観劇記録「らんぼうものめ」2024.07.20
KAATキッズ・プログラム2024『らんぼうものめ』、観てきました。初日ですね。
演劇〜!て感じの質感で、すごくよかった。満足感あります。
主演の鞘師里保さんのファンなのでそれで知って観に行ったので、KAATキッズ・プログラムのことも作演出の方含めカンパニーのことも全然知らんので、どんな感じなんだろ…と疑問の嵐でしたがね、もうそんな疑問過去のことです。とても面白かったです。
「対象年齢6歳から〜」で、事前にちょいちょい聞いてたところによると「子供も向けというか、子供も楽しめるようになってる」みたいな説明をされていた気がします。
"子供向け"のイメージは色々あるでしょうが、本作は「子供の視線の高さ」で話を描いてる感じしましたね。こうしたい、ああしたい、あれはいやとかあるけれどうまく表現できない・物事を進められない子供と、まあやなとこダメなとこはあるけど言いたいこと言ったり交渉は上手にできる大人達が自分の頭上でやり取りするのを、どうにももどかしく眺めてる、子供の視線の高さ。
8歳の男の子なりに我慢したり頑張ってたりして…はぁ…薫平……。
観終わってから薫平…って気持ちとまらないんですがどうしてくれるんですかこれ。
以下、中身に踏み込んだ感想でス。
当たり前のようにネタバレがあるよ。
ここまで読んで気になる人は、ぜひ会場に足を運びましょう。
KAAT(神奈川)では7/28までやっています。webサイト上では売り切れって感じですが、当日券が若干数出るのでそれを狙ってね。福島県いわき市、長野県松本市でも8月にあります。
キッズを広く呼ぶための企画なので、値段設定がバグってる。
ファンタジーだけどやりとりに滲むリアルさ
薫平は主人公の8歳男児、鞘師さんが演じてる少年ですね。らんぼうものという触れ込みのキッズ。
これがま〜〜〜親の都合で転校してきて引っ越しの日、ぐっずぐずのスッネスネ。元の学校で同級生の一人に手紙に悪口書かれたらしくて、ふてくされて荒れきってる。お母さんが抱えてる段ボール叩いたり、予定が変わるとぐずり切ったり、お母さんに腹立つこと言われるとまあ〜ものを壊して暴れ回る。らんぼうものっすわ。
でもこの親子同士のやりとりとか、夫婦間でと会話とか、このあと出てくる神様と薫平のやりとりとか、いろんなところで起こるコミュニケーションが「あ〜こういうことある〜」て感じで、ファンタジーなのに質感がリアルで良かった。
しっかり自分のことやって欲しいお母さんと、ぐずり散らしてる子供と、とりあえず間を保とうと「俺がやるから」て走ってくお父さんの後ろ姿、毎日世界のどこかで起こってるよ。しかも理由がめちゃくちゃ些細なやつ。
せっかく拗ねてた子供が外に出たんだから日焼け止めくらいあきらめぇやァ、と1ミリくらい思ってるだろうに、俺取りに帰るよって走ってくお父さん、観たことある。みんなもお父さんをパシらせたことあるよね?
こういう、あ〜〜ある〜〜が、随所にあるんですよ。神様の世界に行っても、あ〜ある〜ってなる。ギャインギャイン泣いてる薫平の気を紛らわせるために、好きなものなに?とか聞いたりする野菜の神様の図、そこらへんの公園で人間達が毎日やってるよ。
KAATの大スタジオって300人入らないくらいの小箱なんですが、ステージが広くて天井も高さがあるので、空間の広さを感じつつも役者がすぐ目の前でやってる!て臨場感がすごくて、これも生な質感をプラスしてたように思います。
さらに、マイクなしの肉声で芝居してるんですよ。そして小道具の見立てや体の芝居で、異世界にも水の中にも入って見せる。これはプロジェクションマッピングとかすごい音楽とかで演出する舞台とは、全然別の種類の没入感があります。
なんか子供の頃に、縁石の上を歩きながら「まわりはワニの池だ!」て遊んでた感じというか。演劇って現実に空想を重ねて遊ぶ子供の体験に近い部分あるのかも〜とかちょっと思いました。
普段見ないジャンルの演劇なので、本当に良かったですね。
薫平〜〜!!!
