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『駆除の覇者』第十話
窮地に立った時に、男ならば誰だって一攫千金を夢見てしまいがちですよね。
成功するか失敗するかはどこで別れるのか、私には分かりませんが、賢く根性がある人間が成功させるのではないかなと思います。
設計通りに上手く進めるのか、成功するまで諦めないのか。これに限る。
この作品では、大切な人を守るために何が出来るのか?
人生の岐路に立った時に、進むのか立ち止まるのか。
命と向き合いながら歩んでいく男のストーリーを一緒に歩んでみてください。
『グローバル共生サミット』
山本慎也の夢は、日本国内での共生プロジェクトを成功させ、東南アジアやアフリカ、南米などの国々へと広げ、世界中で野生動物と人間が共に生きる未来を目指す「グローバル共生ネットワーク」を構築することだった。
そして、彼の挑戦の集大成として開催されるのが「グローバル共生サミット」である。
このサミットは、慎也が提案し、世界中の環境保護団体や駆除業者、学術機関、国際組織の協力を得て実現したものだ。
初開催の地として選ばれたのは、慎也の活動の原点である千葉県。
その象徴として、千葉共生センターがサミットのメイン会場となることが決まった。
サミット開催前夜
サミットを前日に控え、慎也はセンターの一室で一人考え込んでいた。
これまで数えきれないほどの困難を乗り越え、ついにここまでたどり着いたのだという感慨と共に、深い不安も胸に渦巻いていた。
「本当にこれでいいのだろうか…?」
慎也はこれまでの活動を振り返り、幾度となくその問いを自分に投げかけてきた。
サミットでは、共生ネットワークの理念を世界に向けて発信し、各国の駆除業者や環境保護団体の意見をまとめ、今後の活動方針を決定することになっている。
だが、慎也はわかっていた。
ここに至るまでの過程で、全員が彼の考えに賛同しているわけではなかったことを。
駆除業界の中には、慎也の理念を「理想論」として切り捨てる者もいる。
特に、これまで命を懸けて駆除活動を行ってきたベテラン業者たちからは、「駆除が唯一の解決策だ」との声も根強い。
世界各国の状況もまた、千差万別であり、全員が同じ目標に向かって進むことは容易ではないだろう。
慎也はふと窓の外を見つめた。
センターの庭には、様々な国から集まった参加者たちが準備に追われている。
日本国内の駆除業者、東南アジアの動物保護団体、アフリカの生態調査チーム、そして南米からの森林再生プロジェクトのメンバーたち。
それぞれの言語が飛び交い、互いに通訳を介して意思疎通を図っている光景に、慎也は小さな安堵を覚えた。
「こんなふうに、世界中の人々が一つの目的のために集まる場所が作れただけでも、成功なんだ…」
だが、彼の胸の中には、まだ解消できない不安が残っていた。
そのとき、ドアがノックされ、由美が静かに部屋に入ってきた。
「慎也さん、大丈夫ですか?」
「由美…うん、ちょっと考え事をしていただけさ」
由美はそっと彼の隣に座り、優しく微笑んだ。
「私たち、ここまで本当によくやってきたと思います。失敗もたくさんしたし、壁にぶつかることも多かったけど、あなたの情熱と誠実さが、多くの人たちを動かしたんです。だから、大丈夫」
彼女の言葉に、慎也は深く頷いた。共に歩んできた仲間がいる。このサミットは、自分一人の力ではなく、彼女や多くの協力者たちの支えがあったからこそ実現できたのだ。
「ありがとう、由美。明日、しっかりと自分の思いを伝えるよ」
サミット初日 - 開会のスピーチ
サミット初日、千葉共生センターの大ホールには、世界中から集まった駆除業者、環境保護団体、学者、行政関係者、さらには多くのメディア関係者が集結していた。
ホールの舞台上には、サミットのテーマを示す「共生の未来へ - Coexistence for the Future」の大きなバナーが掲げられ、会場は開幕の期待感に包まれていた。
