「この社会主義グルメがすごい! 食べて応援! 2020年春の陣編③ 日本唯一の旧ユーゴ:スロヴェニア料理! 『ピカポロンツァ』のズリヴァンカ」
トロイカ(以下ト)「はじめましての同志ははじめまして! お久しぶりの同志はお久しぶり! ファシストの同志はシベリア送り! ソ連が生まれ変わったトロイカじゃ!」
オッシー(以下オ)「どうも、東ドイツことドイツ民主共和国の生まれ変わり、オッシーです。お久しぶりです」
ト「というわけで、『この社会主義グルメがすごい! 食べて応援! 2020年春の陣編』、第三段じゃ!」
オ「まいどの解説で申し訳ありませんが、本企画は、同人誌と商業で展開している内田弘樹原作・河内和泉著の『この社会主義グルメがすごい!』シリーズのWEB版というべきものです」
■サークル「プロイェクト・オスト」Boothショップ(同人版通販中)
ト「5月に同人版のベトナム編も発売されたばかりじゃ。よろしく頼むぞ!」
◆「この社会主義グルメがすごい! ベトナム食い倒れ編」(←直販)
ト「そんなわけで今回紹介するお店は、京都に存在する”日本唯一のスロヴェニア料理レストラン”、『ピカポロンツァ』じゃ!」
オ「に、日本唯一の、スロヴェニア、料理……?」
ト「ふふ……。さすがオッシー、この言葉の意味の凄さが分かったな……?」
オ「なんというか、存在自体がすごいお店ですね……。旧ユーゴスラヴィアの中でも日本では『全然知られていない』部類に入るスロヴェニアのレストランが、しかも東京ではなく京都にあるとは……」
ト「これでも京都では老舗のレストランなのじゃ。この不況続きの21世紀の日本で、がっつり京都のファンの胃袋を握っておる!」
ト「まず、前提知識の解説じゃ! 本題から外れるから駆け足でいくぞ!」
オ「スロヴェニアといえばかつてのユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国の構成国のひとつですね。そしてユーゴは第二次世界大戦後、ヨシップ・ブロズ・チトーが建立した国、と」
ト「そのとおりじゃ! ユーゴはかつて王制の他民族国家じゃったが、第二次世界大戦で枢軸軍が全土を占領。これにより民族同士の殺戮合戦が繰り広げられたが、社会主義者のチトーがレジスタンスを率いて反撃、最終的にユーゴ全土を解放したのじゃ!」
オ「そして戦後はチトーの下で社会主義国家として発展。平和に冷戦の時代を生き抜く……も」
ト「うむ。チトーの死とソ連の崩壊、冷戦の終焉によって社会主義体制が揺らぎ、民族対立が再燃。1990年代には内戦状態に陥り、スロヴェニアをはじめとする各国が独立し、今に至るというわけじゃ」
オ「スロヴェニアはユーゴの北端に位置する国ですね。南スラブ系で、国土のほとんどは山岳地帯です」
店内に貼ってあったポスター。スロベニアはアドリア海に一部面しており、沿岸部と首都リュブリャナ周辺をはじめとするいくつかの地域を除き、ほとんどが山岳部となっている。
ト「陰惨を極めたユーゴ内戦じゃったが、スロヴェニアはかつてのユーゴの支配的存在だったセルビアと特に仲が悪かったクロアチアが盾になるかたちとなり、内戦を10日間で終わらせ、独立を達成できた。ただ、店長の話によると、ユーゴ軍が撤退する際には一触即発の緊迫感があったそうじゃ」
オ「スロヴェニアはイタリアをはじめとする西欧にもっとも近く、経済活動も活発で、旧ユーゴでは特に豊かな国に属します」
ト「うむ! 風光明媚な場所が多く、料理もおいしいと聞く。わしも一度行ってみたいのう!」
オ「そんな、日本ではマイナーもマイナー、どマイナーのスロヴェニア料理ですが……それを供する『ピカポロンツァ』とは、いったい……?」
ト「とりあえず料理の紹介から行こうとおもうが、正直、ほとんどの料理が日本人になじみがないので、口で説明しても、うまくいかんと思う」
オ「いつになく弱気……!」
ト「とはいえ、料理のレベルについては明快に言い切れる。全部! 死ぬ程! 美味かった!」
オ「おおっ! 言い切りましたね……!」
ト「とにかく料理を見よ! もう一度いうぞ! 全部! 死ぬ程! 美味かった!」
そば粉のズリヴァンカ。そば粉の記事をオーブンで焼いた、スロヴェニアの伝統料理。そばの味とチーズの味が絶妙にマッチ! ボリュームがあるのにサクっと食べられる。
豚のペチェンカ。ペチェンカとは、オーブンで焼いた肉のこと。豚のペチェンカはスロヴェニアの代表的な家庭料理。じっくり焼かれた豚肉は絶品。豆の和え物とよくあう!
