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山間薄霧(仮)


ー序ー


皆が寝静まる。
近くに伝統もなく。

静か。

風もなかった。

ふわりと
肌を包み込む空気は暖かで。
それでも纏わりつく程ではない。

頬に
ほんのり冷気の心地よさ。
感じるのは
山が近いからだ。


--------!」
何の声だったのか。
何かの声だ。
どこから聞こえた。
家の背負う山から聞こえたのか。
庭先を出て
山に続く道は
どこまでも続いて
繁んだ木々の中ー
闇の中へ消えている。


ガサリ。
ガサリ。

なにかが動く音だけが聞こえる。

この道を辿れば 山に入れる。
灯りのない夜ー夜明けまでは まだ遠い。
そんな時
山は まだ山にはなっていない。
蒼黒く広がる夜の空に
「山」が黒い塊となって広がる。
空間を
夜と山とで 分け合っているようだった。

なにか妙な気がした。
蒼黒い空。
黒い塊の「山」
昼間ならば「空」と「山」だ。

この辺りには 自分の家と自分だけだ。
家と、山と、山に続く獣道のような
そんなものくらいしかないのだ。

ーなにかが足りない。

ぞわり。
ぞ、ぞぞ・・・ 肌が泡立つ。

なにかが産毛を 撫でるようだ。
この。
ぞわつく。
この感覚はなんだろう。

知っているような気がする。

ー知らない、かもしれない。


ー序ー1ー


朝になると、霧が地を這うここに
俺はずっと住んでいる。
陽光が山の陰から差し始める少し前ー
そんな時間に目が覚める。
毎日 同じ時間に起きるのだ。

家の庭先に小さな畑は
霧でまだ 見えてこない。

窓を開ける。
すぐ横の壁を伝う蔓が目に入った。
霧露で濡れている。
花は付いていない。
蔓、ではあるが、これが何の植物か
今だに知らない。
気が付くと 俺はここに住んでいた。
なにも知らないが
何故か やることが決まっている。
それだけは知っていた。








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