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『駆除の覇者』第三話

窮地に立った時に、男ならば誰だって一攫千金を夢見てしまいがちですよね。
成功するか失敗するかはどこで別れるのか、私には分かりませんが、賢く根性がある人間が成功させるのではないかなと思います。
設計通りに上手く進めるのか、成功するまで諦めないのか。これに限る。

この話では、大切な人を守るために何が出来るのか?
人生の岐路に立った時に、進むのか立ち止まるのか。
命と向き合いながら歩んでいく男のストーリーを一緒に歩んでみてください。

#LimitlessCreations
#駆除の覇者


『駆除の道を極める』


初めてのイノシシ捕獲から数週間が経った頃、山本慎也はますます駆除の仕事にのめり込んでいた。

成功体験の余韻は既に薄れ、次のステップをどう踏み出すか、さらに自分を高めるためにはどうすればよいのかを考えるようになっていた。


――その頃、彼の生活はすっかり二重生活と化していた。


平日の朝はこれまでと同じく、スーツを着て会社へ出勤。

電話営業に外回り、上司の無茶な要求をこなす日々。
ノルマのプレッシャーは依然として重くのしかかっていたが、それでも心のどこかに支えができたことで、慎也の表情には以前よりも余裕が生まれていた。


だが、仕事が終われば、その余裕は一変する。
まるで戦場に向かうかのように、慎也は目を鋭くし、スーツを脱いで作業着に着替え、山中へと向かう。

週末には千葉県内各地の山々を巡り、獣害の報告があった地域に罠を仕掛けたり、すでに罠にかかった獲物を回収したりと、駆除業務に全力を注いでいた。

時には徹夜で罠を仕掛け続け、早朝に確認に行くこともあった。

最初は趣味と実益を兼ねて始めた駆除だったが、次第にそのスキルと知識はプロの領域に達しつつあった。


「山本さん、あなたの腕前は、もうアマチュアの域じゃないですね」

ある日、市役所の担当者から電話がかかってきた。

農家からの依頼が増え続け、慎也に直接依頼したいという声も多く寄せられているという。

イノシシやシカといった大型獣の捕獲はもちろん、農地を荒らすアライグマやハクビシン、ヌートリアなど、外来種の駆除も次々と依頼されるようになっていた。


駆除業務が増えるとともに、彼は駆除の難しさと奥深さを実感するようになる。

初めての成功は偶然の産物に過ぎなかった。
実際には、獣道を見極め、獣の行動パターンを読み、最も効果的な場所に罠を仕掛ける必要がある。

そのためには、獣の生態を知り尽くさなければならない。


慎也は次第に、自分の技術がどこまで通用するのかを試すことに挑戦心を抱き始めていた。

ネットで情報を集めるだけでは飽き足らず、近隣のベテラン駆除業者に直接教えを請い、経験を積むために彼らとともに現場に赴くこともあった。


「若いの、これはただの罠設置じゃないんだ。獣が罠に引っかかる瞬間まで想像しろ。
やつらがどうやってここに来て、どうやって引っかかるか、頭の中でシミュレーションし続けるんだ」


慎也の目の前に立つのは、地元で「駆除の達人」と呼ばれる60代の古株、山内清一郎。 

慎也が駆除の世界に足を踏み入れて間もない頃、地元の役場を通じて紹介されたこの男は、40年以上にわたり山々を駆け巡り、幾度となく獣を捕らえてきた経験を持っている。

山内はあまり口数が多くないが、いざ現場に入るとその目は獲物を逃さない鋭いハンターのそれへと変わる。

「獣ってのは人間が思うほどバカじゃない。
賢いし、したたかだ。少しでも違和感を感じれば、すぐに警戒して近寄らなくなる。
だから、ただ罠を仕掛けるだけじゃダメなんだ。自分自身を無にして、獣の気持ちになって動け」


「無にする…獣の気持ち…」


慎也には山内の言葉がすぐに理解できなかった。

罠を仕掛けることが駆除のすべてだと思っていた自分が、いかに浅はかであったかを思い知る。


山内の動きを見ながら慎也は、どんなに些細な地面の変化にも注意を払い、少しでも獣に気づかれるような痕跡を残さないように注意深く作業をするようになった。



そして、ある日。

山内の教えを受けながら設置した罠に、狙っていたイノシシの親子が見事にかかった瞬間、慎也の中で何かが弾けたような感覚があった。

罠の前を通りかかった瞬間、イノシシの母親が慎重に罠の周囲を嗅ぎ回り、その警戒心を解くまで、慎也は息を殺して木陰に潜んでいた。

すると、罠の周囲の米ぬかの匂いを嗅ぎ取ったイノシシは、その輪の中に一歩、また一歩と踏み出していく。

(いける…)

慎也の心臓は爆発しそうなほどの緊張感に包まれた。

足元に置かれた土や枯葉がわずかに揺れ、慎也の息が白い霧となって夜の空気に溶けていく。
慎重に罠を踏み越え、イノシシの母親が足をその輪の中に入れた瞬間、カチリという音が響き、金属製の輪がイノシシの足を捉えた。

「やった…!」

すぐさま木陰から飛び出し、イノシシを捕獲するための作業に取り掛かる。
これまで何度も経験してきた捕獲手順も、今や慎也の体に染みついている。
獲物が暴れ出す前に素早く頭をネットで覆い、麻酔銃を打ち込み、イノシシが動きを止めるまで耐える。

「山本、お前…いい目をしてるな」

その一連の動きを見ていた山内が、珍しく口を開いた。

山内は慎也をじっと見つめると、静かに言った。

「お前みたいな若造がここまでやるとは思わなかった。だが、これはまだ序の口だ。獣を捕まえるのは、ただの始まりに過ぎない。
これからは、お前がその先を考えて行動する番だ」

「その先、ですか…?」

慎也は目を見開き、山内の言葉に耳を傾けた。
駆除をすること、それ自体が目的ではない。
人々を守り、農地を守り、自然との共存を考えながら、どう駆除を行い、どう生態系のバランスを取るのか。

駆除業者としての役割の奥深さを教えられたような気がした。

こうして慎也は、イノシシやシカといった大型獣だけでなく、農地を荒らす外来種の駆除まで手掛けるようになり、地域社会に欠かせない存在へと成長していった。

そして、次第に彼のもとには地元を超えた千葉県全域からの依頼が舞い込むようになり、その名は地域社会で広く知られることとなる。


駆除業者としての経験を積み、着実に実力を伸ばしていった慎也は、やがて駆除の枠を超えた活動へと乗り出すことを考え始める。

山内や他のベテランハンターたちと接する中で、ただ捕獲することに留まらない駆除の在り方を模索するようになっていくのだが、その過程で彼は多くの葛藤と困難に直面することになる。次第にその葛藤は「駆除の未来」を見据えた新しい挑戦へと繋がっていくことになる。


#LimitlessCreations
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#害獣駆除
#ジビエ

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