The Messthetics インタビュー
フガジのリズム隊である、ジョー・ラリーとブレンダン・キャンティが、ギタリストにアンソニー・ピログを迎えて始動させた新バンド=The Messthetics。2018年3月にデビュー・アルバムを発表し、5月には早くもジャパン・ツアーが実現。札幌から福岡まで、6都市8会場をみっちりと回り、フガジとは違う、しかしどこかが確実に繋がっている刺激的なサウンドを聴かせてくれた。最終日となった渋谷のO-nestでのライヴ前に行なったインタビューを公開します。
それにしてもブレンダンは、インタビュー中ずっと笑いがとまらないという感じの人で、落ち着いたジョーと対照的かつ、最高のコンビという印象。2018年の暮れからはツアーを再開しており、バンドとしては非常に調子が良いようなので、さらなる活躍と再来日に期待しましょう。
通訳・翻訳:網田有紀子
初めて3人で顔を揃えてから、すぐ最初のライヴをやって、アルバムをレコーディングして、リリースして、ツアーに出て、ライヴを重ねてきた。すごく速く一気に進んできたんだよ
--今回のジャパン・ツアーでは各地を周り、たくさんの日本のバンドと対バンしていますね。感想を聞かせてもらえますか。
ジョー・ラリー「福岡公演をブッキングしてくれたプロモーターのヨシダだっけ? 彼は札幌で共演したバンド、PANICSMILEのメンバーなんだ。それにサウンドマンもやってたね。昨日の公演のサウンドマンはPANICSMILEのギタリストだったんだよ。PANICSMILEのことは知ってる?」
--もちろん。
ジョー「で、僕が言いたかったのは、彼らは最高だってこと。また共演できたら嬉しいよ。今回はそういうバンドばかりだった。札幌でも良いバンドがたくさんいたよね。なんて名前だったっけ?」
ブレンダン・キャンティ「CryptCity、bruvs、あとdiscotortionもよかったよね」
ジョー「うん、よかった。みんな本当にいいバンドだった。見逃しちゃったのもあって残念だったな」
アンソニー・ピログ「Discharming man?」
ジョー「それだ。彼らの演奏が観られなかったんだ。だって、7バンドも出演するイベントだったからね。ひとつのショウでだよ(笑)。僕達は飛行機で飛んで会場入りして、サウンドチェックして、食事をとって、急いで戻ったんだけど、最初のバンドを見逃してしまった」
ブレンダン「九州で一緒にやったのは、Doit Scienceと……nui?」
ジョー「nuiだ」
アンソニー「ジャジーだったね」
ブレンダン「ジャジーなインストゥルメンタルで、すごくよかった」
ジョー「その2バンドだったね」
ブレンダン「Doit Scienceは、ぐわーーーって、クレイジーだった(笑)。Doit ScienceとPANICSMILEは本当に、本当に、discotortionも、みんなものすごくよかったよ」
ジョー「本当にクールなバンドばっかりで」
ブレンダン「ぶっ飛ばされた」
ジョー「他の街は? 思い出すのが大変だよ(笑)!」
ブレンダン「奈良ではLOSTAGEとBedだったと思うけど、彼らもすごくよかった。あと……GEZAN。GEZANとは2公演一緒にやったよね。最高だった」
ジョー「彼らもクレイジーなバンドだったね(笑)」
ブレンダン「あと……東京で一緒にやったのが、CryptCityのドラマーと女性の――」
ジョー「sositeだ。僕も一緒にベースを弾いたんだ」
ブレンダン「そうだ、sositeも素晴らしかったね。あの夜の最初のバンドもすごくよかった」
ジョー「うん、uri……」
--uri gagarn。
ブレンダン「そう、uri gagarn。スキニーなキッドで、すごくいいソングライターだった。みんな、それぞれがすごく面白い、まったく違ったことをやっていて、ジャンルも越えて……もうジャンルなんか存在しないって感じだ」