サーモンとじゃがいものギバニッツァ(スロヴェニア風のパイ)。具材を団段重ねにして焼いたパイのような料理。小さいけれどボリューム満点! 未知の食感と美味しさが貴方を襲います。
鹿肉のステーキ。スロヴェニアではジビエをよく食べるそうです。あっさりで臭みがなく、それでいて他の肉とは一味違う美味しさ! 鹿肉初体験の作者の息子(9)が一心不乱に食べていたほど。ジャムやソースとよくあう!
そば粉のパン。「ピカポロンツァ」に行くということは、そば粉祭りに参加するということ。そば粉の香りがふんわりただよう優しい食感のパン。スープに付けて食べると幸せになれます。
お土産の数々。中央のプチタルトはクルミチョコ、イチジクチョコ、ミックスナッツの三種類。小さいけれどとっても美味! 日本では未知の味です。
オ「こ、これは確かに、美味しさを口で表現するのは難しそう……!」
ト「じゃろじゃろ。しかし、その味は……?」
オ「全部、死ぬ程、美味い! なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」
ト「見た目も調理方法も見慣れないものばかり。じゃが、使われているのは日本で手に入るものばかりじゃ。そして滅茶苦茶に美味しい!」
オ「確かに、四の五のいわずに店に行け、が最適のアドバイスに……」
ト「そして『ピカポロンツァ』もコロナショックに打ち勝つべく、テイクアウトメニューを投入した! それもランチセットとディナーコースじゃ!」
オ「テイクアウトなのにコースメニュー!?」
テイクアウトのランチセット。「そば粉のズリヴァンカ」をメインにして、ソーセージ、炊き込みご飯、サラダ、いんげん豆のスープなど。ズリヴァンカがとにかく美味しい!
ディナーコースセット。お渡しいただいたメニュー表によると以下のとおりになります。前菜:スモークチキン(生姜のソース)、おやさいいろいろ(オリーブ)、フェタチーズ スープ:いんげん豆のスープ メイン:野菜のギバニッツァ(赤キャベツのマリネと芽キャベツをそえて) パン:ライ麦パン デザート:チョコレートのケーキ(ベリーのソース) お茶:スロヴェニアのハーブティー(アルプスのお茶)
オ「テイクアウトなのに本当のコース……すごい、気合入りまくり……!」
ト「しかもこのテイクアウトのメニュー、シェフの気分でメニューが日替わりだそうじゃ。毎日行っても飽きないということじゃな」
オ「シェフの気まぐれ要素も装備……!」
ト「他にもテイクアウトメニューはいろいろあるようじゃ。今でも続けているので、お店に問い合わせみるのも一興じゃ!」
お店のテイクアウトメニュー看板(2020年6月撮影)
自家製パンの紹介(2020年6月撮影)
オ「ううっ! 鹿肉のシチューとかポークのリングソーセージとか、魅惑的なフレーズがいっぱい……! 自家製パンもめっちゃ食べたみがある……!」
ト「こんな店が京都の片隅にあるとは、本当にびっくりじゃ……!」
オ「にしても、どうしてこんな奇跡のような店が、京都に……?」
ト「うむ。これには深いわけがある」
ト「こちらが店長でシェフのイゴール・ライラさん。1948年スロヴェニア生まれ。つまり生粋のスロヴェニア人で、そして若き日を旧ユーゴ政権下で過ごされた方じゃ」
オ「なんと、そんな方が……!」
ト「イゴールさんはスロヴェニアの首都にあるリュブリャナ大学の出身でな。大学で数学を学んでいたのじゃが、1978年に日本の京都大学に数理生態学を学ぶために留学。その後、日本の会社に勤めていたが、会社が廃業したのを機にスロヴェニア料理の販売を始め、最終的に2001年、京都にスロヴェニア料理レストランとして『ピカポロンツァ』を開店したということじゃ」
オ「なるほどー。って! ユーゴから日本に留学!? もうそれだけでエリート中のエリートってことになりませんか……!?」
ト「うむ……。しかも数理生態学とは、『数式やコンピューターを駆使して生物の生態現象を解明する学問分野』だそうじゃ。今のコロナ対策で活動している数理生物学の学者の皆様と、近い分野の気がするな……」
オ「天才……! 本当の天才じゃないですか……!」
ト「その天才が調理するスロヴェニア料理と考えれば、この美味しさもメニューの気合の入りようもうなずけるじゃろ……」
