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【イベントレポート】JASDI第26回日本医薬品情報学会総会・学術大会

2024年6月1日(土)、千葉大学医学部附属病院にて開催された「第26回日本医薬品情報学会総会・学術大会」

シンポジウム『病院における電子版お薬手帳を活用したコミュニケーション促進に向けて(現状と課題から次の一手を考える)』に弊社代表の石島が登壇し、京都大学医学部附属病院と共同で実施した実証実験より「電子版お薬手帳の現状や医療機関での活用方法」について発表しました。続くディスカッションでも登壇者の医師からいただいた電子版お薬手帳などに関する質問に対し、現在のマイナポータル連携に関する実態や課題についてお伝えしています。

現在の医療においては、診療報酬改定でも医療DXが推奨され関心は高まる一方、実際の現場では医療DXへの導入や活用方法が未だ模索されている現状があります。

harmo株式会社でも、電子版お薬手帳を基盤としたPHRサービス「harmo(ハルモ)」の機能をもとに、医療機関でのPHRとして活用できるよう様々な取り組みを行っており、今回の検証もその一つです。 

検証によって明らかになった現場の問題点や今後の課題。当日の発表とディスカッションの様子をレポートしました。

100人以上の参加で満席でした!


<詳細>


第26回日本医薬品情報学会総会・学術大会
2023年6月1日(土)~2日(日)
※本講演は6月1日(土)に行われました。

 <登壇者と発表内容>


登壇者:金沢大学附属病院  薬剤部 川上貴裕先生
テーマ:電子版お薬手帳の意義と役割〜さらなる活用推進に向けて〜

 ②
登壇者:京都大学医学部附属病院 医療安全管理部 松村由美先生
テーマ:電子版お薬手帳の活用による「薬剤安全の世界」の実現


登壇者:harmo株式会社代表取締役Co-CEO 石島 知
テーマ:電子版お薬手帳を基盤としたPHRの医療機関での活用と課題


登壇者:神戸市立医療センター中央市民病院 薬剤部 医薬品情報管理室
神戸市立神戸アイセンター病院 研究センター品質管理部門 柴谷直樹先生
テーマ:電子お薬手帳の活用と課題_入院患者および病院薬剤師に実施したアンケート結果より


登壇者:くすりの適正使用協議会
くすりのしおりコンコーダンス委員会 栗原理先生
テーマ:薬物療法の「個別最適化」と患者向け医薬品情報

 


電子版お薬手帳を基盤としたPHRの医療機関での活用と課題

harmo株式会社 代表取締役 Co-CEO 石島 知

◆harmo株式会社について

harmo株式会社は、2021年に創業しました。

ソニー株式会社で行われていた開発を引き継いでおりますので、事業開始は2008年になります。私自身は2014年、ソニー時代から10年ほどこの事業に関わっております。

現在のharmoの主なサービスは、主に患者さん向けのスマートフォンアプリケーションである「電子版お薬手帳を基盤としたPHRサービス」です。

◆harmoシステムについて

医療従事者側には、患者さんのアプリからの情報を見る、書き込む、というシステムを提供しています。

現在は薬局約800店舗、医療施設が約100施設ほどです。

電子版お薬手帳は様々な事業者がそれぞれにサービスを提供していますが、どの事業者の電子版お薬手帳を使用しても「QRコードを読み取り情報を入力する」ことについては標準化が進んでいます。harmoを活用しているユーザーさんは20,500店舗以上で情報登録していることが分かり、標準化が進んできていることの裏付けもされていると考えます。((※1)令和4年度の全国の薬局数は約62,375舗)

