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【連載コラム番外編①】コロナを経た今、DXの成功に必要な取り組みとは?

こんにちは、ハービット株式会社の仲田です。今月から3回の連載で日本ロジスティクスシステム協会のウェブサイトに「国際物流DXの最前線」のコラムを連載しています。第1回と第2回は国際物流の専門家であるゲストを招いて対談を行いましたが、スペースの都合上コラム内では泣く泣く割愛しなければならなかった対談パートもあり、それをこちらのnoteで掲載していきたいと思います。
 
初回は、ソニー株式会社で30年に渡ってグローバルサプライチェーンマネジメント業務に従事され、現在サプライチェーンを中心としたコンサルティングや事業支援を行うトップインサイト合同会社の代表を務められている三宅氏をゲストに迎え、日系の荷主の事例に触れながらDXの成否を分ける要因について考察を伺いました。
 
*日本ロジスティクスシステム協会のコラム、こちらのnoteともに、どちらも単体でも読み切り可能なように編集していますが、コラムをまだ読まれてない方は是非そちらも読んでみてください!最下部にリンクを掲載しています。

【ゲスト略歴】
トップインサイト合同会社 代表 三宅 武志氏
1990年ソニー株式会社入社、グローバルSCM物流の企画&実務領域を一貫して担当。本社物流機能や国内・海外工場・販社など各物流拠点で現場実務や改善業務に長く従事。国内工場&販社物流と輸配送、国際輸送パートナー戦略、欧州ハブ倉庫業務(オランダ)・欧州地域ソリューション企画、アジアパシフィック地域物流統括、タイおよびマレーシア物流関連会社社長など計13年間の海外業務を経て、2018年本社グローバル物流統括。2021年三井倉庫グループ会社事業執行役員を経て、2024年トップインサイト合同会社を設立。
現在、製造業会社や物流会社サプライチェーンソリューションのコンサルティングと事業支援、JILS国際物流強靭化推進研究会コーディネーターなど活動中。名古屋大学経済学部卒。

https://topinsight.co.jp

ソニーでの30年を経て独立した思い

【仲田】初めに三宅さんが会社を立ち上げられたというところで、どんなことがやりたくてみたいなこともちょっと聞いておきたいなと。三宅さんがトップインサイト社を立ち上げられたのは昨年(2024年)ですよね?1月でしたっけ?
 
【三宅】1月に会社は登記しましたけど、実際のビジネスは4月からスタートということで、3月末までは三井倉庫株式会社欧州担当執行役員北米事業担当補佐のタイトルで所属していました。ソニーを退社した後、物流会社の中に入ってみて、物流会社が各荷主にどう向き合ってやっているのかとか、荷主に向かってどういう景色が見えるのかっていうのを経験してみたかった。noteにも書いてあるけれども、僕のバックグラウンドが製造業のグローバルベースのSCM※1 /物流なので、ソニーは日系の中でも本社がグローバルガバナンスをちゃんと持てていて、グローバルでビジネス、オペレーション、サプライチェーン、ロジスティクスを一元的にマネジメントする組織基盤と権限を持っている会社。その基盤の上でグローバルSCM/物流をやってきたので、製造業荷主の視点でSCMロジスティクスの最適化をどう企画して実行管理するかというところが僕のバックグラウンド。なのでそれを活かして各荷主の会社、荷主の会社にサービスを提供する物流会社、物流のITツールを提供する会社が対象。今までは自分の会社の利益の最大化とか自分の組織機能のあるべき姿を追求するのを目的としてやってきたんだけど、もうちょっと広く全体を見て、荷主会社や、産業、業界、社会に役に立つ、プラスになるような仕事を、かつ楽しく新しい領域にチャレンジしたいという思いで独立し、会社を立ち上げました。
 
【仲田】じゃあ三宅さんの集大成が現れてくる会社という感じですね。
 
【三宅】そうですね。 本当はそのまま会社に残る道もあったんですが、やっぱりこう新しいことにチャレンジして、どんどん自分のネットワークを広げていくというのがソニーで培ったカルチャーなので。自己実現を追求して思い切って踏み出したということですね。
 
【仲田】なるほど素晴らしいですね。ありがとうございます。

日系企業と欧米企業の組織的な特徴とそこから派生するSCMの違い

【仲田】三宅さんのnoteには、日米企業での、特に日本企業はこうみたいなところも一部書かれていたと思います。在庫管理で供給切らさないようにっていうのが日本企業の方が強いといったことに言及されていたと思いますけど、そのあたりを改めて伺うと、日本企業とアメリカ企業、特に日本企業はどんなところに特徴がありますか?
 
