モノローグ「茄子が降る」　第４稿　モノゼミ講評後

　男、茄子を持って詰め寄っている

だから、なぜ、茄子が降ってくるんだよ。

充分不条理だろ。
この芝居。

何でそこにさらに茄子を降らせる必要があるの。
脚本に一行も書いてなかっただろ。
茄子降らせるなんて。

脚本には野菜登場ってあって。
稽古じゃ、ワゴンに載った人参や大根や白菜がしずしずと出て来てたじゃないか。

何でリハーサルまで黙ってたんだよ。
立ち位置は、ここですって、いきなり言われて、
立ってたら、ワゴンが出た後。
ぼとぼとぼと、ぼとぼとぼと、ぼとぼとぼとぼとぼとぼと
これでもかって茄子が目の前に降ってきて、
さあ食べろって。
食べることにもなってなかったろ！
ナスゥゥゥゥゥウゥゥゥゥッ！

お前は学生の時からそうだよ。
思い付きで演出変えちゃうの。

地元の野菜応援しよう漬物フェスに便乗して、
会場にイントレで組んだテントで、芝居するって聞いたら、
昔の血が騒いで、この話に乗っかったよ。
この歳で。

漬物付けながら芝居するって、
脚本に書いてあったから、
相変わらずの不条理好きだと思ったけど。

茄子は頼むからやめてくれよ。
俺が6歳の時、夏休みに一人暮らしのばあちゃんのところに遊びに行って。
花好きの話し好きの優しいばあちゃんでさ。
そのばあちゃんが盆飾りの茄子の牛を作ってて、
そのまま、じいちゃんのところに行っちゃってさ。
それを俺が見つけちゃってさ。

トラウマなんだよ。
PTSDなんだよ。
見るのも嫌なのに、食べるなんて。
フラッシュバックするんだよ。
大量の茄子の雨に気絶するかと思ったよ。

あれか、茄子の復讐か。
自分だけが糠漬け仲間になれなかった恨みか。
それともあれか、
浅漬けも取り入れろって地元からの圧力か。
まさか。
俺が茄子にトラウマもっているの知って、俺への復讐か。

何笑ってんだよ。
ばあさんに先週あった？！
なんで俺のばあさん知ってんだよ。
オンラインのフラワーアレンジメント講座で一緒になって挨拶した！？
まぁお芝居されてるんですか、そぅ孫と大学が一緒だったんですねって。
なんでお前が通ってんだよ。
なんだよフラワーアレンジメント講座って。

相変わらずの嘘つきだなぁって。
茄子を見るのも嫌なのは本当なんだよ。
俺の白目が黄色になってるの気づいてただろ。
ビタミンＣのとり過ぎだって、これまた嘘ついたけど。

人間ドックの超音波検査で見つかったんだ、胆のうがん。
ステージ４だってさ。
医者が胆のうの画を見せて説明してくれたけど。
茄子だったんだよ。
胆のうって茄子の形してんだな。
初めて知ったよ。
だから茄子は見たくないんだよ。

嘘だろって。
ああ嘘だよ。

茄子には毒があるんだよ。
ナスニンっていう。
その毒は、花粉症と同じで蓄積されて限界値に達すると危ないんだよ。
俺は自分でわかるんだよ。
もう限界が近いって。

　間

わかった、茄子は思いっきり降らせろよ。
バクバク食ってやるよ、思いっきり。
下痢したら責任持てよ。

でも何で茄子が降るんだ？
あ、いい聞かない。
打ち上げのお楽しみにしておくよ。
学生の時みたいに俺にだるまの酒瓶投げるなよ。
あの時は悪かった。
茶化さずおとなしく聞いてやるから。

お前に誘われて嬉しかったよ。

ん、胡瓜に変えようかって。
馬鹿、胡瓜も盆飾りにあるんだよ。
茄子の牛と胡瓜の馬。
俺を早く送りたいのか。