朝靄
朝靄。
僕の気持ちは沈んでいる。
朝靄。
これが晴れたら僕は行く。
朝靄。
水の粒子が僕を濡らす。
朝靄。
いつまでたっても消えない。
「君は優しいんだね」
僕は眼前に広がる朝靄に微笑んだ。
その温かな湿り気は、
これから死地に向かう僕の足を引き留めた。
朝靄が消え、僕は重い腰を上げる。
目的地には何もなかった。
ただ、荒れ果てた荒野があった。
僕は唖然と立ちすくむ。
後から知った話だが、
僕がその場へ行く一刻前に大きな化け物が現れ、
すべてを喰らっていったのだとか。
僕がもっと早くそこに着いていれば、
救えたものもあったかもしれない。
それでも、僕は己の命の尊さに涙した。