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『自力と馬力』第一話

どんな時代においても、親と子の葛藤は様々な形で繰り返し、この世界に最高の可能性を生み出しています。
とても素敵なことですね。

今回は農業を題材に描きました。
何度も失敗を重ね培ってきた技術は、新しい技術よりも劣るものばかりです。
しかし、経験から得た知識でしか解決出来ないこともありますよね。
LimitlessCreationsでは作品を描く際に、
意識している事があります。
それは『共存』
世の中がAIやハイスペックなもので溢れても、
そこには必ず人の手が必要です。
人間が得た知識と経験を最高に活かす為のツールであり、便利に活用することを目標としてほしいと感じております。
『便利』は過去から未来への贈り物です。

#LimitlessCreations


『帰郷の葛藤』


都会の高層ビル群が、夕暮れの空に黒い影を落としていた。田村悠太は肩を落としながら、街灯の下を歩いていた。

彼の心には、一つの言葉がずっとこびりついていた。

「自分の力だけでは、どうにもならないことがあるんだ」

職場での失敗、夢だったプロジェクトの頓挫、そしてそれに伴う借金。
あらゆる現実に押しつぶされ、彼は逃げるように故郷に戻ることを決意する。
田舎の農業には、かつて自分が見下していた「泥臭さ」がある。
それでも彼は、都会で味わった挫折から少しでも解放されることを望んでいた。

父との再会

悠太が故郷の家に戻ると、玄関の前には泥だらけの長靴と、古びた農具が並べられていた。
迎えに出てきた父・寛人は、皺だらけの顔に驚きも喜びも浮かべず、ただ一言だけこう言った。

「帰ってきたんなら手伝え。」

悠太は心の中で苦笑した。
父は昔から無愛想で、感情をあまり表に出さない人間だった。
しかしその背中には、40年以上農業一筋で生き抜いてきた誇りが刻み込まれている。

翌朝、悠太は久しぶりに田畑に立った。
足元の土は柔らかくも重たく、都会では感じられなかった自然の息吹が全身に染み渡った。
しかし作業が始まると、その感慨はすぐに現実の苦痛に変わる。
鍬を振り上げ、何度も土を耕す父の姿はまるで機械のようだが、それに付き合う悠太の体力はすぐに底をついた。

「こんなんじゃ、一日中続けられない…!」

父は悠太の額に汗が滲むのを見て、軽く鼻で笑った。

「だからお前には無理だって言ったんだ。農業は、腕力と忍耐だけじゃねえ。気力がいるんだ。」


馬力への興味

ある日、作業の合間に休憩を取っていると、地元の農業仲間である市川圭介がトラックに乗って訪れた。
彼は同世代の農業者で、最新の農業機械を積極的に取り入れている。

市川は悠太に声をかけながら、自慢のトラクターについて語った。

「これさえあれば、一日で十人分の仕事が片付くんだ。農業だって効率を上げていかないと、これからはやっていけないぜ。」

悠太はその話に興味を惹かれた。
都会での仕事では、効率を重視することが何よりも優先されていた。
しかし父はその話を横で聞きながら、一言も発しなかった。
そして市川が帰った後、悠太にこう告げた。

「お前、馬力に頼るのは簡単だ。だがな、自分の力を超えて頼ったとき、肝心なものを見失うんじゃねえか。」

悠太はその言葉に引っかかりを覚えた。
効率化が悪いとは思えない。
しかし父の言う「肝心なもの」とは何なのか、まだ彼には理解できなかった。

自力と馬力の対比

数日後、悠太は畑仕事を手伝う中で、父の作業を改めて観察する機会を得た。
父は、土の状態を足で感じ取り、天候の変化を肌で読み取りながら作業を進めていた。
その姿はまるで、畑そのものと対話しているようだった。

悠太はふと問いかけた。

「父さん、なんで機械をもっと使わないんだ?効率が上がれば、楽になるだろ。」

父は振り返ることもせず、ただ淡々と答えた。

「確かに機械はすげえよ。でもな、俺はこの土の感触を自分の手で感じるのが好きなんだ。それに、手でやるからこそ分かることもある。」

悠太にはその言葉の深い意味が理解できなかった。

ただ、都会で効率ばかりを追求してきた自分の感覚とは全く異なる哲学が、父の中にあるのを感じた。


繋がりを感じる瞬間

ある日、父と一緒に田植えをしている最中、悠太はふと気づいた。
田んぼに足を踏み入れると、泥の感触が体に染み込み、一本一本の苗が根を下ろしていく様子が見える。

父の背中を見ながら、その作業には何か特別な「繋がり」があるように思えた。

「これはただの作業じゃない…土地と向き合うことなんだ。」

悠太の心の中に、都会では感じられなかった新しい感覚が芽生えた。
それは、効率だけでは得られない「手間」と「愛情」の大切さだった。


その夜、父が酒を片手に悠太に言った。

「お前がどんな方法を選ぶにしてもいい。ただ、畑は嘘をつかねえ。自分がどれだけ真剣に向き合ったか、その結果だけが返ってくる。それを忘れるな。」

悠太は父の言葉を胸に刻みながら、自分にできる農業の形を模索し始める。
それは、自力と馬力、両方のバランスを見つける旅の始まりだった。

#LimitlessCreations
#自力と馬力
#哲学の対比
#農業


この物語のテーマである「自力と馬力」
父と息子の哲学の対比を通じて深める思い。
次話では、さらに悠太が自分の農業哲学を確立していく様子を描いていきます。

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