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マーク・アーム(マッドハニー)インタビュー

2018年はマッドハニー30周年(サブ・ポップ起業30年目でもあり、つまりグランジ30周年と言ってしまっていいでしょう)。その記念すべき年にリリースされる新作『Digital Garbage』は、現代社会を覆う諸問題をとりあげた歌詞がいつにも増して多く見られ、マーク・アームのヴォーカルも心なしかヒリヒリした感じを増しているように感じられる。ギターのスティーヴ・ターナーも出来栄えにかなり満足しているようだし、実際かなりの傑作に仕上がっていると思う。ただ、インタビューはこれまで通りのノリなので、どうぞ安心してください(?)。対面で話してもそういう人なので、メールだとさらにあっさりしてますが、今回は珍しく、絶対的に覚めた態度の人間らしくない反骨心を、きっぱりと示してもいます。

取材協力:片岡さと美


世界が台無しになっていくような感覚は、ここ何年もたいして変わっていないよ

--最新アルバム『Digital Garbage​』の完成、嬉しいです。前作『Vanishing Point』発売時のインタビューでは「(前々作『The Lucky Ones』のリリースが20周年の年だったのに続いて)25周年記念とリリースが重なったのは単なる偶然」だと語っていましたが、今度の30周年は、さすがに計算して合わせたのではないでしょうか?

「特に計画してなかったよ。俺たち、もっと早く何か一緒にやりたかったんだけど、日々の生活があれこれあってね。スティーヴと俺は2016年にモンキーレンチをやったんで、それも遅れた理由のひとつさ。2017年の頭まで、『Digital Garbage​』のための作曲はスタートしなかったんだ」

--『Digital Garbage​』は、前作に引き続きJohnny Sangsterを迎えて録音されています。『Vanishing Point』のレコーディングはスムーズに進んで「春に3日半かけて何曲か録って、秋にまた3日半スタジオに入って、夏に作った新しい曲のレコーディングと春に録ったうち何曲かの再レコーディングをした」とのことでしたが、今作のレコーディングも、同じように順調なペースで、合計7日間ほどで進んだのでしょうか?

「新作のレコーディングに費やした時間は、俺たちが18曲やったこと以外は前作に近いね。今回、俺たちは2017年9月に3日間単位で2回かけて11曲を録音した。それから俺たちは追加で6曲書いて、Leather Nunっていうバンドの"Ensam I Natt"っていう曲も覚えたよ。それらを12月に、また3日間かけて録音したんだ。そして年明けの1月にミックスした、と。『Digital Garbage​』と前作との主な違いは、テープを使って録音し、ミックスもしたことだね。プロトゥールズみたいなレコーディング・ソフトやコンピューターは使わなかったんだ」

--レコーディング場所は、前作のAvast!から、前々作と同じStudio Lithoに変わりましたね。いずれにせよシアトルのスタジオですが、やはり「地元で録音する」ということが、ひとつのこだわりになっているのでしょうか? それとも時間と予算さえあれば、レコーディングをしてみたいどこか別のスタジオがあったりしますか?

「シアトルでレコーディングしてるのは、ほとんど便宜上の理由からなんだ。スティーヴはポートランドに、残りのメンバーはシアトルに住んでるからね。それにみんな仕事や家族を抱えてるし。俺たちが死ぬほどそこでレコーディングしたいようなスタジオとかは、別に思い浮かばないなあ」

--最新アルバム収録曲の歌詞は、これまで以上に社会問題を反映した内容が多くなっているように感じました。あなた自身「俺のユーモア・センスはもともとダークだけど、昨今のご時世のせいか、それはますますダークになっていくばかりだよ」と語っていますね。2006年の『Under a Billion Suns』で"Hard-On for War"を歌った時や、1995年の『My Brother the Cow』で"Fearless Doctor Killers"と歌った時に比べ、今は「なんて酷い世の中だ」という実感が強くなっているのでしょうか?

「世界が台無しになっていくような感覚は、ここ何年もたいして変わっていない。そして今、俺たちは、自分が大統領として何もかも承知していると考えてる道化に往生させられている。あいつはアメリカの民主主義にとって、マジでヤバい危機の象徴だね」

--例えば"Please Mr Gunman"は、昨年アメリカで起きた銃撃事件が題材になっています。こうした出来事を歌にすることは、あなたにとってどういう意味を持つものでしょうか? そうすることで気持ちが少しでも落ち着くとか?

「曲を書くことで、魂が癒されるとか、心の平穏がもたらされるとかいうことはないね。そういう曲を書かなければならない、なんてことを感じなくていい状況だったらどんなにいいかと思う。でも、何もしないってことは、責任の放棄だからさ」

--"Paranoid Core"では、被害妄想にとらわれて攻撃的になってる人たちのことを歌っています。あなた自身のごく近い周辺にも、そういうムードを感じたりすることがあるのでしょうか?

「これは同時に、陰謀論のサイトやテレビを通じてパラノイアや恐怖を煽ることで儲けてる連中のことでもあるんだ。そんな状況にとことん無力さしか感じられない自分としては、あいつらが馬鹿げて見えるような空気を助長して化けの皮を剥がすために、嘲笑してやるんだよ」

--あなたが「Hey Neanderfuck」と歌う時、それは大人数の漠然としたイメージなのでしょうか、それとも誰か特定の有名人の顔などが思い浮かんでいるのでしょうか?

