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『駆除の覇者』第八話


窮地に立った時に、男ならば誰だって一攫千金を夢見てしまいがちですよね。
成功するか失敗するかはどこで別れるのか、私には分かりませんが、賢く根性がある人間が成功させるのではないかなと思います。
設計通りに上手く進めるのか、成功するまで諦めないのか。これに限る。

この作品では、大切な人を守るために何が出来るのか?
人生の岐路に立った時に、進むのか立ち止まるのか。
命と向き合いながら歩んでいく男のストーリーを一緒に歩んでみてください。


#LimitlessCreations


『共生ネットワークの拡大』

「千葉共生センター」の設立は、山本慎也と山内由美にとって大きな成果であったが、それは彼らの最終目標ではなかった。
むしろ、二人にとってその施設は「共生ネットワーク」を全国へ広げるための出発点に過ぎなかった。

駆除業者としての経験、共生プロジェクトを通じて得た知識、そして何よりも彼らの活動に共感し、協力を申し出てくれる多くの仲間たちの存在。

それらの力を一つに集約し、駆除業界に新しい風を吹き込むことこそが、慎也と由美の次なる目標だった。

しかし、全国規模の共生ネットワークを構築することは、千葉県内での活動とは比べ物にならないほど困難な道のりだった。

各地方ごとに異なる野生動物の生態系、行政や地域住民の理解度、そして駆除業者の意識の差――
解決すべき問題は山積みで、慎也はその対応に奔走することになる。


各地での挑戦と苦難

まず、慎也と由美は共生ネットワークを広げるため、全国各地の駆除業者や行政機関、NPO団体との対話を開始した。
各地方の実情を把握し、それぞれの地域に合った共生モデルを構築することが彼らの最初の目標だった。

北海道では、冬になるとヒグマの被害が増え、農地や住居が襲撃されることが問題となっていた。
ヒグマはイノシシやシカと違い、圧倒的な力と獰猛さを持ち、駆除業者の対応だけでは解決が難しい状況だった。

慎也は地元の駆除業者たちと連携し、ヒグマの行動調査や緩衝地帯の整備、地域住民向けの避難訓練を実施するプロジェクトを立ち上げた。

「ヒグマを完全に駆除することは不可能です。彼らとの距離を保ちながら、どう共存していくかを考えることが重要です」

慎也の提案は一部の駆除業者から反発を受けた。駆除こそが業者の仕事であり、共存などという理想論は受け入れられないと考える者も多かったからだ。
特に、これまで数多くのヒグマを駆除してきたベテラン業者たちは、慎也の「共生」という言葉に眉をひそめた。

「共生なんてキレイ事だ。ヒグマに襲われたら、住民の命が危ないんだぞ!」

慎也はその言葉に耳を傾け、冷静に答えた。

「もちろん、住民の安全が最優先です。
ですが、ヒグマが人里に降りてくる原因を突き止め、その環境を改善することも私たちの仕事です。
ヒグマをただ駆除するだけでは、問題の根本解決にはなりません」

彼は業者たちと議論を重ね、時間をかけて少しずつ理解を得ていった。
慎也の熱意と冷静な分析、そして彼が千葉で築き上げた実績が、次第に駆除業者たちの心を動かしていったのだ。

次に訪れたのは関西地方。
ここでは、近年アライグマやハクビシンといった外来種の被害が増え、住宅地や観光地での駆除が求められていた。

外来種の駆除は生態系保護の観点からも重要だが、地域住民や観光客との摩擦を避けるため、慎也は情報共有の場を設け、外来種の駆除と保護のバランスについて話し合うワークショップを実施した。

「アライグマやハクビシンは、可愛らしい見た目をしているけど、生態系に大きな悪影響を与えます。
住民の皆さんにも、その危険性を理解してもらいたいんです」

慎也は由美とともに、ワークショップで住民たちに動物たちの生態やリスクを説明し、共に解決策を考える場を提供した。

その活動が功を奏し、外来種駆除と生態系保護の両立を図る取り組みが地域に根付くことになった。

しかし、全国での活動が広がるにつれ、慎也は一つの壁にぶつかることになる。

駆除業界の「古い慣習」との対立

駆除業界には、長年にわたって築かれた「古い慣習」があった。
それは、ただ動物を捕らえ、駆除し、報奨金を得るというシンプルな構図だ。
この慣習は、地域の安全を守るためには必要不可欠なものであり、慎也もそのことを十分に理解していた。