ジョー「フガジとして来日した時とか、僕がソロで来た時と比べても、日本のバンドは変わった気がする。昔とは違ったスタイルのソングライティングに移行したみたいだ。それが全部同じなんじゃなくて、みんな違っていて、すごくいいと思う。いろいろと変化し続けてるっていうね。そこがすごく面白い」
ブレンダン「僕がDoit ScieneceやPANICSMILEを観ながら考えてたのは、アメリカの人達が気に入るだろうなってこと。彼らがアメリカに来てライヴができないのが残念だよ。来る気がないだけかもしれないけど(笑)」
ジョー「僕達は日本まで来てライヴができることを本当に幸せだと思ってる。今回はDUM DUMがツアーを企画して成功させてくれたけど、それは簡単じゃないとわかってるから。当たり前のことだとは思ってないよ。宿泊にはエアビーアンドビーを使わせてくれって頼んだくらいなんだ。何でもいいから安くなるようにって」
ブレンダン「ははは、うまくいくためならね」
ジョー「結局ホテルを使うことになったけど、昨日の夜は福岡でオールドスタイルのホテル(旅館)に泊まったんだ。この方が安いし、楽しいよ! これでいこうよ!って(笑)」
ブレンダン「それに今回のブッキングは面白かった。きちんとキュレートされてる感じで、最高のバンドばかり選んでいて、会場も最高だったしね」
--そういう日本の各地方都市にまでおよぶ様々なバンドの動きっていうのは、90年代からのあなた達の活動の影響が、日本で芽吹いて実ったものだというふうに考えています。
ブレンダン「え、ほんとに?!(笑)」
--日本のこういう状況に接して、自分達が種をまいたものだと感じたりはしませんか?
ブレンダン「それは興味深いね」
ジョー「それについては、こっちが聞きたいくらいだよ。僕達にはなんとも言えない。いろんな意見は聞くし、特に今は、以前までよりもっとアメリカのバンドの影響があるって話も聞いた。ただ、それが90年代のアメリカのバンドなのかはっきりしないし、具体的にどのバンドなのかわからないし、自分達のことだとも思えない。それでいいんだ。だって、僕達に影響を受けたとしても、僕達と同じようなサウンドをやってほしいとは思わないから。それに日本の人達はもっとクリエイティヴだと思う。単に自分が好きなバンドみたいな音楽をやるというより、それ以上のことをやっている。もちろん、君が言ってくれたことが本当なら、それは嬉しいな」
ブレンダン「うん、もし僕達に責任があるのなら、とても誇らしいよ(笑)」
--では、今回のツアーで、日本での衝撃デビューを果たしたアンソニーに話を聞きたいのですが、まずはどういう音楽的背景があるのかを聞かせてもらえますか。
アンソニー「OK。僕はずっと、アヴァンギャルド・ジャズとフリー・インプロヴィゼーション、つまり自分独自の音楽をずっとやってきた。2007年くらいからかな。その頃から、チェロを弾く妻と、ジャネル&アンソニーっていうデュオをやってきたんだ。それからCuneiform Recordsでトリオでのレコードを出したりもした。これまでニューヨーク、ボルチモア、DCとかでプレイしてきて……」
ジョー「アンソニーはニューヨークや他の街でも、いろんなミュージシャンと組んでいろんなプロジェクトをやってきてる。けっこう長いよね」
アンソニー「音楽をやり始めてからずっと、やってきてるよ」
ジョー「だから説明するのが難しいかもね。常に変化してきてるわけだから」
ブレンダン「バンドにいるわけじゃないからさ」
アンソニー「ニューヨークやボルチモアやDCにはいろんな編成のフリー・インプロヴァイザーのグループがあるんだ。妻と一緒にやってるデュオも14年くらいやっていて、レコードを2枚リリースした。それから自分のバンドもやってるというか、ソロも、トリオも、カルテットも、クインテットも、セクステットもあって、その全部で僕自身の音楽をやってきてる」
--ちなみに、日本は初めてですか?
アンソニー「そうだよ」
--何か驚いたこととかはありましたか?
