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『駆除の覇者』第五話
窮地に立った時に、男ならば誰だって一攫千金を夢見てしまいがちですよね。
成功するか失敗するかはどこで別れるのか、私には分かりませんが、賢く根性がある人間が成功させるのではないかなと思います。
設計通りに上手く進めるのか、成功するまで諦めないのか。これに限る。
この作品では、大切な人を守るために何が出来るのか?
人生の岐路に立った時に、進むのか立ち止まるのか。
命と向き合いながら歩んでいく男のストーリーを一緒に歩んでみてください。
『駆除の覇者へ』
ジビエブランドを立ち上げたことで、山本慎也は駆除業界だけでなく地域経済や食文化にも影響を与える存在へと成長していた。
山本駆除サービスの事務所には、次々と取材の依頼や新規の駆除案件、ジビエ事業の協力を求める声が舞い込んできていた。
「山本さん、今度、千葉県のジビエ振興プロジェクトにも協力してもらえませんか?ぜひご意見をいただきたいのですが…」
「山本社長、地元の商工会議所でも講演をお願いしたいとのことです。
やはり、山本さんの成功事例を聞いて、地域の方々も参考にしたいそうです」
事務所に溢れる電話やメール、取引先との打ち合わせ。
以前は一人で細々と活動していた山本駆除サービスも、今や数名のスタッフを抱えるまでに成長していた。
社員たちとともに事業を進めることにより、慎也は会社経営者としての顔も持ち始めていた。
しかし、そんな中で彼の心の奥に潜む「真の目標」はまだ達成されていなかった。
駆除のプロとして、地域社会の課題を解決する存在としての道を着実に歩んでいたものの、彼の胸にはどうしても消えない「次なる挑戦」の思いがあった。
その思いが現実のものとなる出来事が訪れたのは、ある寒い冬の日だった。
「幻のイノシシ」への挑戦
千葉県の南部に位置する房総半島の山深い地域――そこは、駆除業者たちの間で「イノシシの巣窟」として知られていた。
広大な山林に住み着くイノシシの群れは、これまで多くの業者が駆除を試みるも、一度も全滅させることができず、農作物や人々の生活に甚大な被害をもたらしてきた。
そして、その地域には駆除業界で「幻のイノシシ」と呼ばれる伝説的な個体が存在していた。
体重150キロを超える巨大な体躯を持ち、獰猛で、非常に狡猾。
幾度となく業者たちの罠を掻い潜り、その姿を見た者すらほとんどいない。
捕獲に挑戦した者は例外なく失敗し、逆に襲われて大怪我を負うことすらあった。
「山本さん、あなたなら、あの『幻のイノシシ』を捕まえられるんじゃないですか?」
ある日、慎也のもとに、地元の農協組合の会長から電話がかかってきた。
農作物被害が深刻化し、農家の生活が脅かされていること、これまでの駆除業者では太刀打ちできなかったことを切々と訴えられた。
そして、組合は慎也にこの困難な仕事を依頼したいと言う。
「…俺が?」
慎也は一瞬ためらった。
幻のイノシシ。
その名は慎也も知っていた。
過去に多くの駆除業者が挑みながら、誰一人として成功しなかった伝説の相手だ。
駆除業者としてのキャリアを築き上げてきた慎也にとっても、その挑戦はあまりにも危険で、無謀に思えた。
だが、慎也の心の奥底に眠っていた挑戦心が、ゆっくりと目を覚ますのを感じた。
自分が駆除業者としてここまで来たのは、ただ生活の糧を得るためだけではない。
業界の常識を覆し、新しい駆除の形を提示してきたのは、困難な状況を打破するためだ。
もし自分が、この伝説のイノシシを捕らえることができれば、駆除業者としてのさらなる高みへと登れるかもしれない。
「…やらせてください。そのイノシシ、俺が捕まえます」
慎也の力強い言葉に、電話越しの農協組合の会長は感激の声を漏らした。
そして、慎也はすぐに準備を整え、房総半島の山奥へと向かった。
緻密な計画と準備
慎也は現場の山中に足を踏み入れると、まずは幻のイノシシの行動パターンと縄張りを徹底的に調査することから始めた。
