見出し画像

『駆除の覇者』第四話

窮地に立った時に、男ならば誰だって一攫千金を夢見てしまいがちですよね。
成功するか失敗するかはどこで別れるのか、私には分かりませんが、賢く根性がある人間が成功させるのではないかなと思います。
設計通りに上手く進めるのか、成功するまで諦めないのか。これに限る。

この話では、大切な人を守るために何が出来るのか?
人生の岐路に立った時に、進むのか立ち止まるのか。
命と向き合いながら歩んでいく男のストーリーを一緒に歩んでみてください。

#LimitlessCreations


『駆除の未来』


駆除業者としての成功を重ねた山本慎也は、会社勤めと駆除業の二重生活を続ける中で、心の中にある疑問が次第に膨らんでいった。

イノシシ、シカ、外来種――彼らを捕獲し、駆除することは地域社会を守るために必要だ。

しかし、捕獲して終わりという結末が、果たして本当に「解決」と言えるのだろうか。


そんな思いを抱えたまま日々の駆除をこなす中で、慎也はいつしか「駆除業者としての未来」を考えるようになっていた。
彼の頭の中には、いつも山内清一郎の言葉が蘇る。


「駆除はただ獣を捕まえるだけじゃない。お前が捕まえた後、その獣がどうなるかを考えろ」

捕獲された獣たちは、通常は行政の指示のもとで安楽死させられ、焼却処分される。

それは仕方のないことだと分かっている。
だが、一度は命を奪われる側に回された獣たちを前に、慎也の心はどうしても釈然としなかった。

何かもっと有効に使える方法はないのだろうか。駆除業者としての自分が、もっと社会に貢献できる道はないのだろうか。

その考えが、彼を大きな決断へと導くことになる。


――2019年のある秋の日、慎也は会社を辞める決断を下した。



それまでサラリーマンとして働き続けてきた職場を去り、駆除業一本に専念することにしたのだ。妻の裕子はその決断に当初は驚き、反対の声を上げた。

「本当に、会社を辞めるの? 駆除だけでやっていけると思ってるの?」

裕子の声には、怒りと不安が入り混じっていた。安定した収入がなくなることで、家計がどうなるのかという心配は当然のものだった。
だが、慎也の心は既に決まっていた。

「裕子、俺は駆除業を本気でやっていきたいんだ。ただの副業や小遣い稼ぎじゃなくて、社会に役立つ仕事として、本物のプロとして」

慎也は目を真っ直ぐに見据え、強い意志を込めて話した。
その姿を見て、裕子はしばらくの間、言葉を失ったようだった。

慎也が家族のために、真剣にこの道を選んだことを理解したからこそ、彼の決意を尊重することにしたのだ。

「わかったわ、慎也 でも、約束して。
無理をしすぎて、体を壊さないこと。そして、私たちのことを置き去りにしないこと」

「もちろんだ。ありがとう、裕子。
  俺、必ず成功してみせるよ」

その日から、慎也の生活は一変した。
自分の名前で会社を立ち上げ、「山本駆除サービス」としての第一歩を踏み出した。

これまでは個人として活動していた駆除業も、法人化することでより信頼性を高め、行政との連携や大規模な依頼にも対応できるようになった。

だが、起業した直後、慎也は現実の厳しさを思い知ることになる。

会社勤めを辞めたことで収入は一気に減少し、生活費を稼ぐために駆除依頼を増やさざるを得なくなった。

依頼はあるものの、駆除だけで安定した収入を得るには限界がある。

さらに、捕獲した獣の処分にかかる費用もバカにならなかった。

駆除することで得られる報奨金と、処分にかかる費用が相殺されてしまい、利益はほとんど残らないこともあった。

「このままじゃ、生活が成り立たない…」

夜、事務所の机に突っ伏したまま、慎也は途方に暮れていた。
せっかく駆除一本でやっていくと決めたのに、このままではいずれ行き詰まってしまう。

だが、そんな彼に一筋の光が差し込む出来事があった。

それは、千葉県のとある山村からの依頼だった。

近隣の畑を荒らしていたイノシシを捕獲し、その処分をどうするかを話し合っていた時、依頼主の農家の男性がふと口にした言葉が、慎也の胸に強く響いた。


「このイノシシ、せっかく捕まえたんだし、捨てるのはもったいないなぁ。
最近、ジビエ料理とかが流行ってるって聞くけど、うちの畑を荒らしたこいつも美味しいのかな?」


その一言で、慎也の中にあるアイデアが浮かび上がった。

「そうだ、ジビエだ! イノシシやシカは食肉としても利用できるはず…」

すぐさま慎也はジビエの可能性を調べ始めた。

日本では害獣駆除で捕獲されたイノシシやシカの多くが、そのまま焼却処分されている。
しかし、欧州諸国ではこれらを食用として活用し、地域産業の一つとして確立している例が多く存在していた。

慎也は思い切って県の担当部署に相談し、ジビエ料理としての食肉利用を申請。

捕獲した獣を安全に処理し、食肉として流通させるための許可を得るまでには多くの時間と手続きが必要だったが、慎也は決して諦めなかった。

その結果、彼はついに「山本ジビエブランド」を立ち上げ、捕獲したイノシシやシカの肉を地元の飲食店や加工業者と提携して販売するルートを確立した。

さらに、ジビエ料理を提供するレストランとのコラボイベントを企画し、害獣の駆除と食の振興を結びつけた新しいビジネスモデルを築いたのだ。


「これで…ただ獣を殺すだけの駆除じゃなくなる」


ジビエブランドが軌道に乗り始めた頃、慎也のもとにはマスコミや他県の行政機関からも取材や問い合わせが相次ぐようになった。

彼の取り組みは駆除業界の常識を覆すものであり、地域社会の活性化や食文化の多様化にも貢献するものとして評価され始めたのだ。

そして、ついに彼の名は「千葉の駆除王」から「ジビエの開拓者」へと変わっていく。



新たな挑戦への道

だが、慎也はここで満足することはなかった。
ジビエブランドを立ち上げたことで駆除の在り方に一石を投じた彼は、次に駆除と自然保護の両立を目指すプロジェクトを立ち上げることを決意する。

害獣の生態調査、地域ごとの獣害管理システムの導入、さらには地域住民とのワークショップを通じて、駆除だけに頼らない共存の道を探る試みだ。


彼の目指すのは、ただ「駆除のプロ」で終わるのではなく、社会全体を巻き込んだ「駆除と共生のリーダー」になることだった。

慎也の挑戦はまだまだ続いていく。
新しい未来を切り開くため、彼はさらに大きな一歩を踏み出そうとしていた――。


#LimitlessCreations

いいなと思ったら応援しよう!