個性豊かな神様たちがたくさん出てきますが、もうね、何をおいてもやはり薫平。もう薫平のことばっかりしか考えられないよ。
舞台観に行った動機は100%「主演:鞘師里保」ですが、鞘師を見たというか薫平を見たって感じになってる。そして見終わってから時間がすぎるにつれて、薫平拗らせそうになってってる自分が怖い。
癇癪と我慢とらんぼう
仲良いと思ってた友達に手紙に悪口書かれてて、もう何もかもやになってるのに、お母さんは荷物運べとか言ってくるし、イライラをどうにかしたいのが段ボール叩く行動になるから怒られるしで、あーんもう!何もかも嫌!!状態の薫平ご登場。
この冒頭の薫平ダイナミック癇癪に当てられたのか、客席のキッズがわんわん泣いちゃって、怒る薫平、叱るお母さん、泣き叫ぶキッズの三重奏でこの世の終わり感すごくて、4DXでしたね。最高だぜ。泣き声でセリフ聞き取れねぇけど、この泣き声こそが薫平の叫びよ。
大人でもどうしたらいいかわからないことはたくさんありますが、薫平は子供だから輪をかけて「どうしたいのかわからない」「どうできるかわからない」「うまく伝えられない」がたくさんあって、そのもどかしさが滲んでいてとてもよかったです。それで溜まったフラストレーションか癇癪で出てくるの、あーわかる〜…みたいな。
薫平、慌てるとちゃんと言葉で説明できないし、ショックを受けると「お母さん!」て叫んでわんわん泣くことしかできなかったりとかするんすよ。でも頑張って我慢しながら、神様達の横暴とかに耐えて結構体張ったり頭使ったりして、目の前のことをクリアしていくんですね。体の一部とか神様にあげちゃうんだから…。
不満と我慢がパンクすると、らんぼうに走っちゃうんですけど。床に転がったり暴れ回ったり人を殴ったり鳥居ぶっ壊したり。いやすごいな、暴れたな。序盤の「最悪!!」って叫びながらのダイナミック鳥居壊しとか、「イライラする!」て協力してくれてる神様バンバン叩いたり(らんぼうものの神様になりかけてるせいもあったのかもだけど、まあ素直にストレス溜まってるのかも。)。
なんか物語の締めが世知辛かったから、薫平〜〜〜!の気持ち大きいですが、大暴れでしたね。
ただまあ自分が子供の時を思い出すと、まあまあ共感できるタイプの苛立ちポイントもあります。これ見よがしにお母さんに「いい子になりますように」的なことを、機嫌が最悪な時に神社にお願いされたらまぁ腹立つよね。鳥居は壊さないけど。
ちょっとした社会性とか優しいとこ
ずーーっとぶすーっとしてタメ語で話す薫平が、たまに客席に話しかける時は意外にちゃんと敬語使えてて、薫平の社会性を感じました。お外ではまあまあしっかりしてるのかも、と期待させる感じ。ずっと顔は強張ってるんだけどね。
薫平が神様の世界で千と千尋みたいにわかりやすく成長したかというとそうでもないんだけど、薫平は薫平で優しいところあるんだな、みたいなのを覗かせてましたよね。悪口書いてきた同級生にも、なんか自分が悪いことしちゃってたのかもな、と少し考えてるような。
でもっすね、あのラストっすよ。納得感がないというわけじゃなくて、うおおおどうしたら良かったんじゃあ〜〜!の気持ちすごいある。くっそ、あの同級生め…。
お芝居よかったな…
先にも書きましたが、鞘師を見たというか、薫平を見たって感じしてる。ああいう野生の8歳男児いるでしょ感すごいんだもん。
言葉が出なくなっちゃう薫平の感情を「お母さん!」の叫び方・言い方・振る舞いで、たくさんの種類を見せていて、かつシーンとして成立させていて、とってもよかった…。芝居の良さすごい出てたように思う。
客席に背中向けつつも、しゃくりあげて喉詰まらせてすごい涙ぼったぼた落として泣いてるんだろうな…て思わせられるシーンとか、なんか涙を見たような気がしてるもん。
今、薫平…て気持ちになってるのは鞘師のせいだよ……。
それはそうと中腰でずっと芝居してる鞘師さんのフィジカルに地味に感動しました。時計見てないけど十分くらい中腰じゃなかった?