【三宅】これはね、最近いろんなところで比較話で聞くことだけど、日本の会社のカルチャーって科学技術ものづくり立国だからさ、テクノロジー主体のものづくり・生産製造っていうのが主軸で、本社事業部は設計・開発・調達・生産を下に置いてビジネス企画や管理をしている。それを売る販売会社が別会社で各国あって、互いに独立した組織で、ものづくり主軸の事業部と販売会社が横、あるいは管轄に入っていない位置づけ。でも欧米企業は、サプライチェーンの各機能をプラットフォームで見て本社は上位からそれを統合管轄する、それで仕組みをつなげて全体管理する。欧米系で、ERP※2 もそういう設計になってるんだけど。上位から俯瞰マネジメントするか、横をつなげてプラットドームでつなげる、でも上位統括は弱いの違い。上位から全体管理すると機能を一元化したり業務を標準化しやすいからDXやCXがしやすいけど、横につなげる仕組みとして使うと横同士で重複した機能、例えば人事とか経理、物流も個別の組織で仕組みも違ったりする。
 
したがって、日本の会社は販売の方からこういう販売計画でこういうものを売ります、売りたいって言われたら、ものづくり側はよい商品を販売の条件の上にちゃんと切らさず供給する。オーダーに対してちゃんと作りきって遅れずに送るというのはすごく強いミッションなので、販売の計画とかの変化に対して切らさずにちゃんと供給するというのはものすごく重要となるんです。そうなると例えば販売の方がそもそも販売予想の精度が悪くてしっかりした販売計画が立てられないとすると、それを全部ものづくりの供給側がカバーをしなきゃいけなくなるわけです。そうすると販売会社を含めて在庫をなるべく厚くして、とにかく販売が欲しいと言ったときに売り損じはもってのほか、お客様第一主義なので売り損じや欠品はありえないということになるので、どんどん在庫を積みます。一方で欧米系は、どれだけ販売需要が増えそうだっていうここの精度をものすごく重要視するので、それに対して必要なものを在庫計画にしようとする。言うと簡単なんだけど、日本の会社はマインドとしてちょっとの売り損じや欠品もないように在庫を持って販売に渡すというミッションに愚直すぎるもんだから、在庫をすごく積み増していくというマインドがやっぱり強い。
もう一つはさっきの組織デザインにも起因するんだけど、販売と生産というのは両方とも変動パラメーター機能といううえで需要が変動するし、生産の制約まで変動します。で販売側の計画に対して、ちゃんと実数販売がその通りオンターゲットで正しかったかどうか。例えば100売れますって言って80までしか売れませんでした、これもう販売の責任なんだよね。100売れますって言って120売れたら予想達成以上売れたので褒めるでしょう、日本の会社はだいたい。だけどトータルのサプライチェーンやトータルのオペレーションからすると、100売ると言ってて120売れるっていうのは、実は他の部署にとってはものすごく実害が大きい話で。20余分に売れたってなると、当然計画に対してものが足りないということになる。 そうすると売れるんでと製販にフィードバックすると、その分何とか対応しなきゃいけないとなってSCMでいうとブルウィップ効果※3 になるし、そもそも販売側は生産側に、欲しいと言ったものに対してちゃんと供給してくれないという、そういう日々のマインドというかがあるんですよ。 それは品質問題やいろんな問題で売りたいものが変化してでき上がったんだけど、自分たちの販売予測の精度が低いというのは置いといてということだけど、それに対して生産ついてこれないじゃん、だから売れないんだよって言って、これがよくあるパターンなんですよ。
 