アンソニー「いや、何も予測してなかったから驚いたりもしてないけど、とにかく楽しんでるよ。食べ物が美味しいよね。人もみんなやさしいし」
--聞いた話では、奈良の鹿が怖かったそうですが。
ブレンダン「噛むところを見ちゃったんだよね(笑)」
アンソニー「人が近付いていったら攻撃し始めたんだよ。僕の言う通りだったよね? おとなしくなんかないんだ。やつらは子供達やお年寄りを攻撃してたんだから」
ブレンダン「(爆笑)」
ジョー「いちおう言っておくと、アンソニーの怖がりは奈良の鹿に限ったことじゃないんだよ。動物には近付きたがらなくて――」
アンソニー「動物好きじゃないんだよ」
ブレンダン「ウサギちゃんだってダメだよな(笑)」
ジョー「ちっちゃなハリネズミだって」
ブレンダン「リスも」
ジョー「アンソニーは音楽の話をしたいよね、動物が怖いって話より(笑)。からかうのはフェアじゃないな」
--ドミューン出演時のインタビューではちゃんと聞きとれなかったので、あなたにとっての四大ギタリストを改めて確認させてください。Bill Frisellと、Nels Clineと、Sonny Sharrockで、四人目は?
アンソニー「四人目はDanny Gatton。DCエリアのギタリストなんだ」
ブレンダン「80年代のワシントンDC出身なんだよ。もう亡くなったけど」
--わかりました。アンソニーがこのバンドに参加するきっかけは、ブレンダンがジョーに紹介したということですけど、そもそも最初にブレンダンと知り合ったのはどういうふうに?
ブレンダン「僕が観ていたというか、僕が彼のやってることに気が付いたというのかな(笑)。アンソニーはたくさんの違ったバンドでプレイしていて、それにノイズとかジャズとかいろんなジャンルの音楽をやっていた。で、僕もNels Clineの大ファンなんだけど、Nelsに似た音楽をやってる人がいる、つまりジャズとノイズのコンビネーションで実験的な音楽をやってるってところに惹かれたんだ。そうして彼のライヴを観るようになり、その後それぞれ別のバンドで同じライヴに出ることになってね。彼は奥さんとのデュオ、僕はSuper Silver Hazeっていうインストゥルメンタルのデュオで出たんだ。その現場で僕の方から、『ヘイ! 元気~?』って近付いていって、どんなに彼の音楽を気に入ったかって話をしたんだよ(笑)。ついでに、当時ちょうど映像作品のスコアを作ってたんだけど、家を破壊する3分間のシーンに合わせる音楽を作るのを手伝ってほしいってジャネルとアンソニーに頼んでみたんだ。あれ、4分間だったかな? とにかく、一緒に映像を観ながら、僕がドラムを叩いて、2人にチェロとギターを弾いてもらって、4回やったら完璧なものが出来上がった。僕はもう『最高だ!』って感激して(笑)、それが初めての共演だった。で、ジョーが8年住んでいたイタリアから帰った時、たくさん曲を作って戻ってきたんだけど、すごく腕のいいジャズのギタリストを使った曲でね。それらを初めて聴かせてもらって最初に頭に浮かんだのがアンソニーだった。そのジョーが作った曲でギターを弾くのは、アンソニーが最適だと思ったんだ。僕達3人が初めて集まったのは、それが実現した時さ。ジョーと僕はすでにジョーの曲に取り組んでいて、そこへアンソニーに入ってもらったら、これはもう3人で一緒にアルバムを作ってみようってことになったんだよ。アンソニーはクレイジーなアイデアをたくさん出してくれて、それでアルバムが出来上がったってわけ。すごく速く進んだよね。1年半くらいだっけ?」
ジョー「うん」
ブレンダン「1年半前が最初のセッションだった。それからすぐ最初のライヴをやって、アルバムをレコーディングして、リリースして、ツアーに出て、ライヴを重ねてきた。すごく速く一気に進んできたんだよ」
--この3人でやってみて得られた、それぞれ過去のキャリアであまり経験がなかったような新鮮な刺激みたいなものはありましたか?