◆電子版お薬手帳について

 2023年に電子版お薬手帳のガイドラインが変更になりました。
約8年ぶりの大幅な改定で、主なポイントは次の点です。

・医療機関でも電子版お薬手帳の活用が推奨されたこと
・電子版お薬手帳がPHRの一つであると明記されたこと

 ・医療機関での電子版お薬手帳の活用

これまでのお薬手帳は紙の冊子が主流でしたが、現在では約2万軒の薬局で電子版お薬手帳が利用されています。一方で、病院やクリニックでの導入事例は全国でも調査時点で163施設にとどまっています(※2)。薬局では使えるのに医療機関では使えない、というのが電子版お薬手帳における現状です。

このことは以前から患者さんの声としてもあがっていましたが、我々事業者としては医療機関において、どの場面で電子版お薬手帳が活用できるのかが明らかではない、という点が課題だと認識していました。今回の実証実験に至ったのもそこが起点となっています。

まず、医療機関のどの場面でharmoが活用できるのか、について「周術期の薬剤管理」の部分で役立てられるのでは、と考えました。

全国の医療機関において、「患者さんが入院する際の持参薬の確認をする」という作業に多大な労力と時間をかけているという現状があります。ある施設による調査では、病棟薬剤師業務の2割ほどを持参薬確認に当てている実状もありました。

持参薬確認というのは、実際に患者さん一人ひとりが使用していた薬剤そのものの残薬数のカウントと持参したお薬手帳の内容確認を行い、自施設の電子カルテシステムに手入力するという作業になります。

昨今の医療事情において、術前の休薬開始を自宅で行うことが増えていますが、特に高齢患者さんの場合は服薬量が多いこともあり、本来休薬すべき薬剤を休薬しておらず、手術を延期せざるをえないケースも起きていると聞きます。手術件数の増加にともない手術の日程調整が困難になるなかで、手術のリスケジュールは医療者側、患者側双方にとってデメリットが大きいといえます。

harmoシステムでは、まずこの点を改善できないか、と考えました。

そこで、京大病院 医療安全管理部 松村 由美教授と共に行ったのが今回の実証事業です。服薬内容に関する情報収集、電子カルテへの入力といった入院時の作業に注目しています。

ちなみに、この事業は「YAMABUKIプロジェクト」と名付けています。世界の医療安全のシンボルカラーが橙色というところから採ったもので、我々の医療安全への想いを込めています。

◆YAMABUKIプロジェクト

この実証事業で行ったことは「薬歴情報を電子情報のまま電子カルテに渡す」という仕組みのシミュレーションです。

実証の目的は2つです。

①既存の院内システムに連携することが可能か。
②服薬情報の確認という点において現状のフローよりも正確性が向上するのか、という点です。


既存の院内システムに連携するかどうか、という点に注目したのは、医療現場に新たなシステムをいれるといったハードルの高さがあるからです。医療現場で求められるのは業務負担が軽減することとトラブルなく稼働すること。医療現場にシステムを導入する点において医師をはじめ医療職の業務負担が軽減することが重要です。

検証方法としては、術前外来と入院当日のタイミングを想定し、ダミー患者を用いて服薬情報の確認と、薬剤情報の提示方法の違いによるカルテ入力に関する作業時間の比較を行いました。

・紙のお薬手帳の場合
・患者のみ電子版お薬手帳を利用した場合
・患者・医療機関双方にharmoシステムを利用した場合

上記の3パターンで、ダミー患者の薬剤情報を電子カルテに入力する作業時間を計測したのと、実施後のインタビューによるアンケート調査です。

 ・ダミー患者の設定

1,周術期外来において対応に時間を要する患者像を医療機関にヒアリングし、患者条件を検討

2,以下条件で2症例のダミー患者を作成

①休薬を必要とする患者で実際にインシデントとして報告があった患者をベースとした。
(休薬を要する薬剤の服用患者で薬剤師が薬剤確認を行う術前外来は通っておらず、手術前の通常外来受診等の確認では発見されなかったケース)
②待機的手術適用患者
③ポリファーマシー(6剤以上)の患者
④他院他科複数科を受診
⑤手術が決定した外来日から入院当日までに薬剤の追加がある
⑥患者間での情報量を考慮し服用数は同一数として設定