地元の駆除業者や農家たちから情報を集め、過去に目撃された場所や、被害のあったエリアを細かく分析。
ドローンや遠隔カメラを駆使して、イノシシの動向を24時間監視する体制を整えた。
「こいつは…ただの獣じゃないな」
調査を続けるうちに、慎也は幻のイノシシの異常なほどの賢さに驚愕した。罠を設置した場所を遠巻きに観察し、自分が警戒すべき場所とそうでない場所を見極める。
慎重に罠の周囲を嗅ぎ回り、一度でも自分に危険が及びそうだと感じれば、二度とその場所には近づかない。
慎也は幾度も罠を仕掛けたが、すべて失敗に終わった。
そのたびにイノシシは慎也を嘲笑うかのように、罠のすぐ近くで荒らし回り、何事もなかったかのように姿を消す。
悔しさで拳を地面に叩きつけたことも一度や二度ではなかった。
「くそっ…どうすれば捕まえられるんだ!」
だが、慎也は諦めなかった。
イノシシが人間以上に賢いなら、自分はさらにそれを上回る知恵を絞るしかない。
慎也は過去のすべての経験と知識を総動員し、ついにある「特別な罠」を仕掛けることを決意した。
その罠とは、慎也自身が開発した「二段階式捕獲トラップ」だった。
通常の罠では、イノシシは簡単に危険を察知し、近づかない。
そこで、罠の中にさらにもう一つ罠を隠し、イノシシが最初の罠を回避しても、次の罠で確実に足を捉える仕掛けだ。
慎也はこの特別な罠を使い、イノシシの動きを分析しながら慎重に設置していった。
罠を仕掛け終えた夜、慎也は山中の見晴らしの良い場所にテントを張り、一人その場に留まった。
月明かりが淡く山を照らし、風が葉を揺らす音だけが響いている。
緊張感と不安が慎也の全身を支配し、時計の針の音がやけに耳に残った。
(これで…終わるのか?)
慎也は自分に問いかけた。
ここまで努力を重ねてきた自分。
駆除業者としての矜持をかけて、このイノシシを捕らえなければならないという思い。
しかし、その一方で、もしかしたら失敗するかもしれないという恐怖が頭をよぎる。
だが、その瞬間――
「ガサッ…!」
罠の方向から微かな物音が聞こえた。
慎也は息を殺し、静かに望遠鏡を手に取った。
視界の先には、罠の周りを慎重に歩き回る巨大な影。
――幻のイノシシがいた。
背丈が成人男性の腰ほどの高さまであり、全身の筋肉が盛り上がるその姿はまさに野生の王者。
獲物とは思えぬほどの堂々とした動きで、慎也の仕掛けた罠をじっくりと見極めていた。
慎也は心臓が張り裂けそうなほどの緊張感の中、静かにその様子を見守った。
イノシシは最初の罠を見事に避け、次の罠に近づく。
そして――その巨大な足が慎也の「二段階式捕獲トラップ」の輪の中に入った瞬間。
「カチンッ!」
金属音とともに、罠がイノシシの足を捉えた。
イノシシは驚き、激しく暴れ始めるが、罠はその巨体をしっかりと固定し、逃がさなかった。
慎也はすぐさま飛び出し、準備していた麻酔銃を放ち、イノシシの動きを封じた。
「やった…やったぞ!」
その場に膝をつき、慎也は静かに涙を流した。
これまでのすべての努力が実を結び、彼は伝説の幻のイノシシを捕らえることに成功したのだ。
新たなスタート
慎也のこの偉業は、駆除業界においても一大ニュースとなり、地域の人々からも大きな感謝と称賛を受けることとなった。
だが、慎也にとってはこれが終わりではなかった。
幻のイノシシを捕らえたことで、自分の中に新たな目標が生まれていた。
「これからは、ただ捕らえるだけじゃなく、どう共生していくかを考える時だ」
幻のイノシシを捕まえたことで、慎也は駆除業界の頂点に立った。
しかし、彼の目はすでにその先の未来を見据えていた。
捕獲したイノシシを保護し、野生動物の保護区を設立し、駆除と保護を両立させる新しい試みを始めることを決意する。
駆除業者としての山本慎也は、ただの駆除王では終わらなかった。彼は「駆除と共生のリーダー」として、次のステージへと歩み出していくのだった――。
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