「あの歌では、ファースト・ヴァースで、トランプに投票するやつらのことを、そしてセカンド・ヴァースではトランプ本人のことを歌ってる」

--"21st century Pharisees"や"Messiah's Lament"では、現在の宗教を揶揄していますね。あなたにとって宗教とは、そもそもどのような存在だったでしょうか?

「宗教は、俺にとって大した意味はない。両親と一緒に住んでた小さな頃、教会に通ってはいたし、クリスチャン・ハイスクールにも行かされた。それは、ウイルスをやっつけるのに似てる。つまり、いったん撃退してしまえば、もはや2度とかからない。俺はあいつらの戯言に免疫が持てたのさ」

--"Next Mass Extinction"も強烈な歌詞で、人類の行く末を案じています。前作『Vanishing Point』のジャケットにも(その直後にひどい状況になってしまうシリアの)アパメア遺跡の写真を使っていましたが、あなたは自らの表現に反映させる感覚として、破滅に向かう危機的なイメージを特に好んで選んでしまうという自覚があったりしますか?

「そう、それらはすべて俺が意識的に選んだものだ」

--新作のラストに納められた"Oh Yeah,"に関して、「俺は、ただビーチをブラつくこととか、ナイスなヴァケーションについての曲を書くことが大好きなんだけど、知っての通り、そんな曲は偉大なロックにはなりそうもないんだよねえ」と語っていますね。スケボーやサーフィン、自転車はともかくモーターサイクルなら、ロックの題材によくなっているような気もするんですが、あなたの考える偉大なロックって、例えばどんなことを歌っているものですか?

「リアルにクールな時間("Real Cool Time")、テレビ・アイ("T.V. Eye")、ブレインストーム("Brainstorm")、この世界の支配者("Lord of This World")、新しいバラ("New Rose")、権力に酔うこと("Drunk With Power")、十分な時間を持つこと("Enough Time")、スペインのお城の魔法("Spanish Castle Magic")、非アラインメント協定("Non-Allignment Pact")、シンデレラ("Cinderella")、音響的な喋り(Sonically Speaking)とかが、俺が偉大だって考えるロックンロールの数少ないテーマの、ほんの数例だね」
※ストゥージズやブラック・サバス、ダムド、ディスチャージ、ジミ・ヘンドリックス、ペル・ウブといったバンドの曲をそのまんま羅列している。

--『Digital Garbage』というタイトルは、4曲目"Kill Yourself Live"の歌詞の一節からとられていますね。「みんな"いいね"をもらうのに夢中になって、ついにはフェイスブックで拷問や殺人を中継するようになっちまった」という発言もしていますし、インターネット時代というものに違和感を持っている様子を感じます。あなた自身は、そういう時代にどう対処していこうとしていますか? 極力SNSには触らないようにするとか?

「ソーシャル・メディアに違和感を覚えてるってわけじゃないんだ。そのために費やす時間がないだけさ。それよりも俺は、現実の世界をリアルタイムで生きたいね」

--最初に言ったように、今年でマッドハニーのデビュー・シングル"Touch Me I'm Sick"が出て30周年になります。シングルを出すことが目標だったバンドが、30年も続いてしまったわけです。今後のバンド人生/ミュージシャン人生をどうイメージしていますか?

「マジで、ほとんどイメージしてないんだよね。俺は明らかに、将来を予測して人生設計を立てるとかダメなタイプなんだよ」

--このところ来日がごぶさたになってしまっていますが、ぜひ30周年の勢いをかって日本公演を実現させてほしいところです。前回のインタビューでは「大相撲にハマっている」と話してくれましたが、その後もチェックは続けているのでしょうか?

「Oh man、また日本に行きたいぜ。ただ、俺たちのスケジュールが限られてるせいで、ツアーに割ける時間がないんだよ。今年は無理だと思う。でも数年以内には実現させたいな。もう俺はケーブル・テレビの契約をやめちゃったから、以前は妻と一緒にNHKで相撲をさんざん見てたのに、それもできなくなっちゃったんだ。だから悲しいことに、このところ相撲界で何がおきてるかさっぱりわからないんだよ」

--最新アルバムのリリースに先駆けて『LiE』というライヴ・アルバムをリリースしました。2014年にはサードマン・レコードとスペースニードルでのライヴ作品をLPで出してますね。ライヴ音源をヴァイナルのみでリリースすることについて、どういう意義や喜びを感じていますか?

「やるのは面白いよ。願わくば、俺たちのファンも楽しんでほしいね」

--この5月にMETZが来日して素晴らしいライヴを見せてくれました。彼らのサブ・ポップとの契約には、あなたも一役買っているという話を聞きましたが、METZのどういうところが特に好きですか? また、そのほかに最近お気に入りのアーティストがいたらあげてください。

「俺はサブ・ポップとメッツとの契約を手伝ったりはしていないよ。ただ、俺たちがトロントで彼らと対バンした時に、A&Rのクリス・ジェイコブスが興味を持ったんだ。彼にメッツのことをどう思うか聞かれたから、俺は親指を立ててみせただけ。俺が特別に何もしなくても、あいつは契約を進めてたはずだよ。その他のサブ・ポップ所属バンドで、俺の最近のお気に入りは、ホット・スネイクス、クリッピング、ヘロン・オブリヴィオン、ピスド・ジーンズ、シャバズ・パレセズだね」


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