
本当のファンランの話をしよう | 口熊野マラソン
ファンランとはなんだろう?
楽しい走り。
まるでファンランでない普通のランは楽しくないみたいだ。
申し込んでいたものの、口熊野マラソンは走るのはやめておこうと思っていた。夏から続く体の不調でもう半年ほどまともにジョグもできていなかった。到底順位やタイムを目指す走りにはならない。
それでも結局向かったのは、なんとなく、走りたくなったから。
たぶん、走ること自体嫌いではないのだ。
早朝に車で出て、スタート地点まで歩いて10分ほどの駐車場まで2時間半だった。一度スタート地点を見に行き参加賞を受け取って戻る。駐車場には車がたくさんあったが、みなスタート地点近くまで移動して着替えているのか人影はない。ゆっくり着替えながらおにぎりとゼリーを食べる。気負いが全くないので、ふわふわとして緊張感がない。
20分前になったので車を出る。係の人が怪訝な顔でシャトルバスはもう終わっちゃいましたよと言う。集落の中の小道を下ると、雨上がりの凛とした朝の空気を纏っていて清々しい。
ヨシタカ選手に会った。
どんくらいで走りますー??などと会話する。
いやあ、体悪くってぜんぜん走ってないんでファンランですわ。と、口から出る。スタートまで行って前に並ぶヨシタカ選手と別れ3〜4時間と書かれたプラカードの後ろに並ぶ。こじんまりとした大会なので合図が鳴ってからの待ち時間はなかった。ゆっくり体を動かし始める。アップもなんもしてないもんな。
ファンランってなんやねん。
と、さっきの会話を思い出す。
ちゃんと準備して記録を狙って必死に走るのだってめちゃくちゃファンなはずやん?
10分ほどして、前方に見覚えのあるフォームの選手が見えた。オーシャン選手である。下りの勢いを借りて追いつく。口熊野いいですよーと前々から言うてはったオーシャン選手が改めて魅力を教えてくれる。しばらく並走したのち、ついていくのがしんどくなり、遅れる。
そういやここまでほとんど時計を見ていない。去年の姫路城は何かあれば逐一時計を見てペースや距離を確認、管理していたのに。
マラソンはレースである。
レースというのは、なんらかの競争的目標のために走るということである。順位、タイム、完走できるか。1位を目指すだけでない、全ての参加者にそれぞれのレースがある。そこに、ひとりだけ手ぶらでやってきたような感覚になる。
マジレスすれば、実際は全員手ぶらではあるが。
純粋に走る楽しさだけを取り出すことは可能だろうか?
順位が上がれば、目の前の選手を抜けば、楽しい。というのではなく、サブスリーサブフォーサブエガサブナントカ、目標タイムをクリアすれば、楽しい。というのでもなく、ただ走ることそのものの中の楽しさ成分だけを蒸留することは可能だろうか?
そんなことを考えながら走る。
楽しくなるペースがあることに気づいた。
普段のジョグではなく、それより速い、が、努力が強すぎるわけでもないペース。まさにファンランなペース。
それは気分によって時事刻々と変わった。
見える景色、日向か日陰か、給水がうまく取れたとか。
感じる風によっても変わった。上りや下りも影響した。
ファンランはおのれなのか。
体重が去年より5kg増加しているのもあって、上りは本当にゆっくりになった。下りは加速した。明確な下りでなくても、着地したピンポイントの勾配が前下がりなだけで加速した。路面と一体化するのも楽しさだと気づく。
ファンランは地面にも落ちているのか。
改めてデータを見返すまでもなく、ペースは乱高下しているのは明白だった。同じ選手が遥か前に見えたり、後ろにいってしばらく見えなかったりした。そして改めてデータを見返すと、想像以上にペースは乱高下していた。
ファンランは移ろいやすいのか。
脇目も振らずファンランを本気で楽しんでおったところ、ふと横に並んだのがシライシ選手であった。世界は狭い。めちゃくちゃお久しぶりですねーなどと上がった息の中で会話する。お互いこんなしんどい場面で喋らんでもええのに。
と、ここで気づいた。
マラソンの楽しみは、レース的なものと純粋なる走る楽しみ以外にもあることに。他のランナーや沿道の方々とのコミュニケーションである。もちろん、無言のものも含んで。
気分が乗るという効果があるので、体力使うことになるかもなーと思いつつも沿道で声をかけてくれる人にはなるべく手を振りかえしたり声出したりして走っている。そうか、これも立派な楽しみやな、と改めて思いながら走る。そうすると、なんだか自分も口熊野マラソンという大きな何かの一部になった気がする。だからなんなのかはわからない。わからないが、手ぶらで場違い感が霧消した。
これもファンランのファンに入るの?入らないの?うーん。
気ままなペースで走り続けていると、しんどい。体が、足が、重い。おそらくきっちり管理して走るよりもずっと。ファンランはしんどい。むしろ、ファンランの方がしんどいかもしれない。
ゴールタイムは、1kg=3分説を裏付けるように、去年より5kg増量したぶん3×5=15分ほど遅いものだった。
掴みかけたようなそんなこともないような別にどないでもいいような本当のファンランを胸に抱え、代償としてぜんぜんファンくなくなった足を腰からぶら下げて、家路についた。










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