オ「頷くしかない……!」
オ「イゴールさんの来歴については公式HPのこちらに詳しい解説があるのじゃが、一緒にお店を営んでおられる奥様の話によると、一晩中メニューについて考えていられることもあるそうじゃ。まさしく天才肌じゃな……」
御主人と店を切り盛りする奥様のライラ智恵さん。かつてライターをやっていたそうで、そのスキルがHPやブログの運営に役立っているとのこと。
オ「もうなんか規格外の連続のお店ですね……」
ト「しかもじゃ。イゴールさんのお話によると、『ピカポロンツァ』のようなスロヴェニア料理店は、現地にはほとんどないそうなのじゃ」
オ「は? スロヴェニア料理店がスロヴェニアにない?」
ト「スロヴェニアの人々は郷土愛が強くてな。本土の各地には、ご当地の料理を出すレストランはいっぱいあるそうなのじゃ。しかし、一方で『ピカポロンツァ』のように、”スロヴェニア全土の料理を提供する”レストランはほとんどない。あっても首都の旅行者向けの料理店くらい……」
オ「なるほど……! さもありなん……!」
ト「だから、スロヴェニア各地の料理を食べられるというだけでも、『ピカポロンツァ』はめっちゃレアな存在なのじゃ。店ではたまにクロアチアをはじめとする他の旧ユーゴ圏内の料理も出しているというから、さらに珍しくなるじゃろうな」
オ「そういえば、スロヴェニアは西欧とのつながりが深いそうですが、そっちの影響は料理にはあまりないようですね」
ト「作者もそこが気になって聞いてみたんじゃが、『スロヴェニアは山がちなので国外の文化が国内に伝播しにくく、食文化も独自のものが保たれている』とのことじゃ。勉強になるのう」
オ「いやー、これはすごい。このお店、社会主義グルメじゃなくても、みんなに紹介したいですね」
ト「う……! て、店長が旧ユーゴ出身じゃから、れっきとした社会主義グルメの店じゃ!」
オ「痛い所を突かれた顔になりましたね」
ト「一応補足しておくと、イゴールさんは留学当時、日本に『ユーゴと同じ匂い』を感じたそうじゃ。特に社会保障の充実ぶりが、ユーゴに似ていたとおっしゃっておる」
オ「『日本は成功した社会主義国』といわれたりしますからね……」
ト「ちなみに店内にはスロヴェニア料理の書籍だけでなく、スロヴェニアの様々な書籍も展示しておった! バルカン半島ファンの作者としては、一日中資料を読んで過ごしたい気分だったということじゃ!」
オ「今の御時勢でなくとも迷惑ですよそれ」
ちょっとした資料館である。全部読みたい……入り浸りたい……。
ト「と、いうわけで今回は『ピカポロンツァ』の紹介じゃった! メニューなどは公式HPや公式ブログで詳しく紹介されているから、そちらを参考にするのじゃ! 日々の話題は公式twitterでも知ることができるぞ!」
オ「そっち読んだ方が早い気がするんですが!」
ト「実はわしもそう思う……。じゃが、実際に取材に伺って初めて実感できることもある」
オ「ほう……?」
ト「例えばこの『ピカポロンツァ』、感染症対策にはかなり気を遣っておる。京都の感染者追跡サービスと連携して至り、席数をきちんと減らしていたり、常時換気をしたり、お客さんに店内でのマスク着用をお願いしたり……もともとを考えると、それなりに勇気がいることだと思うぞ」(作者注:この点も詳しくは公式HPの該当部分にて)
オ「本当にきっちりやられていますね……。でも、おかげで安心して食事ができるというもの……」
ト「こういう言い方はなんじゃが、わしらみたいなグルメ好きは、大好きなお店が失われる哀しみを大なり小なり知っておる。わしはこの店に、できるだけ長く京都にあり続け、長く皆に愛されていて欲しいんじゃ。だから、この記事を読んで、ひとりでも多くの方が、この店を訪れることを願う。『ピカポロンツァ』は、日本で唯一、いや、もしかすると世界で唯一の偉大な『スロヴェニア料理』店じゃ!」
オ「千客万来! 行こう、ピカポロンツァ! ただし、感染症対策は万全に!」
※今回の取材では、「ピカポロンツァ」のイゴール様、智恵様に多大な協力を得ました。ここに感謝の意を表します。ありがとうございました!)
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