ジョー「もちろん。またブレンダンとプレイするのが居心地のいいような感覚もあったのは確かだけど、僕は自分が以前とまったく同じベース・プレイヤーだとは考えていないというか……できれば何かが進歩していてほしいと思っている。ブレンダンと僕はフガジで15年間やってきて、それ以降ライヴをやってなかった時期が、ほとんど同じ15年くらいあった。2002年にイギリスでやったフガジの最後のライヴ以来、初めて一緒にやったのがこのバンドでの去年の5月のライヴだったんだ。だからその間に自分がベース・プレイヤーとして少しでも変化できたことを願ってる。自分では前よりもできることが増えたような感じがしてるけどね。僕にとっては、ブレンダンとまたやること自体、それだけでも新鮮に感じられた。一緒に演奏するやり方が違っていたんだ。で、アンソニーが加わってくれたら、そのおかげで僕達にできることが1000倍うまくできるようになったんだよ (笑)。突然プレイのレベルが上がって、『お、頭に浮かんだことが何でも実現できるぞ!』って。僕にとってはもうすべてが新鮮な感じで、最高だったよ」
ブレンダン「なんていうか、アンソニーと一緒だと、いくつもの違った音楽的環境にいられる感じがする。あらゆる種類の音楽で実験ができるんだ。リズムで実験もできるし、テクスチャーでもあらゆる違ったことができる。今のところ、自分達に何ができないのかわからないくらいさ。いまだに壁を探してるというか……うまく言えないけど、とにかくこの3人で集まるたびに、今も毎回クリエイティヴで新鮮な感覚が持てる。もし1日に3回ライヴができたりしたら最高だろうね。現実的には1回しか無理だけど(笑)。1日に23時間は座ってコーヒー飲んで、プレイするのは毎日1時間だけだ(笑)。でも理想の世界では、朝起きてスタジオに行って、1日中曲作りをして、夜にはライヴでプレイしてから、またスタジオで曲作りしたりできるといいな。ともかく流れが良くて、コミュニケーションがうまくとれてる感じがするんだ。音楽的な意味でね」
アンソニー「僕には、新鮮かどうかはわからないけど、この3人で作るサウンドは信じられないくらい素晴らしくて、自分のやりたいことを自由にできてる感じがする。すごく良いフィーリングなんだ。それに、最初からずっと楽しいよ」
--ライヴでは、CDに入っていない曲もすでに演奏しているようですが、どんどん新曲もできて、次のレコードができちゃいそうな感じだったりするんでしょうか?
ジョー「うん。時間が限られていて、いつ新しい曲を作っていたのか、今となってはよく思い出せないんだけど、4月と5月にライヴをやっている間もずっと、サウンドチェックの時とか、チャンスがあるたびに曲作りをするようにはしていたよ。どんどんアイデアが出てきたからね。ただ、ブレンダンは新しいプロジェクト(※MC50)が始まる予定で、このツアーが終わったら、MC5のウェイン・クレイマーと活動するんだ。それが秋くらいまでかかるから、もっと僕達のツアーも続けたかったんだけど、ブレンダンが忙しくなるんで、いったん終わりにすることにした。できれば、また集まる時間を見つけて、アイデアを形にしていきたい。少しでも方向性が見えてくるようにね。まだ完全な曲の状態じゃなくても、習作みたいな感じで。そういうのをやらなきゃいけないと思ってる。もちろんアンソニーも一緒に」
ブレンダン「ライヴをもっと長く続けられるようだったら、続けたいね。アイデアはたくさんあるんだよ。これはインストゥルメンタルのバンドだから、とにかくなんでもやってみることができる。サウンドチェックの時にでも話をして、毎日実験ができるわけで、そこがいいんだ。もしヴォーカリストがいたら、きっと……発狂するだろうね(笑)」
ジョー「ヴォーカルがいるとしたら、即興的にやれなきゃいけないからね。それができる唯一のヴォーカリストは、アキラ・サカタだけだろうな」
ブレンダン「ははは、そうだね。2日前に、アキラ・サカタと共演したんだよ。彼こそ僕らのシンガーだよ(笑)」
アンソニー「彼の歌、素晴らしかったよね」
