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『静寂の廃墟』前編
あらすじ
人々に忘れ去られた山奥の研究施設。
「希望の灯」と呼ばれたその施設は、かつて人類の未来を切り開く技術を追い求めていた。
しかし、突如として研究は中断され、施設は閉鎖。誰もがその理由を知らないまま、都市伝説のように語られる存在となった。
主人公・結城直人(ゆうきなおと)は、廃墟探訪を趣味にする大学生。
廃墟を訪れるうち、謎に包まれた研究施設の存在を知り、足を踏み入れることを決意する。
そこで待ち受けていたのは、人智を超えた「何か」と過去の真実だった。
静寂の廃墟
山深い場所にひっそりと佇む研究施設。その巨大な鉄製の扉は錆びつき、薄暗い森に飲み込まれるように朽ち果てていた。結城直人はヘッドライトを点けながら、重い足取りで扉の前に立つ。
「ここが、例の施設か……」
手にしたスマートフォンの画面には、古ぼけた地図の画像が映っている。ネットで集めた情報によると、この施設は20年前、最先端のバイオテクノロジーを研究していたという。
詳細は明らかにされていないが、突然の閉鎖が決定され、スタッフ全員が姿を消したという噂がある。
直人は扉に手を掛け、ゆっくりと押してみた。鉄と鉄がこすれる不快な音が響き、扉は思ったよりもあっさりと開いた。
「……入るしかないか」
施設内は想像以上に広大で、冷え切った空気が肌にまとわりつく。壁には剥がれかけた警告文が貼られ、ガラス製の仕切りの向こうには、用途不明の実験器具が無造作に散らばっていた。
「誰かいたのか? それとも何かが……」
直人の頭には、数年前に見た都市伝説がよぎる。閉鎖された理由は、失敗した実験によって「異形の存在」が生まれたからだという。もちろん、それはただの作り話のはずだった。
直人は奥へと進むうちに、一つの部屋にたどり着いた。扉には「研究エリアA」と書かれている。中には、今にも壊れそうなコンピュータと、スクリーンがいくつも並んでいた。
「動くのか……?」
半信半疑で電源ボタンを押すと、驚いたことに一部のモニターが明るく光り始めた。画面に映し出されたのは、研究員たちの映像記録だ。そこには、満面の笑みを浮かべるスタッフたちと、何かを囲むシーンが映っていた。
「……これは?」
記録の中で、彼らは新しいバイオテクノロジーが完成したことを誇らしげに語っていた。しかし、次の映像になると、状況は一変する。映像に映るスタッフたちは怯え、誰かに追われるように走っている。
「これって……一体何が……」
その瞬間、背後で何かが動く音が聞こえた。
ギィ……ギギィ……
振り返ると、薄暗い廊下の先に「何か」がいる。人間のように立ち上がりながらも、その体は異常に細長く、皮膚は灰色で、目は赤く光っている。
直人の心臓は高鳴り、恐怖で体が硬直した。
「これは……夢か?」
次の瞬間、「それ」は直人に向かってゆっくりと歩み寄ってきた。
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