燥、敗北感を存分に味わう度に自分にはレベルアップや新しい武器が必要なんだと感じ、それを手に入れる為、努力をする。

そしてその作業は意外にも、とても楽しい。

あの時、僕が兄のプレイするドラクエをみて感じた

“武器なんて必要な時に買えば良い。レベル上げも必要な時が来たらやれば良い。とにかく前へ進んで行こう。”

という反面教師的なスタイルは、

“スキル(例えば英語)なんて必要な時に身につければ良い、Level1でも良いから、とにかく前へ進んで行こう。”

というスタイルとして、僕の人生の中に深く息づいている。


人生もドラクエと同じで色んな戦略がある。

アリアハンでレベル上げをして、装備を完璧に整えてから次に向かいたい人もいれば、僕みたいにとにかく前へ前へ物語を進めたい人。

英語を完璧にしてから海外に挑戦したい人もいれば、とりあえず行っちゃってから勉強する人。

どちらが正解という事はおそらく無いし、それを僕が偉そうに語る資格は当然無い。


しかし、大人になってからアリアハンの周りで満足している人が一定数いる事に気づいた。

「自分には無理なんでー。」

と物語の進行を自ら止めてしまう人や、

「俺ってすごいだろ。」

とスライムやおおがらすを駆逐する事に満足している、井の中の蛙状態の人。

新しい環境に身を置くと全滅するかもしれないし、苦戦したり、悔しい想いをするかもしれない。

でもそこにいては、いつまで経ってもバラモスは倒せないし、アレフガルドに辿りついた時の感動を味わう事が出来ない。

僕は客船で働くようになり、世界の果てでしか見ることの出来ない数々の素晴らしい景色があることや、世界には面白い人がたくさんいることに気づいてしまった。

ただ残念なことに世の中にはこんなに楽しい事が、素晴らしい景色がたくさんあるんだって事に、大半の人は触れることなく物語を終えていく。

全滅はつらい。

痛い思いをしたり、お金が無くなる(ゴールドが半分になる)ことだってある。

でも自分でカセットを引っこ抜かない限り、物語は終わりでは無いのだからまたやれば良いだけだと思っている。

そしてたまに会心の一撃が出て、自分には無理だと思っていた世界に手が届く時がある。

自分の限界を自分で設定してしまう人や、井の中の蛙状態になっている人と遭遇すると、僕は決まって昔、兄に放った言葉を思いだす。


「いつまでアリアハンの周りをうろうろしているの?」





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