ジョー「ノイズをやってる人(T.美川)とCryptCityのベース・プレイヤー(中尾健太郎)と一緒に即興演奏してたら、彼が歌い出したんだ。それがもう素晴らしくて。ずっと話してたんだよ、今のところ僕達のバンドのシンガーになりえるのは彼しかいないってね」
ブレンダン「サカタさんが僕らのシンガーだ!って言っておこう(笑)。本人はあずかり知らないところで(笑)」
ジョー「僕達にとっては、彼みたいなシンガーがいいんだ。僕達が話をしたら、すぐに歌えるわけだから。アイデアに乗せて即興で歌えるっていう。ああいうシンガーとだったらうまくいくだろうね」
--次のアルバムでは、坂田さんにヴォーカルをとってもらいましょう。
ブレンダン「ははは、それは大変だ」
ジョー「難しいだろうねえ」
ブレンダン「うん、ともあれ夏にレコーディングはしようと思ってるよ」
ジョー「やってみないとわからないけど、この夏にレコーディングして、それからどの曲をアルバムに入れるか考えていく感じだね。ちゃんと見てみなきゃ。今までちゃんとやる時間がとれてないから。デモさえできてない状態だし。そういう意味で言うと、これは仕上げてアルバムに入れたい曲になるかな?っていう段階というか。でも、そういうのがもうたくさんできていて、6〜7曲はあるかな。だからいいスタートにはなってる。ただ時間的な問題で、ブレンダンが9月と10月はいないし、11月になるとアンソニーがいなくなるし。だから早くリリースできるよって言えたらいいけど、今のところははっきりわからないっていうのが正直なところ」
--アンソニーは11月にどちらへ?
アンソニー「ヨーロッパにツアーに出るんだ。James Brandon Lewisのフリー・ジャズ・グループと、2週間くらいね」
--わかりました。いずれにせよ新作のレコーディングに、今回の日本ツアーがいい影響を与えるといいなあと期待しています。
ブレンダン「ああ、それはもちろん」
ジョー「間違いないね」
ブレンダン「特にアキラ・サカタとやった即興演奏は、このバンドにとって重要だったと思う。PAなしでプレイする時や、他のミュージシャン……それも僕らより上手くてもっと経験があるミュージシャンと一緒にフリー・ジャズができると、いつだって学ぶことが多いんだ。僕達自身の音楽について、彼は一晩でたくさん僕達に教えてくれたんだ」
ジョー「その通り」
--さて、いくつか確認したいのですが、この日本ツアーの途中から、急遽ドラムセットに鐘を入れようと思ったのはどうしてなんですか?
ブレンダン「ははは、これってすごく笑えるんだけど……というのも、みんなこの話ばっかりしてくるからさ(笑)。確かに僕は、フガジの頃から大きなベルを常にドラムセットに入れてきたけど、今回は持ってこなかったんだ。面倒だったから(笑)。だってデカいんだよ! それを荷物に入れようとした時、持ってくべきか迷って……ま、いっか、いらないよねって思ってさ」
ジョー「手荷物に入れなきゃいけないからね。ブレンダンの荷物なんて、服とベルと、ほとんどそれだけで、あとはスティックくらいなんだ。それ以外の機材はないから」
ブレンダン「次回はちゃんとしたベルを持ってくるよ。だって今回、ドラムをセットアップしたら、みんなが『ベルはどこ?』って感じになって(笑)」
ジョー「どうしてもベルがなきゃって言われて、なんとか見つけてくるからってことで、じゃあそれでって……」
ブレンダン「誰かから借りてきてくれたんだよね。でもそれが、すごくちっちゃなベルで(笑)」
ジョー「チンチンチンって感じで(笑)」
ブレンダン「ガガガガガガガってドラム叩いておいて……チンって(笑)。僕の本当のベルはもっとデカい音が出るんだけど、今回のは(小声で)チン(爆笑)」
ジョー「クレイジーだったね、今回のベル問題は」
ブレンダン「ネズミを叩いてるみたいだったよ(笑)」
--(笑)。もうひとつ確認しておきたい話があるんですが、ブレンダンはフガジの活動休止中たくさん映像作家としての仕事をしていて、『Burn to Shine』というDVDシリーズも出してましたけど、最後の2つに関しては、もう出ないものと諦めた方がいいのでしょうか?