なのでコロナでバッとペントアップ需要※4 で想定外の需要が上がったときに、お客さん欲しいって言ってるのになんで作れないのと。でこっちも半導体ありません、工場の労働制約もあります、なんか詳しくわからないけど物流も大混乱ですってなると、販売の方はじゃあ本当は予想100か150なんだけど、あいつらどうせ50も送ってくれないから300ぐらいにしとけってなるわけですよ。でこれがブルウィップ効果になって、日系の場合は欧米系に比べると相当強いブルウィップ効果が生まれてしまって。で工場の方は特に調達の部材も備蓄をしなきゃいけないというのも手伝って、工場のそこら中や外部倉庫に部品も多く抱えて。で生産の準備も時間かかるけどもやったんだけど、その頃にはペントアップ需要がもう終わっちゃってて、オンハンドで積み上げてた在庫もだぶつくんだけど、それ以上にアジアの生産工場はもっと在庫の山だったんですよ。というのは日系と欧米企業を比較すると非常に顕著にあって、コロナというのはある意味物流をただ回せばいいというところに何か起こったときに非常に脆弱だったねというのがわかったということもあるし、改めて販売と生産側の連携とか情報の共有の仕方とか計画の立て方ってやっぱりなんかおかしいよねと。でトップマネジメントもペントアップ需要が終わって在庫だぶついた、備蓄もしたし積み上げたしってそのうち解消するだろうって言うんだけど、なかなか解消しなかったんですよ。1年以上解消しない。需要は減退したけども、それでも何かおかしすぎるよねって。もう一回ちょっと見直したか、どうなってんだってなって、それで多くの会社が製販の需給計画の立て方をもう一回見直して、まあこれ欧米企業とか時代的にはずいぶん前からものすごく当たり前の話なんだけど、もう一回この需要予測とか需給の計画の立て方とか、それをオペレーションとしてERPでどう回してやるのかっていうのを見直して、それでKinaxisのMaestroみたいなのでみんな高いシステムを入れなきゃと急にやり始めたんですよ。確かにサプライチェーンの不確定要素が地政学リスクを含めて非常に多くなったので、その制約に応じてという分析をしてシミュレーションを回して、その制約条件のもとで何をどう作ったら一番利益が上がるかっていうのを数量から金額ベースに置き換えたS&OP※5 をやり始めた会社が多くて、それはコロナを経て製販の領域は高いツールを導入することによって多分進化はしてるんですよ。見直されてお金もかけて。だけど、僕はそこにやっぱり物流ってまだ置き去りにされていると思っている。SCM部門や事業企画みたいな部署では、需要予測の精度を向上させて、需要予測もまあ当たらないんだけど、それでもどうやって精度高く計画を作り、生産とか調達もキャパシティとかの制約条件を踏まえた生産調達計画を両方可視化させて、いろんな制約のもとでフレキシブルにどういう計画がいいのかっていうのを立てられるようにする議論が進んでて。それを大手コンサル入れて、Kinaxisとかo9も呼んでみんな議論してるんだけど、物流の人は呼ばれないんですよ。
 
【仲田】うーん、なるほど。

物流×システムの課題と今後の可能性

【三宅】物流も実は今までみたいにPSI※6 で固定のリードタイムを入れてやってたんだけど。アメリカ向け2週間だと生産からインベントリー計画のときに2週間足して、2週間で転がしていくということでテンプレートにして。ただ本当はこの需給のシステムも、需要と生産調達に合わせて物流の変動モジュールというのがあって、先行き計画を含めて、トータルで物流は今こうだけど長くなりそうだとか、いや改善しますっていうのも踏まえて最新のをちゃんとアップデートすると反映されて、それで需給・物流っていうERPが回ってまた計画を作り変化が起こったときに対応するというのがいいんだけど、ERPに物流の変動最適化モジュールが入っている商品ってないんですよ。
 
