『自力と馬力』第三話
どんな時代においても、親と子の葛藤は様々な形で繰り返し、この世界に最高の可能性を生み出しています。
とても素敵なことですね。
今回は農業を題材に描きました。
何度も失敗を重ね培ってきた技術は、新しい技術よりも劣るものばかりです。
しかし、経験から得た知識でしか解決出来ないこともありますよね。
LimitlessCreationsでは作品を描く際に、
意識している事があります。
それは『共存』
世の中がAIやハイスペックなもので溢れても、
そこには必ず人の手が必要です。
人間が得た知識と経験を最高に活かす為のツールであり、便利に活用することを目標としてほしいと感じております。
『便利』は過去から未来への贈り物です。
『馬力と自力』
トラクターのエンジン音が響く中、田村悠太は父・寛人と共に広がる田畑を見渡していた。
効率化と手作業の調和を試みる中で、悠太は少しずつ「農業の本質」に近づいているように感じていた。
しかし、その過程には新たな課題が待ち受けていた。
天候の試練
梅雨が訪れ、連日の雨が畑を叩きつけた。
トラクターで耕した畑の一部が水を含みすぎて、ぬかるみとなり、作物の根が傷み始めた。
一方、父が鍬で耕した畑は、水はけが良く、被害はほとんどない。
「やっぱり機械じゃ限界があるな。」
父はそう呟きながら、悠太を見た。
悠太は悔しさを感じたが、それ以上に、父の経験の深さに敬意を抱き始めていた。
「父さん、こういう時はどうすればいい？」
父は悠太の問いに一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに畑の土を手に取り、こう言った。
「土の声を聞け。雨が何を伝えようとしてるのか、お前も感じてみろ。」
悠太はその言葉を胸に刻み、土の状態を観察することを決意する。
土との対話
悠太は初めて、父が日々行っている「土を読む」作業に取り組むことにした。
父が教えてくれたポイントは、単なる作業ではなかった。
1. 土の色: 土が乾きすぎていないか、栄養が十分か。
2. 触り心地: 粘り気や柔らかさから、土の水分量を判断する。
3. 匂い: 健康な土は、ほんのり甘い香りがするという。
悠太は膝をつき、土を手で掴み、感触を確かめた。
その過程で、トラクターで耕した部分と手作業で耕した部分の違いを肌で感じ取った。
「土ってこんなに違うんだ…。」
それは、効率だけでは見落としてしまう「自然の声」を初めて理解する瞬間だった。
新しい発想
雨が上がったある日、市川圭介が再び訪れた。
市川は、悠太が雨の影響で困っていることを聞きつけ、新しい機械を紹介するためにやってきた。
「排水処理ができる機械があるんだ。これなら雨の影響も最小限にできる。」
悠太はその話に興味を持ちつつも、父が否定的な反応を示すのではないかと心配した。
しかし、意外にも父は市川の話に耳を傾け、こう言った。
「お前が試したいならやってみろ。ただし、土がそれを受け入れるかは、お前次第だ。」
悠太は初めて父から「任せる」という言葉を聞いた気がした。
それは、父が少しずつ自分の考えに理解を示し始めている証だった。
試行錯誤
悠太は市川の協力を得て、排水処理機械を借りて実験を始めた。
トラクターで耕した畑に排水を施すことで、雨の影響を軽減することができた。
しかし、それだけでは十分ではなく、手作業による微調整が必要だった。
「機械だけじゃダメだ。やっぱり手作業が必要なんだな。」
悠太は父の言葉を思い出しながら、機械の効率と手作業の丁寧さを組み合わせる方法を模索した。
その結果、効率を追求しながらも自然を尊重する新しいスタイルが形になり始めた。
父との共通点
作業を終えた夜、悠太と父は縁側で酒を酌み交わしていた。
「父さん、俺、少しずつ分かってきたよ。
馬力は便利だけど、それだけじゃ足りない。結局は、自分の力で見極めないと。」
父は酒を飲み干し、静かに頷いた。
「俺も昔は効率を求めたことがあった。
でもな、効率の裏には、どうしても失われるものがある。
それを取り戻すのが、自力の役目だ。」
悠太はその言葉に深く頷き、父と共に自然と向き合う覚悟を新たにした。
雨上がりの畑で、悠太はトラクターと鍬を使い分けながら作業を進めていた。
その姿を見た父は、静かに微笑みながらこう呟いた。
「こいつも、ようやく土と話せるようになったな。」
悠太は父の背中を見ながら、自分なりの農業哲学を築きつつあった。
それは、「自力」と「馬力」を両立させ、自然と共に生きる新しいスタイルだった。
天候という自然の試練を通じて、悠太が「土との対話」を学び、機械と手作業を融合させる方法を模索していく。
次章では、二人が協力して村全体の農業活性化に取り組む新しい挑戦に向き合っていく。