ブレンダン「そのシリーズは、タッチ・アンド・ゴー・レコーズが配給してたんだけど、レーベルが運営を停止して、タッチ&ゴーに所属するほとんど全アーティストの作品の配給がストップされてしまったんだ。そのために『Burn to Shine』も中断して、ひと休みするしかなかった。『ルイビル編』と『アトランタ編』も撮影は済んでたんだけど、リリースする手立てがなくなってしまって、それで完成させてなかったんだ。でも、今はどちらも完成してるよ。実は、まさに『アトランタ編』が、さっき言ったアンソニーとジャネルに音楽を手伝ってもらった作品なんだよ。もう全部デジタル化したから、もうすぐリリースできると思う。そのうち、無料で手に入るか、ストリーミングとかで見られるようになるはずだ。もうDVDが売れなくなったから、映像作品を作ることは難しくなってる。まだDVDが買われていた頃は、もっといろいろ作ってたんだけどね。ウィルコとかデス・キャブ・フォー・キューティーとかディセンバリスツとか。でも、どんどん音楽DVDは売れなくなって、作られないようになっていった。映像を作るのにはとにかく金がかかるから。大勢のスタッフが必要で、たくさん時間もかかる。そういうわけでストップしちゃったんだ。でも未だに『Burn to Shine』に興味を持ってくれてる人達はいて、僕に決められることなら、できればこのアイデアを使って世界中でやってほしいと思ってる。いろんな都市で、それぞれのコミュニティをドキュメントするっていうね。たとえば福岡とか、札幌とかでもできるかもしれない。燃やす家がすぐ見つかるかわからないけど……そこが大変なところなんだ。破壊してもいい家を探すのが一苦労なんだよね(笑)。許可をとる電話とかも全部かけて、自分で見つけてこなきゃいけなくて、いつもそこが一番大変だった。家さえ見つかれば、そこから先は楽なんだよ。もしかしたら、いつかまた作るかもしれないね。アトランタとルイビルのはアメリカでは上映したんだ。特にアトランタのはすごくよくできたと思う。アトランタにはマストドンとかディアハンターとか、あと――」
--ブラック・リップスとか。
ブレンダン「そうそう、ブラック・リップスとか、すごくよかったよね。シャノン・ライトも。とにかく、そのうち観られるようになるはずだよ」
--よかったです。次は、ジョーに確認なのですが、今回の日本ツアーでは、すべて借りたベースで済ませたんだそうですね?
ジョー「ああ、それは僕のクレイジーなアイデアで、楽器を持ち込むにはお金がかかるからなんだ。で、節約できるところがあるなら、やってみる価値があると思って。僕がベースをやることにした理由のひとつでもあるというか、つまりベースって、どれもそれほど大きな違いがないからなんだ。借りたベースでもね(笑)。フガジの曲はミュージックマンのベースで弾いていて、ライヴでは特定のサウンドを出していた。でも最初の2枚のアルバムの後、レコーディングの時はベースを借りるようになったんだ。フェンダーのベースで、ジャズでもプレシジョンでも。そっちの方がいい音が録れたから。それで、そうやってみたんだけど、ベースを持たないことで少しでも金を節約できたかっていうと、よくわからない(笑)。今回の飛行機のチケットは、荷物を預けられるものみたいだったし。出発する直前までそのことがわからなくて、手遅れだったんだよね。でも、結局まったく問題なかったよ」
ブレンダン「CryptCityのベース・プレイヤーが貸してくれたんだよね」
ジョー「そう、彼とは3公演一緒にやったんだ。貸してくれるなんてありがたいし、サウンドも最高だった。とにかく僕は自分の楽器っていうものにそれほど執着がないから、ベースに何かあったとしても、代わりを使えばいいかって感じだね。特定のものに執着しちゃうと、何かあった時に他のが弾けなくなってしまうのが怖いんだ。だからこれでいいんだよ」
ブレンダン「僕達のショウは毎回、違ったアンプや違ったドラムを使っていて、ショウごとにいろいろと変わるのが面白い。どのショウも違うんだ。だから毎回、どんな音が出てるのかちゃんと聴かなきゃいけない(笑)」
ジョー「それに慣れていくのはいいことだよ。おかげで、うまくやるために自分の力をもっと引き出せるようになると思う。自分の楽器に戻った時、さらにいい気分になれるしね(笑)」
--自分のベースを持たずにツアーに出たことは、これまでにもあったんですか?