【仲田】はいはい。
 
【三宅】でね、いろんなコンサルとかの説明とか資料でも、サプライチェーンというと調達生産があって販売があるんだけど、物流って一応書いてあるけどやっぱりつなぐプロセスなんですよ。そこには輸送計画TMS※7 とかちょろっと書いてあるんだけど、じゃあTMSが需給の基幹システムの中に入って変動パラメーターを取り入れたプランニングに使っていけるかっていうと、そういう商品の設計になってないと思うし。まあたぶん物流の制約をベースにサプライチェーンの計画を回していくっていう会社はまだ非常に少なくて、Amazonさんはやられてるそうだけど、他の会社は聞いたことない。
 
【仲田】なるほど。
 
【三宅】僕はこの可視化のDXのところは、理想論からすると変動する販売需要と生産制約がある生産の変動の部分をいざ物流でカバーということが本当はできるはず。マニュアルで対処療法的にはやるんですよ、みなさん。例えば在庫がだぶついていて早く着いちゃうと山になるので、急遽足の長い船に切り替えてブッキングし直しますというのは、マニュアルベースでエクセルで気づいたときにはやっている。ただ、システマチックに計算されて、これ以上やると在庫がこうなるので物流のオプションを10日のものを15日とか20日ぐらいの船に切り替えて、倉庫代わりにしている保管料も下がるし…って、そこまで可視化から最適化プランニングにつなげていく業務のやり方をERPをベースにした全体のオペレーションプラットフォームでどうできるかという議論ってほとんどないんですよ。本当は必要なときにはマニュアルでみんなが苦労してやっている内容ではあるんだけど。まあそもそも製販の人たちは物流のことをあまり詳しくないっていうのは根底にあるんだけど。なのでそれを知らずして物流のサービスの選択とかモードの選択とかを、船が遅れて間に合わなくなったということで、PSIで1週間間に合わなくて販売に影響が出るとなったらあとはもうエア(航空便)出荷しかないから、それでドーンとエアの手配に走るわけです。そうすると別にそんなに早く着かなくても、例えば4週のリードタイムで回してて1週間遅れたので3週間まだ余裕があるんだけど、とにかくエアでとなって結局2週間ぐらい寝るわけです。
 
【仲田】はいはいはい、そうですね。
 
【三宅】なので本当は製販、需給と物流がそれぞれのキャパとかQDCの選択を持つ変動モジュールになってて、それで生産と販売と同様に物流のリードタイムとかコストとかが、たぶん将来的にはそこにCO2というGX※8 の指標もあって、どの選択をしたら一番いいかっていうのがAIでぐるっとやるとわかる。今回はこの船会社のこのサービスで、コストはちょっと高いけど、ちょっと早くてCO2のこれこれが一番いいです、このときはちょっと違うパターンです、っていうところまで物流のレベルが上がって、プラットフォームとして最適化プランニングまでできるようになれば相当進化するんだけど、まだそういうところまではほど遠いから。
 
【仲田】そうですね。いや、おもしろいですよね。それはまさに今AI使って作ろうとしています。
 
【三宅】僕がこの可視化のnoteを書いたのはもっと入り口の議論で、このまま行ったらまた元に戻っちゃうのかどうなるかっていうレベルなんだけど、それをグーッと目線を低くして現実的な視点から見てそういうふうに言ってて。SCMやS&OPの観点で企業のオペレーションの最適化からすると、物流っていうとやっぱり…物流っていう言い方をした時点でやっぱりイメージは倉庫とトラックじゃない?
 
【仲田】そうですね。
 
【三宅】荷造運賃・保管料っていう勘定科目から感じるように、本当に実物流になっちゃうんですけど、だからロジスティクスと物流の違いを定義して、物流こうだけどロジスティクスこうなりましたと。海外はロジスティクスを担当している人がみんな偉くなりました。日本の場合は言葉のお遊びになってて、昔から今までずっと物流なんですよ。でもさっき言った変動パラメーターの話を全部最適化するというのは物流じゃないレベルなんですよ。組織の名前も、ソニーもロジスティクス部から物流部に変えたんだけど、経営者が結局ロジスティクスと物流の違いもわからなくて。でもやっぱり物流の方がわかりやすいとなって物流部門になっちゃった。その時僕は、また古めいかしい組織名になって新入社員のときに逆戻りだなと思った。物流のイメージとなると、飛行機、船、トラック、倉庫の物理的な作業ですか?という話になっちゃう。
 