ダミー患者の設定に関しては実際に休薬を必要とする際のインシデント報告があった患者さんをベースに作成しました。また、ダミー患者の紙の薬手帳も用意しています。

 ・外来での実証結果

まず、術前外来での実証結果です。

処方錠数を11錠として実施した結果、お薬手帳確認〜電子カルテ入力までに要した時間は以下のとおりです。

・紙の薬手帳の場合:1剤あたり平均22秒
従来行われていたように、患者が持参した紙の薬手帳を見ながら医療従事者が電子カルテに手入力で転記する

・通常の電子版お薬手帳の場合:1剤あたり平均23.6秒
患者のスマホに表示された電子版お薬手帳の薬剤情報画面を見ながら電子カルテに手入力する、または、スマホの薬剤情報画面を院内タブレット等で撮影した画面を見ながら手入力する

・harmoシステムの場合:1剤あたり平均5.4秒
院内に設置したQRコードを患者のスマホで読み取ると患者のスマホに入っているharmoの情報が瞬時にharmoシステムに反映されるので、harmoシステム上の薬剤情報を電子カルテにコピー&ペーストする

harmoシステムの場合、1剤ずつの転記作業が不要なため作業効率において約4倍と大幅な時間短縮が見込めました。

 ・入院当日の実証結果 

次に、入院当日を想定した実証です。

外来での作業と違うのは、オーダリングシステムが関わる点です。多くの場合、オーダリングシステムに入力する際は3文字入力などが可能であるかわりに、電子カルテからはダイレクトに薬剤情報が転送されません。つまり、電子カルテからオーダリングシステムへの入力に関してはharmoのコピー&ペースト機能が使えないということになります。

結果は以下のとおりです。

・紙の薬手帳の場合:1剤あたり平均26,1秒
・通常の電子版お薬手帳の場合:1剤あたり平均36秒
・harmoシステムの場合:1剤あたり平均24,5秒

harmoと紙のお薬手帳ではほぼ同等という結果で、紙のお薬手帳の見やすさといった点で差分がでていたのではと思われます。

実施後のインタビューでは正確性においてharmoシステムに対し心理的な安心感があるといったご意見をいただきました。これは、harmoシステムではデジタル間でのやり取りが可能なこと、電子カルテへの転記がコピペで行える点を評価していただいたと考えています。

実際の入力内容を再確認したところ、紙のお薬手帳から手入力した部分に不備が確認されたことからも、情報の正確性と行った観点でもharmoシステムの優位性が示唆されました。

◆考察

今回は内服薬剤を11錠という設定で行って約4分の1という時間短縮となりましたが、実際の医療現場では、更に多くの薬剤を服薬している患者さんもいらっしゃると思います。薬剤の錠数が多くなれば、さらにharmoシステムの効果が発揮できるのではと考えています。 

◆総括

電子版お薬手帳が推奨されているものの、病院の薬剤業務においては現状の電子版お薬手帳での入力は最も時間を要してしまうといった課題が明らかになりました。一方でharmoのシステムを介した場合には所要時間の点で約4分の1、ヒューマンエラーの発生リスクも極めて低いという結果が得られています。ただし現状ですと、あくまでも術前外来におけるharmoシステムから電子カルテへの情報転送、という点に限ります。

臨床の場面では、オーダリングシステムまでダイレクトに転送できることで更に医療従事者の業務負担軽減に寄与できますし、ヒューマンエラーの減少も期待できます。引き続き、電子カルテ事業者とも協議を進めるなかで、オーダリングシステムまでのダイレクトな転送の実現を目指します。

また、harmoでは電子版お薬手帳を基盤としたPHRサービスと電子カルテ情報の運用の構築も視野に入れております。たとえば、harmoシステムの活用によって効率化できた時間で、患者さんの服薬指導を行うなど、医師をはじめとした医療従事者の方々の働き方改革と、医療の安全性の両立に貢献できるシステムでありたい。そしてやがて、PHRを患者さん自身でも管理し、活用していただきたいと思っています。

