40匹以上のアゲハの幼虫と過ごした、ひと夏の話
今朝、小さな小さなアゲハが羽化しました。
もう10月なので、冬を越す越冬蛹(えっとうよう)だろうと思っていたら、この暑さのせいか、さっさと羽化してもう1ラウンド生きるつもりのようです。
親指を立てているのは、べつに「羽化いいね!」ではなく、大きさを示すため。春から夏にかけて育てていた子たちと比べると、ほんとに小さいです。食べる量も少ない。夏の蝶はもうひとまわり大きいので、夏の写真だったらきっと中指を立てていると思います。
はじめまして。編集mです。
特に昆虫好きではありません。子どもの頃にカブトムシを飼ったこともセミを捕まえたこともないし、ましてや昆虫学者の方がよく言う「子どもの頃は蝶の標本づくりに夢中になって…」なんてとんでもない。許せる殺生は、蚊とGKBRのみ。
そんなわたしが、あることをきっかけに、今年の夏、40匹以上のアゲハの幼虫を保護し、世話をして、巣立ちを見送りました。今も、3匹の小さい青虫が、窓辺の花瓶に挿した山椒の枝に止まっています。蛹になった子たちも、内側から秋の気配を感じているのか、「暑いうちに早く行こ!」と焦ったような羽化ラッシュが続いています。朝リビングに降りていくと、静かにカーテンに止まっていたり、天井に止まってじっとしていたり。いつもふと気づくと、あ、蝶がいる、というかんじ。生まれたての蝶の、その完璧な姿と美しい翅をひとしきり観察したら、細い枝を差し出して止まらせ、窓を開けて放します。晴れの日も雨の日も、迷いなくパタパタと飛んでいく姿を見送りながら、わたしが感じるのは、ささやかな達成感と、小さな安堵と、身の回りの小自然への深いリスペクトです。
(先週、窓のサッシで羽化したクロアゲハと子どもの手)
(同じ個体。すぐに飛び立たないときは、枝ごと庭の鉢植えに挿しておく)
(先週、物置の収納ケースの蓋のフチで羽化したキアゲハ)
(今朝羽化したもう1匹のキアゲハ。蛹から出たあとに体の水分を出す)
彼らはいつのまにかわたしの生活の一部になり、意外なほど大切な存在になっていました。「巣立ちを見送った」と書きましたが、もちろん全員ではなく、うまく蛹になれなかった子、蛹のまま真っ黒になってしまった子、羽化しても翅が折れてしまった子、予想もしないところで蛹になって、知らない間にわたしに潰されていた子(懺悔、前科2犯)……と、さまざまなドラマがありました。
というものも、幼虫たちは、ホームの枝からよそへ移ることはしないのに、幼虫時代の終わりが来ると、驚くほど遠くまで旅をして、あらゆるところで蛹になるのです。写真立ての裏、電源ケーブルのアース線(上の写真にちょっと写っています)、観葉植物の蔓、サッシの隙間……年末に大掃除をするころには、家具の裏や埃をかぶったレコードの隙間に、旅立ちのあとを見つけられるかもしれません。
ここまで読んでくださった方は、既にお気づきかと思いますが、そう、うちの青虫たちは「放し飼い」です。庭木で幼虫を見つけたら、枝ごと切って持ち帰る。飼育ケースには入れず、囲いもつくらず、開けっぱなしの窓のそばに置いた花瓶や牛乳瓶に青虫の食べる葉っぱの枝を挿し、彼らはそこで生きています。最盛期には、窓枠にずらりと並んだ鉢や花瓶の山椒、キンカン、パセリなどの葉っぱに10匹以上が鈴生り、しかもナミアゲハ、クロアゲハ、キアゲハの幼虫3種制覇という壮観な図が見られたことも。これにはわたしも「映え! 映え!」と大興奮し、SNSがすっかり蟲スタグラムと化しました。(一部の友人には、さぞ迷惑だったかと。その節はすみませんでした。)
(初回なのであえて引きの画像で。どこに何匹いるかわかりますか?
プラスチックケースの壁がないので、彼らの一挙手一投足をつぶさに観察できて親近感がぐっと増し、居住空間を共有したことで、文字どおりわたしたちの生活の一部となりました。エアコンは入れられないし、朝の仕事(うんちの掃除と花瓶の水替え、新しい枝の供給)も増えるけれど、幼虫も蝶も、このひと夏の間に、たくさんの驚きと発見をくれました。それぞれびっくりするくらいの個体差や性格差があること、くすぐったがりやなこと(特に足)、子どもになつくこと、葉っぱだけでなく花も食べること、小さな体に不屈の精神と体力と秘めていること……などなど。
このコーナー、編集mの番では、noteのお題企画 #我が家のペット自慢 にのっかりつつ、今年の夏わたしが励んだアゲハの幼虫たちとの昆活と、ちょっと詳しくなった生態の神秘について、徒然なるままに記していきたいと思います。冒頭に書いた「あることがきっかけで」のあることは、実は忘れてしまいました。その後起きた数多の幼虫エピソードに打ち消されてしまったようです。たしか何かあったはずなので、おいおい思い出していきたいと思います。
次回はまず、ナミアゲハ、キアゲハ、クロアゲハという最も身近なアゲハ3種類の基本情報(どこで見つけるか、見分け方、食べ物など)を、幼虫の画像と動画をたっぷり交えて書いてみます。
イモムシたちに秘められた深~い魅力を、すこしでも共感していただけたらうれしいです。(そして虫が苦手な方、ごめんなさい!)