【仲田】それでまたスコープが小さくなっちゃうという…。
 
【三宅】うん、レベルがね。だから仲田さんみたいなね、今物流領域のITとかスタートアップの会社は、大手のERPもそういう設計になってないし、そういうコンセプトのツールが使えるようになると物流組織がロジスティクスになり、そしてSCMロジスティクスと進化させるドライバーの役割となる期待を持っています。
 
【仲田】今まさにそこはAIエージェントを使った最適化支援っていうのでやろうとしてて。それはいいですね、そのレベルまで早く行きたいですね。

「物流」という用語自体の違和感

【三宅】だからJILS※9 にはちょっと申し訳ないですが、あのCLO※10 の議論も違和感を感じるんですよ。
 
【仲田】まあCLOって言ってるけど、物流のスコープに…。
 
【三宅】実物流じゃん。結局、24年問題をベースにした実物流の話で、グローバル企業のマネジメントレベルにロジスティクスもあるべきと言うんだったら、全体のオペレーションの最適化のところにちゃんとロジスティクスを位置づけて、在庫もそうだし販売チャネルのアロケーション計画にもつながっている、そういうロジスティクスの機能を再定義すれば、CLOとして本社の役員で置けるわけですよ。
 
【仲田】はいはい。
 
【三宅】ただ倉庫とかトラックとか、あと日本の物流の話だけで本社の役員にCLOなんかを置くっていうのは狭すぎて本来ありえないですよね。
 
【仲田】まあ、そうですね。かなり部分最適な目線しかない感じが。
 
【三宅】せいぜい部長の仕事で、部門長でも役員レベルの話でも本当はないわけで。
 
【仲田】確かにそうですね。 ありがとうございます。ちょっと可視化のところに話を戻すと、成果が出る国際物流の可視化をやろうとするとやっぱりまず目的の設定とかってこともnoteに書かれていたと思うんですけど、どんなところからどんなことを考えるのを始めるべきかみたいな点で言うとどんな感じでやるといいですかね。
 
【三宅】これはある一つがこうでっていうよりも全部つながってる話になるので、改めて僕も実はすごく難しいって思ってます。 まず物流をちゃんとロジスティクスとして捉えて、組織の責任の権限やその範囲もちゃんとSCMの中で捉えて、社内での位置づけが製販の需給調整の計画のところに、ちゃんと物流とロジスティクスの機能が同じグループにあって常に生産と販売の情報を共有しながら物流を考えていくっていうのがまず絶対必要なんですよ。これは前の会社のときもロジスティクスを見ながら、例えばアメリカの販売のレポートとか調達とか生産側の問題点を事業部経由とかでレポートをもらってたので、まずそういう体制になっていますか?と。組織とかレイヤーを変えるっていうのはすごく難しいですよね。会社が大きくなると。なのでそういう組織と位置づけが少しでも前進しそうだったら、あとはSCMの機能との連携つながりができていてコミットして一緒に運営していくという立ち位置でやっていくこと。
 
それからもう一つが日系の会社が苦手なやつで、これをどうしても指摘しなきゃいけないんだけど、24年のものづくり白書の最初の方にある日系企業の事業の多角化に並んでグローバルの多角化っていうんですかね?っていうものを中央の本社でちゃんとガバナンスを持ってコントロールして運営できること。ちゃんと可視化したマネジメントで意思決定をして、そのアクションとして本社からアクションが取れるということをしないといけない。日本に本社があります、だけどものを作ってるのは部品調達も含めて海外です、売ってるところもまた海外ですと、こうなったときに調達して作るのと売るのが海外である以上、それをロジスティクス含めた全体で運営して課題に対して最適化するとか対応するとしていくには、機能的に物流がSCMレベルに上がらなきゃいけない。グローバルとしてちゃんとガバナンスの取れている組織であったり機能でないとできないですよね。こっちの方が難しくて。日本の会社はものづくり白書に連邦経営型って書いてあって、はっきり言って本社で全部ガバナンスして経営しないわけですよ。 それぞれに独立した権限を与えていて、その集合体でやってますと。
 
