朗読OKな自作短編小説 6
記事数をどんどん増やしていくスタイルです。
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タイトル 「ゴメンナサイ ゴメンナサイ」 所要時間 約7分
本編
ゴメンナサイ。
ゴメンナサイ。
そうして私はあやまり続けた。
だれに対してか?
それはわからないけれど。
2
「ごめんね。小百合」
「えっ、何が?」小百合は知らないふりをする。
放課後のチャイムが鳴ってから30分は過ぎた。
教室内に生徒達の姿は見当たらない。
時期が冬至にさしかかったせいなのか、4時頃でも西日がプラスチック製の机と椅子を照らした。
1-3の教室には、2人の女子生徒が何やら言い争っていた。
2人とも、立ったままちょこちょこ移動する。
セーラーの赤リボンは、気忙しく揺れ動いた。
「で、繭子、今行かなくてどうするの。告りなよ、実川君に告りに行くの」
短髪でこざっぱりした小百合が、一回り小さい内気な繭子の背中を押す。
「で、でも私……」
「つべこべ言わない。私、実川君からラインで色々相談受けててね。繭子の事好きなんだって。今第二視聴覚室に呼んである。もう、考えちゃダメ」
「……ごめん。小百合はいいの、それで本当に?」
小百合は黙った。
「……いいんだね。じゃあ行くよ、私」繭子は小百合の顔を見ず、教室を出て行った。
「臆病者」と、出て行く前に彼女は涙声で呟いた。小百合は唇を噛み締める。
3
小百合は、繭子の姿が見えなくなると電光石火で家路に着いた。
彼女は激しい動悸を覚える。
あそこにいたくなかった。
関係が出来上がってしまう瞬間に、立ち会いたくなかった。
立ち会ったら、出会ってしまったら……
自転車での帰りの途中、ラインのメッセージ通知が聞こえた気がした。
しかし小百合は無視し、家まで携帯に触らなかった。
マンションの鍵を開け、どたどたと一目散に自身の部屋へ戻る。
鍵を閉める。
呼吸を整えた後で、スマホの画面を見る。ベッドのふかふか枕に寄りかかった。
ラインが1件、実川君だ。繭子から返信がない。
文面は、
繭子さんに告られて、付き合う事になった。小百合に相談して良かった。ありがとう。
そう記載されていた。
この後、小百合はどんな文を返信したか。
それは本人でも覚えていなかった。
ただ定型文の終りに、何の気なしに笑顔マークを入れたのは覚えている。
それから、彼女は泣き崩れた。
涙が止まらなかった。
繭子は知っている。
私が実川君を愛してしまったことに。
相談にのってるうちに、思いやりと優しさに溢れた彼に惹かれていってしまったことに。
それは初恋だった。
真剣だった。
けど、自分から茶化した、誤魔化した。
愚かなんだ、私。
繭子の誠実な追及も。
繭子はわかってたんだ。
わかってたのに、親友に嘘をついてしまった。
親友でいたかったから、我慢してしまった。
純真な実川君の素直な報告も。全部誤魔化した。
取り繕って。
笑った。自分で自分を。
笑っちゃいけなかった、自分の気持ちに嘘をついてしまった。
やってはいけないことをしてしまった。
初恋を笑った、愚か者だ。
私は。
自分の大切な気持ちを嘲笑った、愚か者だ。
痛い。
痛い。
苦しい。
小百合は、枕に顔をうずめ泣き出す。ぐわんぐわんと耳鳴りが聞こえたような気がした。
気持ち悪い。嗚咽も聞こえる。血が出るくらい、握りこぶしを作って。
誰にも声が漏れないようにする。
「……ぅぁ」
部屋はしんと静まり返っていた。
小百合はいつまでもやめなかった。
西日が消えるまで。宵闇がなくなるまで。
ずっと。
◇◇◇
4
ごめんなさい。
ごめんなさい。
そうして私はあやまり続ける。
繭子に。
実川君に。
誰かに。
そして、自分に。
これからも。
私が愚か者でなくなるまで。
ずっと、ずっと。
(了)