ゆっくり文庫の原作を読もう「緋色の研究」
ゆっくり文庫原作履修シリーズ。原作ホームズの第一作目、「緋色の研究」です!
本編について
探偵キャラとしてのホームズの魅力はファンによって語りつくされていると思いますが、私がこの第一作目に触れて感じたのは「推理の結論を披露する瞬間の輝き」です。
結論が固まるまでは思わせぶりに沈黙しているのに、いきなり100点の詳細なプロファイリング出してきたり、犯人が捕まっていたりする。沈黙している間のじりじり感と、推理が披露される瞬間の驚きと賛嘆の気持ちのギャップで読者とワトソンの脳が気持ちよくなっちゃうわけですね…。
実際、犯人を知ってたしページ数的にもそろそろホープが捕まるのわかってたのに、ホームズが手錠をかけて犯人発表をした瞬間、思わず目を見開いちゃいました。その時の様子が止め絵とか、大ゴマを使った漫画表現で見えた。
”顔のない人物”の顔がとつぜん認知されるようになる表現が当時どれくらいメジャーだったかはわかりませんが、あまりメジャーでなかったのなら世に与えた衝撃やいかに。
ゆっくり文庫ではワトソンとホームズの同居を積極的に勧めていたスタンガスンは、原作だと紹介にちょっと及び腰でした。
死後についた傷のでき方を調べるために遺体をたたいているホームズの姿を目撃しちゃったらしいです。残当。
ゆっくり文庫の妄想翻案要素だと思っていた「うれしい」、まさかの原作にあってびっくりしました。表現や場面は少し違うけど、ワトソンに推理スキルを褒められて照れるのは原作要素です!(大声)
めっちゃかわいかったので皆さん原作で確認してください。第四章です。
ホームズの知識体系が思った以上にデコボコだったのもびっくりしましたね。地動説を知らないのはたまげた。
ただ、「五つのオレンジの種」での描写をみるに、ホームズは「自分が何を知らないか」をあるていど正確に把握しているし、未知の知識が必要なシーンになると推理スキルによって「それがどんなジャンルの知識体系に属しそうか」の判定も正確にできるっぽいです。卓越した論理性をもつおかげで、頭に詰めておく知識の取捨選択を極端にできるのが強みなんでしょうね。
まあ、われわれ凡人は黙って広く浅い知識と専門知識を両方持ったほうがいいんですが…。
過去編について
ゆっくり文庫版では99%カットされたホープの過去編ですが、長いのはいいとして視点キャラがホープじゃないシーンが2/3を占めるのに笑ってしまいました。
ホープから聞き取った内容のはずなのに、(おそらくホープから聞いたのであろう)数十年前に死んだ人間が体験した情報も事実として書いてるから「おいおい」となる。なった。
しかも過去編、ホープを逮捕した直後に、「ホープはこのように語り始めた・・・」みたいな誘導もなしで突然始まるんですよ!読者戸惑うよ。犯人の身の上も気にならないではないけどホームズの推理のほうが気になるよ。
執筆当時亡くなって10年くらいしか経っていない実在の新興宗教指導者とそのコミュニティを出して、誘拐婚と殺人やってるって描写してたのもビビりました。現代でやったら訴訟不可避。
本編がワトソンが見聞きしたことを後日発表したという体裁をとっているため描写に制約があったせいか、過去編はカメラをぐりぐり動かせて作者楽しそうだなと思いました。
結婚指輪、ルーシー(ホープの婚約者)を誘拐して強制的に妻にしたドレバーが贈り、ルーシーの死後ホープが奪っていったものなのが意外でした。ホープがルーシーのために用意したものだとばかり思ってた。復讐心を忘れないためのよすがとして大切だったんですね。
愛する人を思い出すすべが、仇が用意した指輪しかないということもホープを20年以上かけた復讐にかりたてた理由だったのかな・・・。