ジョー「前にやったのはいつだったっけ。確かヨーロッパをツアーしてた時だと思う。Zuのベーシストであるマッシモと一緒だった時かな。僕が、妻の家族に会いに行って、彼がショウをブッキングしてくれたんだ。そこでも借りたベースを弾いたと思う。それほどたくさんやったことはないかな」
--前回のジョーのソロ公演では、ペダルを1個しか使ってなくて、さらに今回はペダルがひとつもないようなんですが、これも機材を少なくしたい気持ちからなのでしょうか。
ジョー「前回もペダルはなかったと思う。僕は普段からペダルを使わないんだ。チューナーのペダルがあるのさえ嫌だから、それも抜いてアンプにつないでる。ただ、今回のツアーのはじめに、アースクエイカーのためにちょっとやったけどね。ペダルを作ってる会社=アースクエイカー・デバイセスの人達がアンソニーに付いてきていて、それで一緒にちょっとやってみたんだ。ただ、あんまりうまくいかなかったよ、普段ペダル使ってないから(笑)。だからアンソニーがそっち方面は全部やってくれて、めちゃくちゃ楽しそうにしてた。ずらりと揃えられたペダルを前に、お菓子屋さんにいる子供みたいにはしゃいでた。だからアンソニーがそうやってるところをうまく撮影できてたね」
ブレンダン「ジョーはチューニングしてただけで(笑)」
ジョー「僕は、機材に関してあんまり話せることがないんだ。ベースがあって、いい音が出せればそれでいいってくらいで、機材について好みがうるさいわけじゃない」
--わかりました。では、最後はアンソニーに確認なんですが、あなたにとって一番大事なペダルは?
アンソニー「……ひとつなんて選べないよ」
ブレンダン「(爆笑)」
ジョー「好きなコンビネーションだったら? その方が考えやすいかも」
アンソニー「うーん、たぶんRatだな。そこの、Pro Co Ratっていうディストーション・ペダルを12歳の頃から使ってるから。それが僕のディストーション・サウンドで、このバンドでもよく使ってる。そんなに面白いものでもないんだけど、Pro Co Ratだよ。たぶん一番好きなやつがそれで、一番楽しんだのは、アースクエイカーのAfterneathペダルだな。ウォッシュアウトされた、速くてディレイとリバーブがかかったサウンドが出て、そこが気に入ってる。このバンドでもよく使ってるんだ」
ブレンダン「あれは何だっけ? よく使ってるやつ? ルーパー・ペダル?」
アンソニー「そう、僕のループ・ペダルもすごく楽しい」
ブレンダン「かなり古いループ・ペダルを使ってるよね。あれは何?」
アンソニー「Electro-Harmonix 16 Seconde Delayだよ。リイシューの方。オリジナルのじゃなくて、リイシューなんだ。そっちはフック・コントローラーが付いていて……これってオタクな話になっていくよ(笑)。あっという間に」
ジョー「それでいいんだよ。訊かれたんだから。興味があるってこと」
アンソニー「ひとつ訊かれたら、3倍は答えるよ(笑)」
ブレンダン「(爆笑)」