MOSFETとDC-DCコンバータの特性
1.目的
(1) MOSFETの特性を理解しスイッチング素子として応用できるようになる。
(2) スイッチングレギュレータの原理を理解し電圧の制御方法を理解する。
2.関係知識
(1) MOSFET
① トランジスタの種類
バイポーラ形が電流を制御するのに対してユニポーラ形は電圧で電流を制御するという違いがある。ユニポーラ形のトランジスタFETと呼ばれは構造により接合タイプとMOSタイプに分かれる。
② 構造
実験で扱うのはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。図1のような回路図と構造をしている。ゲート(G)・ドレイン(D)・ソース(S)はベース(B)・コレクタ(C)・エミッタ(E)に対応している。ゲート端子に電圧を加えるとドレイン-ソース間にチャネル(電流の流れ道)が形成される。イメージとしては水道のバルブ(蛇口)のようなものだとしてとらえることもできる。ゲート側はコンデンサ成分が多く含まれるため、スイッチングでは電荷の充放電について考慮する必要がある。
③特性と領域
チャネルの形成により3つの動作モードが存在する。増幅の用途として用いる場合は図2(a)のようにゲート信号により電流を制御する飽和領域での動作を行う(バルブの開け閉めの緩急により水の流れを制御するようなイメージ)。スイッチングの用途として用いる場合はON時に図2(b)のような線形領域、OFF時に遮断領域での動作を行う。遮断領域ではチャネルが全く形成されない。
(2) MOSFETの応用回路
① 降圧スイッチングレギュレータの基本回路
直流電圧の値を変換する機器をDC-DCコンバータと呼んでいる。今回はその一種である降圧スイッチングレギュレータを用いて実験を行う。入力電圧のONとOFFを繰り返すPWM信号をMOSFETに入力することでスイッチングを行い、その波形を平均化することで電圧の値を制御している。duty比(ONとOFFの割合)を変化させることにより出力電圧の値をコントロールすることができる。
スイッチがONとなったとき入力電圧はコイルを介して出力される。このときOFFからONとなる動作を妨げるようにコイルの誘導起電力が発生し平滑化される。またコイルにはエネルギーが蓄えられる。そして、OFFとなるときには、コイルに蓄えられたエネルギーが放出され還流ダイオードを介して電流が流れることになる。コイルはONからOFFとなる動作を妨げるように誘導起電力を発生させるため平滑化される。さらに後段には平滑コンデンサを挿入しており、波形のリプルを減らしている。出力電圧は$$V_{out}=T_{on}/({T_{on}+T_{off}}) V_{in}$$として計算できる。
②簡易的なゲートドライブ回路
MOSFETをスイッチング用途で使用する場合はゲートドライブ回路が必要である。ICやマイコンは容量が小さくMOSFETのゲートを駆動するのに必要な電流を流すことができない。そのため微弱なスイッチング信号を増幅して送る役割がある。
今回はファンクションジェネレータを用いてスイッチング信号を作り出し実験を行う。また、実習であるため分かりやすさを重視して、簡易的にトランジスタ回路によりゲートドライブを行うことにする。本来であればトランジスタを2つ使う必要があるが今回は省略する。
③降圧スイッチングレギュレータの実験回路
図3の基本回路に図4のゲートドライブ回路を組み合わせ、MOSFFETのゲートを駆動できるようにした回路を図5に示す。トランジスタを用いた増幅回路は定電圧電源を用いず、入力電圧で代替しているため、入力電圧の増減に合わせて増幅率も変化することになる。そのため、入力電圧が高くなっても、それに対応した適切な大きさのゲート信号を入力することが出来る。
3.実験手順
(1) 基本回路の配線
図3の回路をブレッドボードで配線する。入力電圧は直流電源を用いて供給し、出力電圧は電子電圧計によって測定する。ただし、MOSFETを配線する代わりに最初は押しボタンスイッチを用いて回路の確認を行う。
(2) 基本回路の特性実験
自分の手でONとOFFを切り替えたときの電圧の値がどうなるか観測する。そのときの入力電圧はどのような値でも構わない。確認が終わったらMOSFETに置き換える。
(3) MOSFETの特性実験
ゲートドライブ回路を介すことなく、ファンクションジェネレータからのPWM信号をスイッチング信号として用い、MOSFETのゲートに入力する。実験結果は表2に書き込むこと。
(4) ゲートドライブ回路の追加
MOSFETを線形領域でスイッチング動作させるためにはゲートドライブ回路を追加する必要がある。図3のゲートドライブ回路をブレッドで構成して図4の基本回路と組み合わせることで図5のスイッチングレギュレータの回路にする。
(5) スイッチングレギュレータの特性実験
① 入出力特性を確認する。表3に結果を書き込む。
② スイッチング周波数と出力電圧の関係性を確認する。
③ duty比を変化させたときの出力電圧を確認する。
④ 負荷電流の増加に対する電圧変動を確認する。
⑤ 表3から表7の実験結果に対してグラフを作成する。
4.実験結果
ゲートドライブ回路が存在しない場合はMOSFETの特性が現れる。ゲート電圧によって出力は飽和する。入力により電源電圧によらず出力は入力のみに影響を受けるわけだから、これは増幅回路として活用することができる。ただしスイッチングには不要かもしれない。
ゲートドライブ回路を介した場合のグラフがこちら。飽和することなく出力は入力に比例する。
出力電圧はduty比によって独立して操作できることが確かめられた。
負荷電流が増加しても電圧変動はほとんど存在しない。この回路の実用性を確かめることができた。