いずれにせよ、今回の検証は医療機関でのharmoシステムの活用のほんの入口にしか過ぎません。周術期薬剤管理における医療DXの実装に向けて更なる研究を今後進めていくとともに、本実証で得られた見地は広く医療機関や医療関係者の皆様に共有していきたいと考えています。


◆ディスカッション

発表後のディスカッションでも、電子処方せんや電子版お薬手帳に関する質疑意見交換が行われました。 

 ・京都大学医学部附属病院 医療安全管理部 松村由美先生より
マイナポータルの情報と電子版お薬手帳の内容を比較すると、マイナポータルには「用法用量」が記載されていないなど若干違いがあります。もしかして、マイナポータルはレセプト情報なので用法用量が載っていないのかと思うのですが、実際のところはどうでしょうか?

 ・金沢大学附属病院  薬剤部 川上貴裕先生
これは能登半島地震のときに経験しました。災害時医療の目的で、オンライン資格確認等システムの災害時モードを利用して患者さんの情報を閲覧したのですが、医療機関の情報には用法の記載がなかったんです。

一方で、薬局からの情報には薬剤名も用法用量などの処方に必要な情報は揃っていて、そこに情報量の違いがあると感じました。もしかすると今後マイナポータルの情報も変わっていくかもしれませんが、あくまでもマイナポータルとの連携で得られる薬剤情報はレセプト由来の情報ですので、薬局が持つ情報とはギャップが生じてしまうことがあるのだと思います。一方で、電子処方箋の処方・調剤情報であれば用法・用量が含まれますし、今後院内処方にも対応していくものと思われます。

また、マイナポータルでは電子処方箋の処方・調剤情報は「100日間」という期限があります。期限後はレセプト情報に移行しますが、これも過去「3年間」の期限があります。

ですから、患者さん個人が管理する必要があるんですね。自分の薬剤情報を自分の電子版お薬手帳にダウンロードしておけば、生涯ずっと「ライフログデータ」として残り続けます。オンライン資格確認等システムと電子版お薬手帳の役割は別ですから、自分自身がどんな状況でも継続した医療をうける、健康管理をする、といった視点で考えることが必要だと思います。

 ・harmo株式会社代表取締役Co-CEO 石島 知
マイナポータル連携、というのは電子版お薬手帳の業界でも必須だと捉えていますし、我々もマイナポータル連携には対応しています。しかし、電子版お薬手帳の業界全体の実態としては、未だにマイナポータル連携が済んでいる業者は少ないですね。それには国側の理由もあると思っています。そもそも、マイナポータル連携自体がまだまだ過渡期なんですね。実は、我々が連携を申請してから実際に接続されるまでには2年ほどかかりました。現在は、国側もマイナポータル連携の整備を進めていくなかで、我々のような企業も一緒に試行錯誤しながら進めている、といったところです。

◆さいごに 

今回のJASDI第26回日本医薬品情報学会総会・学術大会を通じて、電子版お薬手帳の現状や医療機関での活用方法についてお伝えいたしました。harmo株式会社は、医療DXの推進に貢献するため、電子版お薬手帳を基盤としたPHRサービス「harmo(ハルモ)」の機能を活かし、医療現場での効率化と安全性向上を目指しています。今回の実証事業で得られた知見をもとに、今後も医療者の皆様に有益な情報提供を行い、医療現場の課題解決に寄与してまいります。harmoシステムの普及により、医療従事者の負担軽減と患者さんの安心・安全な医療の実現を目指して、引き続き取り組んでいく所存です。

 ・引用
※1…厚生労働省 「4薬事関係」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/22/dl/kekka4.pdf

※2…厚生労働省 令和3年度厚生労働省委託事業 電子版お薬手帳適切な推進に向けた調査検討 調査検討会 報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/001199639.pdf