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【ゲーム感想】月影のシミュラクル-解放の羽- (2017)

はじめに

 『月影のシミュラクル』は、あっぷりけから2016年に無料配布されたビジュアルノベルゲーム(2024年現在、配布は終了)。2017年、シナリオ及びCG、18禁要素が大幅に追加された『月影のシミュラクル-解放の羽-』が発売された。本稿ではこちらを扱う。

・DL版販売サイト

作品紹介

――その館には、生きた人形が棲んでいる。

からくり師の一族である如月家。
その分家筋である主人公・卯月誠一は、
夏休みに合わせて帰郷することになった。

この一族には、一つの秘密がある。
“如月の生き人形” と言われる、
一族の開祖が使役していた少女の人形(ヒトガタ)。
涙を流し、笑い、
そして主人が亡くなる時に眠るように動きを止めたという。

誠一が帰郷する理由は、この “生き人形” と、
それにまつわる “儀式” にあった。
久しぶりに帰ってきた故郷で出会うのは、
幼なじみの少女たちと妖(あやかし)の世界。

辿り着く先は、果たして人の世か、それとも……。

萌えゲーアワード「月影のシミュラクル-解放の羽-」作品詳細


 あっぷりけの作品ってやったことなかったんですよ。一時期、雨後の筍の如く増殖していた「あかべぇそふと系列のブランドのひとつ」程度の印象しかなくて。2019年発売の『クロスコンチェルト』を最後に、ブランドを畳んでいたことも初めて知りました。通りで本作の公式サイトが見つからない訳だ。
 じゃあなんで今更かと言うと、今年9月にエスクードから発売予定の『悠刻のファムファタル』の体験版が腰を抜かすくらい面白かったものでして。
「このシナリオを書いたのは誰だぁっ!!」→
「桐月氏って、あっぷりけでメインライターやってたのね」→
「『月影のシミュラクル』……ジャンルが同じ伝奇モノで面白そう」
という一連の流れです。人里離れた館が舞台なのも共通ですね。


総評 (※ネタバレ無)

 謎が解けていく面白さ! これぞ伝奇モノの醍醐味!

 本作は選択肢によってシナリオが多数分岐するのが特徴。ひとつのEDに到達すると、途中の選択肢が追加されて別の分岐へ。基本的にはそれの繰り返し。残酷な描写が多いので気が滅入る……と思いきやそうでもなく、続きが気になるから早く読みたい気持ちが勝っていました。
 むしろ、思いのほかホラー色の強いシナリオだったのは嬉しい誤算。生き人形と言えば、稲川淳二の怪談が有名ですが、数年前に観たフィリピン産ホラー映画『生き人形マリア』が、馬鹿馬鹿しくて 人形の造詣が不気味で良かったです。

 閑話休題。人形が諸悪の根源と言っても、事件の真相を推理する楽しみもあります。儀式を行う意味は? 数年前の吸血鬼事件との関連は? 如月家は何を隠しているのか? 等々。前述の通り、謎が明かされていく爽快感はたっぷり味わえました。伏線の張り方・回収の仕方が非常に丁寧で、シナリオの本筋に関しては文句なしの良作。
 一方、ギャルゲー/エロゲとしては、少々厳しい……というか、この部分が露骨に足を引っ張っているのがかなり残念。ヒロインと結ばれる過程が唐突かつ不自然で、いかにも取ってつけたような感じ。別の記事でも述べましたが、自分は「無理にHシーン入れなくて良いよ(あったら嬉しい)」派なので、恋愛描写にも力を入れるか、いっそのこと不要なシーンを取っ払ってしまうかして整合性を取ってほしかった。一応フォローすると、本作にも良かったHシーンはあります。ただ、特殊性癖に片足突っ込んでますが……。

 キャラクターに関して。
 メインヒロインの零は、クール系幼馴染という自分のストライクゾーンド真ん中のタイプなので問答無用で好きです。口調も気品があって、さすがは良家のお嬢様。拗ねた顔の表情差分がお気に入り。

かわいい(かわいい)

 そんな零と瓜二つの外見を持つ生き人形、紅。途中までは恐怖の象徴としか思っていなかったのですが……これ以上はネタバレになるので伏せますが、ひとつだけ。

紅に染まった この俺を
慰める奴は もういない

 音楽に関して。
 主題歌の「自由の翅」(歌:佐藤ひろ美)は、作中のキーワードである“蜘蛛”や“蝶”からイメージを広げた歌詞が良かったです。ボーカルは安定のひろ美姐さん。
 BGMも全体的に質の高いものでした。一部の楽曲で使用されていたコーラスワークが、非現実/神秘的な雰囲気作りに大きく貢献していたかと。サスペンス風の不穏な音楽が特に印象深く、自分の嗜好では「イキニンギョウ」「クモノイト」「ホショクノトキ」は外せないところ。あと、日常BGMの「カラクリノイエ」もお気に入り。これを聴くと無性に物悲しくなります。