欧米系の会社というのは本社の経営でグローバルの方針をちゃんと決めると、あとはもう国内の支店みたいで結構極端だけど、本社で決めたことも全部愚直にやらなきゃいけないです。やらないとクビになっちゃうし、時には現地の事情もあまり理解しないような方針も降りてくる。例えば在庫の拠点、全体で見るとちょっと多すぎるから各拠点20%から30%減らしなさいと。で日本も減らしなさいと。でもお客さんがいて、今このサービスレベルで成り立ってるっていうので、これを集約しちゃうとサービスレベルが落ちてお客さんの売上減っちゃいますと。仮にそういうのがあったとしても本社から言われたことをやらなきゃいけないですよと言って悩んでる会社があったんですけど、日本の会社は全くその逆で、本社からの指示も何もなくて、ローカルの会社でこれがいいと思ったことを自由にやるという感じ。そこには非効率標準化もないし、最適化へのアプローチプランニングの手法もそれぞれがみんな勝手にやるから、専門性も蓄積も何もないという。そういうグローバルガバナンスが非常に苦手で、経営レベルも下手すると海外でマネジメントしたことがないトップマネジメントがいたり、英語を全然話せませんとか言って通訳まで入れて昭和の経営をされているグローバル展開の会社がまだあると。
 
【仲田】はいはい。
 
【三宅】そういうようだと、なかなか難しいですよね。
 
【仲田】そうですね。
 
【三宅】なのでそういうところと全部一体になっていて、会社全体やグローバルでちゃんとマネジメントできるということと、SCMレベルでちゃんと仕事をやることができるという機能と地域という軸をもっと進展させて、それが仮にレベルアップすると、国際輸送の可視化ツールとかDXの使い方もだいぶ変わってくる。
 
【仲田】そうですね。
 
【三宅】SCMにも使えるし、その結果をもって発地と着地に対して本社の方で一元管理・指示してコントロールすることができるわけですけど、日本の多くの会社は販売会社のコントロールとか、ましてや販売会社にある物流組織を日本にある本社が組織的にちゃんとマネジメント、指示する立場にないということなので、組織設計や機能配置というところもやっぱり考えていかないと難しい。なのでこれはよくいろんなところで言われるように、DXもあるけどコーポレートトランスフォーメーションのCX、これ日本の会社はすごく苦手ですよね。海外にあるそれぞれのアメリカ本社、ヨーロッパ本社で人事の全部同じ機能がそれぞれにあって、標準化されてなくて日本でプラットフォーム化されていないから。
 
【仲田】はいはいはい。
 
【三宅】ソニーは日系でもそういうことができている会社で、当たり前のようにそれに乗っかって物流のプラットフォーム運営ができたので、日本にいながらどこの国で今どういうオペレーションでKPIがどうで、販売の変化に対して今どういう施策を立てて何をやってるかとか、どういうパートナーを選ぶとかっていうのは全部コントロールできる会社だったので、それをやってましたけど。そういう会社がほとんどないというのは辞めてからわかって。ただ日本の会社にじゃあそれをいきなりやれと言ってこういう話をしても、非常に難しいっていう。
 
【仲田】ガバナンスはそうですね、それがないとスコープが全然違うのと、成果も変わってくるところがあると思う。ガバナンスは、それはそれでだいぶ足の長い話になりそうだけど、CXを頑張っていくというアジェンダがありつつ、DXで可視化してみたいな部分もそっちの状況によって成果が全然違ってくるところがあって。なのでそこは、例えば安い可視化ツールで一部であれば効果が出るみたいなところから徐々に広げていくということができるのかという。弊社でも、もう一つお話があった製販との連携やSCMみたいな観点でゴールを設定していくとか、ツールだけじゃなくて可視化された物流でそこのSCMを改善していくような部分の、少なくともその関係部署にいる方は同じ会議体でやっていくことで話していきながら、そういう役割を持っていない物流の方々も巻き込もうとするとか巻き込みながら一緒にどうしていくかという議論を目標設定のときにしながらやっていかないといけないと思っていますね。
 