慎也は深呼吸をし、舞台中央の演台に立った。
見渡す限りの参加者たちの視線が彼に注がれる。その瞬間、彼の心に緊張感と同時に、強い覚悟が生まれた。
「皆さん、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
慎也は一礼し、ゆっくりと語り始めた。
「私は、普通のサラリーマンとして生活していました。けれど、ある日イノシシ駆除をきっかけに、自分の道が大きく変わりました。
駆除という仕事を通じて、多くの命を奪い、多くの命を守る。その狭間で葛藤し、苦しみました。そんな中で、私は一つの答えにたどり着きました。
それは、駆除は目的ではなく、共生への一歩に過ぎないということです」
会場が静まり返り、慎也の言葉を聞き逃すまいとする空気が張り詰めた。
「これまで、私たちは人間と野生動物の間に壁を作ってきました。しかし、その壁を越え、互いに理解し、共に生きることはできるはずです。
今日ここに集まったのは、皆さんがその可能性を信じているからだと思います」
彼は胸を張り、強い口調で続けた。
「私は、駆除業者として多くの命を奪ってきました。その事実を消すことはできません。
でも、だからこそ、その命を無駄にしないために、これからの未来を創っていく義務があると感じています。
このサミットが、世界中の駆除業者、環境保護団体、そして地域社会が共に歩むための第一歩となることを心から願います」
慎也のスピーチが終わると、会場は一瞬静寂に包まれた。
しかし、次の瞬間、大きな拍手と歓声がホール全体に響き渡った。
拍手の中には、涙を浮かべている参加者もいれば、慎也の言葉に胸を打たれ、思わず席を立ち上がって拍手を送る者もいた。
慎也はその光景を目の当たりにし、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
「やっと…ここまで来たんだ」
涙をこらえながら、慎也は舞台上で深々と頭を下げた。
その瞬間、彼の中にあった不安がすべて消え去り、新たな希望が湧き上がってきた。
サミットの成功と次なる目標
サミットは無事成功を収め、世界中の参加者たちはそれぞれの国へと戻り、共生ネットワークを広めるための新たな活動を開始した。
慎也と由美も、再び各地を飛び回り、共生の理念を広めるための努力を続けた。
サミットの終了後、慎也は千葉共生センターの屋上から夜空を見上げていた。
無数の星々が輝く中、彼は自分の胸に手を当て、これまでの道のりを振り返っていた。
「ここまで来れたのは、本当に多くの人たちのおかげだ。だけど、まだ終わりじゃない。
共生の未来を実現するためには、もっと多くの人に協力してもらわなければならない」
慎也は深く息を吸い込み、遠くの空を見つめた。その視線の先には、これまでの努力が結実し、次なる目標が待ち構えているように感じられた。
彼の挑戦は終わらない。
これからも、世界中の野生動物と人間の共生の未来を創るため、慎也は新たな道を切り拓いていくのだ。
その時、ふいに背後から由美の声が聞こえた。
「慎也さん、次はどこへ行くんですか?」
慎也は微笑みを浮かべ、ゆっくりと由美に振り返った。
「次は、アフリカだよ。アフリカで、共生モデルをもう一段階進化させるプロジェクトを立ち上げたいんだ」
由美はその言葉に力強く頷いた。
「ええ、行きましょう。私たちならきっとできるはずです」
こうして、慎也と由美の挑戦は再び新たな舞台へと向かうこととなった。
彼らの目には、さらなる未来を見据えた確かな光が宿っていた。
これまでの努力、そしてこれからの未来――すべては「共生の覇者」として、慎也が追い求める夢のために。
その夜、慎也は静かに心の中でつぶやいた。
「俺たちは、必ずこの世界を変えてみせる」
その言葉は、暗闇の中で静かに輝き、遠い未来へと続いていく道を照らし出していた――。