あと段ボール殴ってる時とか、ちょいちょい動きのキレが良すぎて、格ゲーのキャラかな?ってなった。常人じゃないよ。
常に感じる体の動きの活発さが、元気余ってる男の子感あってよかった。
らんぼうものめ
薫平は手が出るタイプのらんぼうもの、神様はルールで殴ってくるタイプのらんぼうもの、同級生は話が通じないメンタル攻撃のらんぼうもの。
らんぼうものたちのディビジョンラップバトル、あのラストかぁ…。は〜。
神様の神様によるクソ取り引きの押し付け、突然気分が変わったからって難題押し付けてくる泉の神様、物々交換しようお前の胴体くれとか言ってくる雷の神様、太陽の神様にムカついたから四肢をちぎって捨てるetc、横暴と横暴と横暴の応酬!!
絶妙に結構グロいんだな。バラバラにした太陽の神様を膝で潰しながらマウントポジションで手足の位置とかめちゃくちゃにくっつけたりさ。
そういうのをどうにか乗り越えて、お母さんを取り戻して、からの〜〜
大地雷・悪口書いた同級生。
やっぱさ、薫平は心残りをスッキリさせたいよね。話を聞きたいってなるわね。でもあんなヤベェやつ来る? マ? あーもう無理やわぁ…て大人でも思う感じなので、薫平くんにどうできたかな……。いやまじ全然無理なんだが。
あの特に理由なく嫌いって言う、コミュニケーション不能、部屋の中で暴れ回る、このままここにいる!のコンボ、どうせぇっちゅうねん。
どうする? 大人呼ぶ? でも神様の世界でこっそり貰った奴で作ったものだし……。でもやっぱお母さんとお父さん呼ぶか…。神様の世界でも大人に助けてもらったし…。
わかんねぇ〜〜〜〜〜!
段ボールで同級生の頭ボコォ!ってやった時、観てるキッズの無邪気な笑い声が一瞬したんですよね。その後のシーンで、笑い声は消えた。
お母さんがいなくなっちゃった世界で、お父さんと二人きりだと薫平怒ったりしてなくて静かで。なんかね、序盤はお母さんもお父さんもいたから甘え散らかしてぐずりまくってたのかな…、寂しいなって思いましたね。
えっっ
キッズ・プログラム!!!!
見終わったあと後ろの方から「子供トラウマじゃない?」て声が聞こえてきた。ありうる。
終演後バックステージツアー
終演後に舞台セットとか小道具とか見せてくれる、バックステージツアーもよかったです。薫平がお母さんと交換させられるクッキーとかちゃんと見られました。
許せねぇこんなクッキー1枚で…。めちゃくちゃ普通のクッキーじゃねぇか。
初日は薫平の鞘師さんと、お父さんが出てきてキッズと大きなお友達の質問に答えてくれました。劇中で薫平の口に入る雲はわたがしで、甘くて美味しいらしいよ。良かった。
面白かった!
えー!!薫平ーー!!!!!薫平〜〜〜!!
て気持ちなんですけど、見応えあって面白かったです。
体とセットでいろんなシーンを見立ててやっていくお芝居、ファンタジーだけどリアルな手触りのある芝居、じわじわ来る怖さ。
実は小学生のキッズとこのあと一緒に行くので、反応が気になります。初めての観劇の筈なので、はたして…。