 システムに関して。
 自分は今までフローチャート式ADVをあまり遊んだことがないのですが、いや~便利っすね、これ。すべてのノベルゲーに実装してほしい。特に本作のような分岐の多いゲームでは必要不可欠でしょう。『NAO 2nd』にもこのシステムがあれば……(例えが古い)。選択肢で悩まなくて済むのがめちゃくちゃありがたかったです。

 総括。
 伝奇モノ好きならプレイして損なし! でも恋愛要素には期待するな!
 フローチャートシステムのおかげで、繰り返しのプレイが全く苦にならなかったのは大きいです。当初は理解できなかったシーンの真相が別のルートで明らかになったり、プレイヤーの関心を持続させる工夫が凝らされていて、最後まで楽しくプレイできました。
 ちなみに、本編中ではそれなりの数の犠牲者が出ますが、直接的なグロ描写は控えめなのでご安心を。もともと、オダワラハコネ先生の絵柄がかなりカワイイ寄りですし。
 惜しむらくはギャルゲー要素ですね。ヒロイン自体はみんな魅力的だったんですけど……。この世界観なら、もっと淫蕩かつ退廃的な描写が入れられたのではないかと。『ファムファタル』では、その辺の改善を期待してます。

 以下、各章感想はネタバレ全開なのでご注意ください。




各章感想 (※ネタバレ有)

暗夜行路/一つの終わり

 事件の真相については何もわからないし、巻き込まれた誠一君がひたすらかわいそうなルート。「一つの終わり」は、ある意味一番平和なルートとも言えるけど。

 そうそう、図らずも作中の時期がプレイしたタイミングと被っていました(8月上旬)。ロケーションはまさにミステリー/サスペンスの舞台にうってつけ。人形館はロビーの背景CGがインパクトありすぎて、慣れるまで時間かかりました。

夜中にトイレ行ける気がしない家

 誠一が如月家に招待された理由は、その家に代々伝わる儀式で当主の代わりを務めるため。儀式は、如月家の家宝である生き人形と婚姻の儀を交わすといった不可解な内容。儀式の最中、誠一は、生き人形の正体が零ではないかと疑いを持ちます。

 誠一が頑なに 紅=零の変装 と思い込んでいるのが気になる。プレイヤーこと神の視点では別人とわかっているけど、「もしかして紅から催眠か何か掛けられているのでは?」と可能性のひとつとして考えていました。単純に人違いだったら、幼馴染ヒロインの立場がないですもんね(強調)。

 儀式の日の翌夜、最初の事件が発生。被害者は、如月家の当主である零の父親。さらに、それから数日も経たない内に、如月家の使用人・サエの遺体も発見されます。

 この時点で一番怪しいのは、一葉でしょうか。ご丁寧に凶器を持ったまま現場にいた訳ですし。誠一の推理通りサエが真犯人を庇っているとするならば、その対象が一葉というのも自然に考えられます。……ただ、メタ的に考えると捻りがなさすぎて違うような気がする。

 零が館に火を放ったことで、一連の事件は有耶無耶のまま幕を閉じます。肝心の生き人形の正体とか、着物に付着した血とか、気になることは山ほどありますが。個人的に一番ショックだったのは、誠一君が最後まで零と紅を見分けられなかったことですね……。幼馴染ヒロイン(笑)が気の毒でしょうがない。

身体的特徴(胸)が違いすぎるだろうが!
立ち絵鑑賞モードで比較。さすがに間違えんやろ……


野上美優

ヤンデレからは逃れられない

 美優ルートに入るには、零の父の事件の後に「街に行く事にした」を選択します。

 個人的に、美優が本作で最も不憫なヒロインだと思います。いや、シナリオの結末に救いがなさすぎるのもそうなんですけど、とにかくヒロインとしての扱いが雑なんですよね……。ルートそのものが、要るか要らないかで言ったら要らない寄りの薄っぺらさ。2、3回のデートイベント後に唐突なHシーンが始まった時は笑うしかなかった。ここまで露骨な数合わせ要員も珍しい。

 美優ルートで判明したことは、紅が誠一に執着していることと、ヴァニラ・アイスのガオン!!ばりの凄い能力を使えることくらい。以上です。


水無月一葉

捕食者の目

 8月4日昼の選択肢で「……物音……?」を選択すると分岐。

 一葉はキャラクター造形が面白いですね。職務は真面目にこなすけど、からかい好きで少々腹黒。誠一に好意を持っていることがわかりやすく態度に出るところが可愛らしい。偏った趣味も含めてヲタクホイホイなところがありそう。自分が零派じゃなかったらホイホイされていたかもしれません。