だが、慎也の目指す「共生ネットワーク」は、この慣習を変革し、駆除業者たちに新しい考え方を受け入れさせる必要があった。

それは、駆除の仕事に誇りを持ち、命の危険を冒しながら活動している多くの業者にとって、自分たちのアイデンティティを否定されるような感覚を抱かせるものだった。

「駆除は俺たちの仕事だ。
命を懸けて守ってきたんだ。
それを共生だのなんだのと、偽善者の言葉で片付けられてたまるか!」

ある地方の駆除業者組合での会合で、ベテラン業者の一人が慎也に向かって強く言い放った。
会場は静まり返り、慎也は一瞬言葉を失った。

彼が目指しているのは業者たちの仕事を否定することではない。

むしろ、彼らの活動をより安全で有意義なものにし、将来的に地域社会全体を守ることだ。

「わかっています。私も駆除業者として活動してきました。命を懸けて仕事をすることの辛さも、大切さも知っています。でも、だからこそ…」

慎也は力強く前を見据え、会場を見渡した。

「だからこそ、駆除が『最後の手段』であるべきだと私は思うんです。
皆さんが命を懸けて守ってきた地域を、ただ動物を駆除するだけではなく、共に生きる場所として守っていけるように、私たちが先頭に立って未来を創っていきたいんです」

彼の言葉に、会場の空気は少しずつ変わり始めた。
慎也の真剣な思いと、これまでの活動の実績が、多くの業者たちの心に響いたのだ。

「お前の言うことが本当に正しいのかどうかは、すぐにはわからん。だが、その目を見てると嘘を言ってるようには見えねえな…」

先ほどのベテラン業者が、少し困惑した表情を浮かべながらも、慎也に向かって頷いた。

「やってみろ、坊主。もしお前が失敗しても、俺たちは駆除を続けるだけだ。だが成功したら…お前のやり方を認めてやる」

慎也は深々と頭を下げ、静かに答えた。

「ありがとうございます。必ず成功させてみせます」

その日を境に、慎也の共生ネットワークは全国の駆除業者たちに少しずつ浸透していった。


「共生ネットワーク全国協議会」の設立


慎也と由美は、全国の駆除業者、行政機関、研究者、地域住民たちを巻き込み、ついに「共生ネットワーク全国協議会」を設立することに成功した。

この協議会は、各地域の駆除活動の現状を共有し、共生に向けた取り組みを連携して行うことを目的としたものだった。

協議会は定期的に全国各地で会合を開き、情報交換や意見交換を行うことで、駆除業者たちの負担を軽減し、野生動物と人間が共に生きるための知識や技術を広めていった。

慎也はその協議会の初代代表として任命され、全国を飛び回りながら、地域ごとの共生モデルの構築に全力を注いだ。

その活動は日本国内にとどまらず、海外の環境保護団体や自然保護区との連携も視野に入れた国際的な取り組みへと発展していった。



新たな展望

「共生ネットワーク全国協議会」の活動が軌道に乗り始めた頃、慎也はふと立ち止まり、自分のこれまでの歩みを振り返った。

普通のサラリーマンだった自分が、駆除業者として駆け出し、全国規模の共生プロジェクトを展開するまでに成長したのは、すべて支えてくれた仲間たちのおかげだった。

その仲間たちとともに、次なる挑戦に向かって進んでいくことを、慎也は改めて心に誓った。

「次は、国境を越えて世界と共生を図る時だ。人間と野生動物が本当に共に生きるための未来を、俺たちが切り拓いていくんだ」

その言葉を聞いた由美は、力強く頷いた。

「ええ、私たちなら、きっとできる。これからも、ずっと一緒に」

こうして、慎也と由美の挑戦は日本を越え、世界へと広がっていくのだった――。


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#駆除の覇者

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