【患者さま家族の声】希少がんと向き合う妻。支え続けたのは「家族だから」
ある日家族にがんを宣告されたら、なにができるでしょうか。
今回お話くださったのは、奥様が十二指腸がんと診断され、共に治療を経験した真野 拓哉さん(仮)
「家族として当たり前のことをしただけ」と話す拓哉さんですが、治療の選択肢の少なさや薬剤の副作用を一番近くで感じ、一時は絶望したこともあったといいます。
それでも根気強く支え続けた拓哉さんの「家族として”がん”とともに生きる」想いについてお聞きしました。
◆人間ドックで「問題なし」見つかったことがラッキー
―――奥様の疾患がわかるまでにはどんな経緯があったのでしょうか?
実は、がんと診断される前に神戸旅行のついでに人間ドックを受けていたんです。
その人間ドック(2015年12月)の結果は「問題なし」。
それまでは症状らしいものは何もなかったのですが、人間ドックを受けた翌月、妻が「お腹が痛い」と言うようになりました。
はじめは「人間ドックで、なにもなかったのだから」と思っていましたが、なかなか腹痛が良くならない。そこで何かおかしいと思い、受診したんです。でも、行く先々で特に原因らしいものは見当たらなかった。ただ、腹痛は治まらなかったので受診は続けていて、最終的に近所の総合病院で受けた胃カメラで「十二指腸がん」だとわかりました。(十二指腸は胃と小腸をつなぐ消化管)
それが、2016年9月ですね。
診断される前も胃カメラは受けていました。でも見つからなかったんです。
そもそも十二指腸がんは、がんの中でもとても珍しいらしく、1万人に6人くらいの病気だと言われました。だから、胃カメラをしてくれた医師たちも気づけなかったみたいです。
最初に受診したのが2016年1月で、診断がついたのが9月。
やはり「長かったな」というのが本音です。それまでにも足のむくみがでたり、お腹の痛みが酷くなったりという症状は出ていましたから。ただ、そんなレアながんが見つかったことはラッキーだったと思えます。
◆治療薬のない治療。僅かな希望だった抗がん剤も使えず「絶望」
十二指腸がんだと診断されてからは、すぐに大きな病院を紹介されました。
とある国立病院を受診し、医師からは「早く手術したほうがいい」と言われ、そこから手術に至るまではあっという間でしたね。その時点でステージⅢB。胃と小腸を繋げたり膵臓や胆管を切除するという大きな手術となり、14時間ほどかかりました。
―――手術後に抗がん剤の治療をされたのですか
手術前に治療の選択肢をいくつか説明されていて、妻の場合は経過をみながら抗がん剤も使用しました。ただ、十二指腸がん専用の抗がん剤は無かったんです。もともと希少ながんだということもあって、十二指腸がんに使う抗がん剤は「胃がん用」か「大腸がん用」の中から効果のあるものを使うということでした。
そんななか、当時「新しく承認された抗がん剤がある」といわれ、望みをかけて使用してみたんです。
でも、妻には合わなかった。
抗がん剤を使用してすぐにアナフィラキシーショックというか、容態が急変してしまって、慌てて投与を中止し処置をされました。その時、一連の経過をそばで見ていたんです。抗がん剤を点滴し始めてからみるみる妻の様子が変わり話もできなくなって、医師や看護師が処置をするという。素早い処置のお陰で一命をとりとめましたが「妻が助かって良かった」という安堵の想いと「次の治療はもうないかも知れない」という絶望を同時に意識しましたね。
◆治療に専念できる「環境」が不可欠。職場環境の整備が大事
妻の治療中は私自身、毎日病院に通っていましたが、それができたのは当時の職場のおかげです。
退勤時刻を早めて職場から病院に直行して一緒に過ごして。
何をするわけでもなく、何かができたわけでもありませんが、ただただ一緒にいる時間を過ごすことが支えになったみたいです。今でも当時を振り返って妻から「一緒に居てくれた時間がありがたかった」と言われます。
また、妻の職場もとても理解がある上司だったので安心して治療に専念できたんだと思います。
