ゆっくり文庫の原作を読もう「ボヘミアの醜聞」

ゆっくり文庫原作履修シリーズ。今回は「ボヘミアの醜聞」です!

(画像引用はすべて下記動画より)

ゆっくり文庫のホームズシリーズでは2作目、短編集「シャーロック・ホームズの冒険」収録1本目の作品。
小説のホームズシリーズは最初の2作品が長編ということもあり、「冒険」から入る読者も多いでしょう(そう勧めているサイトが多いし、実際私もそうした)。なので、少なくない人にとって「ボヘミアの醜聞」は初ホームズとなる作品です。

さて、本作が初ホームズとしてふさわしいか?という点から考えると、「微妙」というのが素直な感想。ホームズ負けるし、ワトソンと同居してないし。例外の多いエピソードなので、基本スタイルが味わえるエピソードの後に読んだほうがスッと読めそう。文庫さんが2作目にもってきたのは良い采配だったと思います。


「ボヘミアの醜聞」はアイリーン・アドラーのエピソードでありつつ、むしろホームズとワトソンの関係性のエモさが印象に残りました。結婚して同居を解消してからも、窓のブラインドに映る影でホームズが難事件に取り組んでいることを察するワトソンの描写が初手からきたのでびっくり。ホームズ専用で観察眼が鋭すぎる。

ホームズが馬丁変装時に体験したことを長々と語り終えたあとの↓にもやられました。ゆっくり文庫版で見てたのに。

「(略)ドクター、きみに手を貸してもらいたいんだがね」
「喜んでお手伝いするよ」
「法に触れることになってもか?」
「いっこう平気さ」
「逮捕されることもありうるが、それでもか?」
「大義名分さえあればね」
「その点については太鼓判を押すよ」
「ならば、ぼくに否やはない」

シャーロック・ホームズの冒険 (創元推理文庫)「ボヘミアの醜聞」
ここの問答の言葉選びも良い翻案


ゆっくり文庫版では『「ボヘミアの醜聞」の伏せられた真相』が描写されていますが、原作を読むとたしかに「おかしくない?」と思うポイントがいくつもありました。何か隠してる感がすごいんですよね。

(①と③はゆっくり文庫版でもふれられた要素)
①アイリーンの結婚とボヘミア王への脅迫が、行動として一貫性がない
②青年に変装したアイリーンがホームズに声までかけているのに、ホームズがその正体に気づかない
③ボヘミア王がアイリーンの結婚にやたら不満そう
④アイリーンが旅立ったと聞いたホームズが大げさにショックを受けている(よろよろと後ろへさがり、驚きと屈辱感で顔面蒼白に)

とくに②はホームズの能力を考えるとあまりにおそまつなので、「アイリーンが211Bに来た」だけ残して脚色した結果と考えたほうが自然。
④は実際にとった行動かもしれないけど、ボヘミア王に置手紙を信じさせるための芝居をホームズが打ったということだと思います。


原作で意外だったのは、アイリーン・アドラーの印象が薄く感じられたことです。
彼女に関する描写の大部分が間接的だからでしょう。最初はボヘミア王による説明、次に馬丁に変装したホームズの報告、そして最後の置手紙。偽の火事を起こすシーンのみワトソンがアイリーンの姿と声を直接観測していますが、ほんの短い間です。

原作では結婚立会人の依頼もノートンがするんですよね。紳士と淑女のどっちかが見知らぬ馬丁に声をかけるなら、当時は男性がするのが自然ですが。

ゆっくり文庫版ではノートンに影がついていて、アイリーンに視線が行くようになっている

アイリーンの描写がほんとうに最低限に抑えられているせいで、アイリーンの印象が読者にはヴェールの向こうにいるような、はっきりと像を結ばないかんじになります。

おかげで二次創作で人気のキャラになったんだろうなという納得もしました。謎めいて煙のように消えた、本心がよくわからない美女、妄想の余地がありすぎる。


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