縫製業、急ぐ
2020年2月の記録
2020年に入りマスク狂想曲の前奏を感じてはいたが私は手元に糸も布も適宜あるため、思い立ったらすぐ縫える安心感もあり、さほど逼迫した気持ちではなかった。
しかし介護職の親友の口から既にマスク欠乏を心配しているとの言葉があり、
すぐに手を打って彼女を守りたい思いからその日の晩、布マスク(プリーツ型)を製図し7枚縫った。
翌日。仕事帰りの彼女が拙宅に立ち寄ってくれ、渡すことができた。
2月某日に取り急ぎ仕立てたその模様を記録しておく。
・60番綿100%ブロード
・ダブルガーゼ
・針…11番
・糸…シャッペスパン60番
今回は超シンプルな形、速縫い重視。
NISSHINBO綿ブロードをタテ33cm×ヨコ20cmで裁断。
このブロードは織りが密で(この2ヶ月後に『密』という文字がこれほど使われることになろうとは知る由もなかった)張りがあり、
マスク素材として適していると考え布の棚からチョイス。
この反物はノンホルマリンなので、お肌に触れる物としても良いだろう。
色は手元にクリーム色もあったが、マスクとしての色は水色がベーシックだろうと思った。
出来上がりは、ブロードが二重になるようにした。寒い季節だったし、冷気を防ぐ目的もある。
撥水加工はしていない布なので外からの水分の浸み込みは考えられるため、彼女に渡す時に
「1日のうち何回でも取り替えてね」と伝えた。
ダブルガーゼは一枚。(ダブルガーゼはもともと二重)
ブロードの中心にガーゼを叩く。
縫い目の向こう側にガーゼを倒し、中表で縫う。
"手前に写っている水色"と
"向こう側に写っているガーゼの下になってる水色"
を手のひらを合わせるように重ねてプレス(アイロン)し整える。
※上から見ると ガーゼ・ブロード・ブロードの3枚重ね。
この状態が「中表(なかおもて)」。
中表のまま3枚一緒に縫う。
アゴが当たる辺を、返し口として7~8cm縫い残し、表返し(おもてがえし)する。
カドを折って人差し指と親指でつまみ、
つまんだまま一気に表に返すときれい。
表に返したら目打ちでカドを適宜つついて形を整える。
縦辺(ほっぺに当たる方向)の中心を起点に、1.5cmのプリーツを上下2本ずつたたむ。
その晩のうちに数枚仕上げたいので、ゴム紐は後付け。
マスク用ゴム紐を20cmにカット。
まずゴム紐の切り口を外側に向けて縫い付ける。
何度も返し縫いをするとゴム紐を傷めるので返し縫いは二度でOK。
ゴム紐をお耳に掛かる方向に折り返し、
マスク本体をぐるりステッチするが、返し口を手まつりしてからでも良い。今回はとにかく急を要するので縫代を折り込んでぐるり叩いた。
ゴム紐もステッチで踏む。
急ぎ働き(いそぎばたらき)の粗、ガーゼが覗いている…
ごめんよ…急場凌ぎとして使っておくれ。
出来上がり。
お口に当たる方はガーゼね。
渡した彼女は、涙ぐんでいた。
既に心がいっぱいいっぱいになっているようだった。
「あなたも仕事で手一杯なのに。あなたの大切な時間をとらせてしまって…」と。こういう涙の時の彼女に同調しすぎると、この人はもっと自分を責めてしまう。
何言ってるの!朝飯前よ。私を誰だと思っているの?あなたには生きていてほしい。だから縫った。
と笑って伝え、早々に別れた。
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