僕らはありがたいことに偶然環境に恵まれていたわけですが、今の世の中2人に1人ががんになるといわれている状況ですから、職場の制度や上司や同僚の共通理解というのは、どの職場にも必要だと思いますね。誰でも病気にかかる可能性はあるわけですし、仕事を気にしながら治療に専念するのはしんどいと思うんですよ。
妻は現在、公共福祉の仕事についていますが、仕事とは別で「疾患を支える職場環境をつくろう」という啓蒙活動をしています。自分の体験から、がん治療と共に働くということの事実を伝えて、治療後に復帰できるような仕組みを作るための活動をしているんです。
実際、治療にはお金がかかります。
必要なら、健康保険では賄えない治療も選択しなければなりません。
だからこそ、お金で治療を諦めないための保険や備えは必要なんじゃないかな。「がん防災」という考え方で、ちゃんとしたがん保険に入ったり、復職できる体制を整えておくことは、働く人全てに関わる大切なことですよね。
◆薬と治療。家族だからできる「当たり前」
―――ここまで奥様に寄り添えた原動力はどこにあるのでしょうか
妻には、自分がどん底だった時に支えてもらったんです。
人生で一番つらい時にそばにいて助けてもらった、だから今度は自分が支えるのは当たり前のことだと思っていました。
実は、僕の母も病気を抱えながら僕を育ててくれたんです。
母の手を引いて買い物に行ったり、支えながら歩いたりした記憶がずっとあって、家族というのは支え合うものだということを幼い頃から体験してきました。
だから、妻の病気がわかった時は子ども達にも伝えました。
もちろん伝え方は悩みましたが、結局子どもは子どもなりに理解するし支えたいと思うんです。寄り添うというと大げさかもしれませんが、一緒にいる時間が支えになる、というのはあると思いますね。
―――奥様ががんと診断されたとき、どんなサポートを大事にしていましたか?
本人に生きるモチベーションを持たせるためには「愛」のあるサポートが大事だと感じます。当然、がんだと言われれば絶望もします。でも妻は自分自身でできることを調べて治療に挑んだりしていたので、僕は側にいて話を聞いたくらいです。
まさか40代の妻ががんになるとは思いませんでしたし、おそらく多くの人にとってがんの宣告は突然だと思うんです。でも早く治療すれば治る可能性のある病気だと知りました。がんと共に生きられる、という可能性をつなぐためにも、早期発見は大事ですね。
◆治療の同意書は自己管理。薬の管理と一緒にアプリでできたら便利
―――現在のお薬について教えてください
今飲んでいるのは膵液を補充する薬を一種類です。
半年に1回、肝胆膵専門の外来を受診していて、MRIなどの検査で転移や再発がないことを確認して処方してもらっています。
妻の体に合っているみたいで、飲み忘れそうになることもあるくらい落ち着いていますね。
―――お薬手帳のアプリにあったらいいなと思う機能はありますか?
がん治療というのは、診断後にいくつかのプランを提示され、状態に応じて治療内容を決めていきます。そして紙ベースの同意書に何枚もサインして保管しておく必要があるんです。手術、化学療法、使用薬剤、など様々な同意書があるので、PDF化して保存できるツールがあったらいいな、と思います。
僕の薬は、会社のアプリで管理しています。
そのアプリは実際の処方を記録して年末調整のときにアプリのまま提出できるので、特に高額医療費などを使った場合は便利だと思います。ただ、勤務している自分の分しか登録できないんです。だから、僕の場合は妻の分が一緒にできたらもっと便利だったのにな、と思いますね。
harmoは家族の分も一緒に管理できるのがいいですね。
今後は薬だけじゃなくて診断書を画像としてまとめられたり、医療費とも連動させて確定申告の手間が省けるようになったら更に便利ですね。
知人にもがんサバイバーの人がいますが、化学療法後のウィッグなど保険が効かないものも結構あるのだそうです。
薬管理や治療関連の費用などのストレスが少しでも軽くなるようなアプリの開発も気になりますし、元気でいるうちにこそ健康に関心を持つ若い人が増えたらいいな、と思います。