 一方、容疑者候補の筆頭でもあるので油断は禁物。一葉ルートは美優ルートと違って、重要そうな情報が得られました。一葉の両親が犠牲になった火災の件、一葉が紅に接触していたこと、紅の「人の心を読む」能力等。動機については、これではっきりしましたね。

 一葉のHシーンも唐突と言えば唐突だけど、話の流れ的に不自然ではなかったと思う。恋人という関係を利用して、二人で如月家の秘密を探る展開にワクワクしました。


如月零

貴重な日常シーン

 8月3日昼の選択肢で「屋敷を歩く」を選択すると分岐。

 このルートでようやく、誠一君が零と紅を見分けるスキルを獲得します。って、見分け方そこなの!? 今までギャグとしてイジってきただけに、リアクションに困るというか。最初の選択肢が伏線だったとは……。

如月家当主の器の大きさよ

 物語は佳境へ。如月家と生き人形の因縁を知ったうえで、誠一は零のパートナーになることを誓います。

 紅が思っていた以上にやっかいな存在だった。
 ①生き人形を破壊する → 実行前に心を読まれて阻止される
 ➁儀式を中止する → 蜘蛛神が暴走する
 どちらにせよ詰んでる。加えて、如月家のお家騒動も絡んでくるから面倒くさい。どうすりゃいいのよこれ。そこで唯一の対抗手段となり得るのが、人畜無害な誠一の心を紅にトレースさせて無害化するという考え。なるほど、最初から誠一がキーパーソンだったのね。これがどこぞのホラー映画だったら、「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」で余計に状況悪化していたと思われます。

 シビアな状況故に零とのイチャイチャが少な目なのが残念ですが、抱え込んでいた秘密を白状したことで、ようやく心の底から信頼し合える関係になったのは感慨深いです。


如月紅

人形ホラーお約束の「勝手に動いてる!」は個人的に好きな描写

 零ルートの8月5日で、紅の誘いに対し「女を抱く」の選択で分岐。

 正直、このルートに入るまでは「紅を攻略とかマジありえんてぃー」くらいの萎えっぷりでした。だって、これまでずっと恐怖の象徴として描かれてきた本作のラスボスですよ? いくら容姿が零に似ているからと言って、ヒロインとして見るのはさすがに厳しい。

 分岐早々、Hシーンが始まります。この時点の紅は身体がほぼ人形のままなので、誠一君は苦痛に悶えながら貪られます。主人公がほぼ痛みで叫んでるだけのHシーンって、ある意味斬新。……しかしなぜ、自分は内心ドキドキしているのだろうか。後から思い返すと、本作で一番印象的だったところです。紅がえっちすぎた。

 幼少期の誠一と紅が出会っていたのは、想定通りというかお約束ですね。この時に紅を助けたことが今回の惨劇に繋がったとも考えられますが、それはそれ。ここからハッピーエンドを目指せば良いだけのこと。

 それにしても紅への興味が尽きない。妖艶かつミステリアスな印象は一貫しているものの、時に甘えてきたり献身的な態度を取ったり。……あれ? いつの間にか、紅さんにハマってきてない? じゃあ、そろそろ手のひらを返させてもらうぜ!!

「取り憑かれている」は言い得て妙

 紅の側に付くということは如月家との対立を避けられず、誠一は決断を迫られます。これまでの経験から、選択肢のどちらか(あるいは両方)がBADエンドだろうと推定し、先にBADを見るつもりで「紅と共に逃げる」を選択しました。これが見事に大外れ。逃げて良かったんかーい。もう一つの方は対照的に悲劇&バイオレンス展開で温度差が凄い。

 最後に解放された選択肢によってTRUEエンドへ向かう訳ですが、ここに来て「吸血鬼事件」の伏線が回収されたことに驚きました。正直忘れかけてた。
 呪われた運命から解放され、言いようのない達成感があります。この結末を迎えられて良かった。


おわりに

 最後、紅に全部持って行かれちゃった……。

 手のひら返しはいつものことですが、プレイ中に印象が180°変わったキャラは結構珍しいです。紅だけえっち度が段違いだったのも、エロゲヒロインとしての風格が表れていましたね。
 ちなみに、この感想記事を書くためにゲームを起動してみたら、紅の誕生日ボイスが再生されてビックリしました。聞いたことない人は来年の8月15日に起動してみてください。飛ぶぞ。

 『悠刻のファムファタル』もめちゃくちゃ面白くなりそうなので期待してます。『シミュラクル』が好きな方にオススメ。製品版をクリアしたら、そっちの感想も書く予定です。

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