ゆっくり文庫の原作を読もう:「青い柘榴石(青い紅玉)」
ゆっくり文庫10周年おめでとうございます!(大声)
総選挙のことを投票締め切り後に知ってギャン泣きした一介の文庫ファンです。
あまりにも悔しいので、ゆっくり文庫作品の原作を読んだ感想をつけていくことにしました。これまでにも読んだ作品はあるので、それらの感想も時間をつくってあげていきたいと思います(犬神家をYoutube公開中にアップしたいな…)。
さて、1本目はゆっくり文庫ホームズシリーズ第1作目「青い紅玉」!今回読んだ創元文庫版(2010年)では「青い柘榴石」。
(以下、引用画像はすべて下記動画から)
本作は「シャーロック・ホームズの冒険」収録エピソードの中ではかなり読後感のいい話です。
振り返ってみると、ホームズが事件を知ってから関わった人はみんな得してるんですよね。ピーターソン、ベイカー、モーカー伯爵夫人はもちろん、ライダーも悪の道から引き戻され、ブレッキンリッジの仲買人も賭けで儲かったし、ホーナーも冤罪が晴れる。
めでたしめでたしで締められる、クリスマスに読み返したくなるお話でした。
細かく見ていきますと、冒頭の「帽子にまつわる推理」が原作でもバッチリ面白かったです。
まずワトソンが帽子を細かい面まで観察した様子が描写されるのですが、たとえば紐を通すための穴や、変色部分にインクが塗られていることなどにワトソンはちゃんと気づいてるんですよ。けれどワトソンはそこから推論して帽子の持ち主の人物像を描くことができない。
直後にホームズが、ワトソンとまったく同じ材料からヘンリー・ベイカーの性格や生活ぶりなどに関する推理を披露してみせるわけです。
『橅の木屋敷』でホームズは「粘土がなきゃ、煉瓦もつくれないだろう!」と言うけれど、粘土(データ)があれば煉瓦(推理)がつくれるわけでもないんだなあと読者に伝わるシーンでした。
ゆっくり文庫版では帽子の推理をホームズの能力を魅せるシーンとして翻案しています。もともとゆっくり文庫ホームズの1作目だったので、シンプルな探偵紹介シーンにしちゃうのはナイス。
原作のベイカー氏の困窮ぶりは短い描写なのになんか胸に刺さりました。
ちょうど急激に寒くなり始めたころ(11/12)に読んでいたのもあって、クリスマスにボロボロだけど愛用はしてた帽子とごちそうをいっぺんに失ったのすごく辛かったろうなって…。かわいそう…。
ジェームズ・ライダーの犯行経緯の告白が、ゆっくり文庫版ではかなり圧縮されてるのもわかりましたね。宝石の処分を手伝う予定だった前科者のモーズリーがメイドのキャサリンに統合されているなど、簡潔にする小技が光る。
ライダーがガチョウに宝石を飲ませた直後にオークショット夫人に見つかり、わやわやな言い訳をしながらガチョウを持っていくシーンは笑えるので原作もぜひ読んでみてほしいです。
原作のホームズがライダーを見逃した理由を「刑務所に送ったら正真正銘の常習犯になるから」と語ったのには、驚きと納得が両方ありました。たしかにライダーのような流れで犯罪に手を染めるタイプは、刑務所のような場所に行ってしまうと反省するより社会を恨むほうにいってしまいそう(悪人として扱われたら悪人になってしまうタイプ)。
ゆっくり文庫ではワトソンがより人道的な解釈を示してくれてほっこりするエンドに向かわせてくれます。
でも、これは妄想なんですけど、ゆっくり文庫のホームズも実は原作と同じ理由でライダーを見逃したのかもしれないと思うとエモいっすね。ワトソンが「あんな男を牢にぶちこむのは殺すのといっしょだ」と言ってくれたおかげでホームズの魂もちょっと救われたということになるので。