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『自力と馬力』第二話

どんな時代においても、親と子の葛藤は様々な形で繰り返し、この世界に最高の可能性を生み出しています。
とても素敵なことですね。

今回は農業を題材に描きました。
何度も失敗を重ね培ってきた技術は、新しい技術よりも劣るものばかりです。
しかし、経験から得た知識でしか解決出来ないこともありますよね。

LimitlessCreationsでは作品を描く際に、
意識している事があります。
それは『共存』
世の中がAIやハイスペックなもので溢れても、
そこには必ず人の手が必要です。
人間が得た知識と経験を最高に活かす為のツールであり、便利に活用することを目標としてほしいと感じております。
『便利』は過去から未来への贈り物です。

#LimitlessCreations


『機械化への挑戦』



田村悠太の心には、父の哲学が少しずつ響き始めていた。
しかし同時に、市川圭介が見せた最新型トラクターの力も忘れられなかった。
手作業での効率の悪さに苛立ちを覚えつつも、父が大切にしている「土との繋がり」を完全に否定することもできない。
そんな葛藤の中、悠太はある決断をする。


初めての機械導入

ある日、悠太は市川を訪れた。
最新のトラクターを試しに使わせてもらえないかと頼むためだ。
市川は快く了承し、自分の畑で実演を見せた。
エンジン音を響かせながら、トラクターは広大な畑をあっという間に耕していく。

「どうだ?これなら時間も体力も節約できるだろ?」

悠太は感嘆した。
そのスピードと正確さは、父と二人で一日かけてやっていた作業を数時間で片付けてしまう。
市川のトラクターを借りることにした悠太は、翌日自分の畑でそれを使う準備を整えた。


父との衝突

トラクターを運び込んだ悠太を見て、父・寛人の顔は険しくなった。

「お前、それは何だ?」

「市川さんから借りたトラクターだよ。これで効率よく耕せると思って。」

父は静かに息を吐き、鍬を持ったまま悠太を見据えた。

「効率だと?お前、効率ばかり追い求めて、何が大事か見失っちゃいないか?」

悠太は反論した。

「でも父さん、こうやって新しいものを取り入れないと、いつまでたっても俺たちはこの重労働から抜け出せない。
それに、効率が上がれば収穫も増えるし、収益も良くなるだろ?」

寛人は言葉を発せず、しばらく畑を見つめていた。そして一言だけこう言った。

「好きにやれ。」

その言葉には、父の怒りだけでなく、悠太に試練を与えようとする意図も込められていた。


トラクターの威力

翌朝、悠太はトラクターを動かし、広い畑を一気に耕した。
大地を均す音、振動、そして自分の手の力を使わずに進む速さに感動を覚えた。

作業が終わったころ、疲労感はほとんどなく、それまで父と共に苦労していた日々が嘘のように思えた。

「やっぱりこれだ!これなら俺にもやれる!」

悠太は喜びを感じたが、その一方で、父が黙って遠くから作業を見守っていたのを気づかなかった。


思わぬ失敗

数日後、悠太は自信を深め、さらに作業を進めていった。
しかし、ある一画だけ苗の成長が著しく遅れていることに気づいた。
土を掘り返してみると、トラクターの重みで土が固く締め付けられ、水がうまく浸透していないことが分かった。

その瞬間、父の言葉が胸に蘇った。

「土は正直だ。」

トラクターの馬力がもたらした効率の裏には、土の微細な状態を見逃す危険が潜んでいた。
悠太は市川に相談するが、彼は簡単にこう言った。

「それなら深耕できるアタッチメントを付ければいいさ。」

だが、それはまた新たな費用を意味する。悠太は現実の厳しさに直面し、深くため息をついた。


父の教え

その夜、悠太は酒を飲みながら父に現状を話した。
父は特に驚く様子もなく、静かに話を聞いていた。そしてこう告げた。

「効率を追うのは悪いことじゃねえ。ただな、効率だけを考えると、土の声が聞こえなくなる。俺が鍬を使うのは、土と直接向き合うためだ。」

悠太は反論できなかった。
だが、効率を重視することのメリットも捨てきれない。
悠太は父のやり方と機械化の間に橋を架ける方法を探し始める。


初めての妥協

翌日、悠太は父と相談しながら、トラクターと手作業を併用する方法を試してみることにした。
トラクターで畑全体を耕した後、重要な部分だけを鍬で整え、丁寧に作業を進める。

父は渋い顔をしながらも、その方法を黙って手伝った。
そして作業が終わった後、悠太にこう言った。

「馬力も悪くねえな。だが、それだけじゃ駄目だ。お前が土を知り、土を愛してこそ、本当の意味で効率が活きてくる。」

悠太はその言葉を噛み締めながら、トラクターのエンジン音を聞いた。
それは、効率と愛情の調和を象徴する音のように思えた。


悠太は初めて、父と共に土に触れる喜びを感じた。
そして、効率を上げることも重要だが、それだけでは農業の本質を見失うという父の教えを胸に刻んだ。

「自力と馬力。どちらも捨てずに、自分の道を探すしかないんだな。」

悠太の中で、農業への新たな覚悟が生まれようとしていた。

#LimitlessCreations
#自力と馬力
#農業
#効率化


機械化への期待と現実のギャップ。
そして父との衝突を通じて、「自力」と「馬力」の相違と葛藤に立ち止まるのか。
次話では、二人の協力関係が生まれ、新しい農業の形を模索していく。

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