【三宅】ソニーでね、士農工商の資材・物流って言葉があって。会社の中の序列を揶揄しているんだけど、資材調達ちょっと上に上がったと思ってて、だけど物流ってやっぱり下なんですよ。だから子会社化したり切り離して分離させちゃったりとか、いろいろあると思うんだけど、全然コアコンピタンスに思ってないの、要するにね。それはさっき言ったようにトラック・倉庫ということになっちゃってる。あと勘定科目のさっきの荷造運賃・保管料のキャッシュアウトのコストでそれだけです、以上、になっているので、物流の組織の位置づけをどう上げていくかというさっきの話にまた戻っちゃうんだけど、そこはちょっと難しそうですね。やはり在庫コストを一緒に責任を持つみたいな変化がないと変わらない。
 
【仲田】そうですね、ありがとうございます。確かに。

組織の中の「物流」のポジション

【三宅】日本の管理者が例えば物流領域というときになかなか前に進まないとか遅れてるとか、CLO一つとってみてもなかなか進まないっていうのも、実は物流という角度とは違うもっと広い全体的な視点から見ると、すごく一筋縄にはいかない。実はもっと全部、会社全体の組織とか企業内部でつながっている話で。
 
【仲田】そうですね。
 
【三宅】大きな会社になると、みんな既得権益で自分の組織や領域を侵されないように守るから、物流の人が在庫の話とかしようとすると、関係ないのでいいですよ、もうやらなくていいです、うちの問題って言われちゃうので。物流の人ももともと立場が下なので、この領域はうちの担当領域ではないのでちょっと口出せませんとなっちゃいますよね。
 
【仲田】そうですね、そうですね。
 
【三宅】士農工商の資材・物流なんですよ。それで物流の人じゃなくて上の人にこういう話を持っていってですね、仲田さんが話に行ったりすると、しがらみがなければ成立するけど、物流会社とかって物流部の接点がある人がそれやっちゃうとなんで勝手にやろうとするのかと思われるんですよね。
 
【仲田】はいはい、なるほど難しいですね。
 
【三宅】ものすごくね、そういうのを30数年やっていました。
 
【仲田】お疲れ様です笑
 
【三宅】結構生き残るのも大変です笑。処世術っていうか。
 
【仲田】はいはいはい…いやでもそうですよね…。
 
【三宅】ちょっと戻るけど、物流という言葉はやめた方がいいと思うんだけどね。なんかもう昭和の言葉で僕が入ったとき物流本部っていう…ソニー物流本部なんです。ロジスティクスとかロジスティクスセンターとかいろいろなったんだけど、あるときまた物流になっちゃったんです。物流っていう名前になった時点で、なんかもうすごい下に向いたな…本当はSCMロジスティクスか何かがいいんだけどね。
 
SCMになるとやっぱり製販なので、生産系…生産管理とか経営管理とかね、社内で言うとそちらの方。なので例えば物流というところがエントリーだとすると、そこからSCMってメーカーからすると組織が違うんですよね。そこと物流部の人たちというのはものすごく距離があって、簡単に欧米の会社と比較ってできないんですよ。ロジスティクスっていう組織の範囲と権限とかが日本と全然違うので。欧米は契約社会なので、物流会社に契約でこれをこのKPIでやってくださいっていう担当がいるんだけど、それはほんの一部で、もっと販売管理だったり在庫や受注全体のオペレーションをやっているのがロジスティクス部なので、その人たちがそこをベースにCEOになったり偉くなったりっていうんですけど、じゃあ日本の会社の物流部の部長さんが役員になって常務とか専務になっていくんですかって言ったら全然違うから。

ソニーはなぜ他の日系企業よりも上手くいったか?

【三宅】僕はソニーが他よりもうまく…運良く違ったのというのは、さっき言ったグローバルの標準化とかグローバルマネジメントとか、そこがやっぱり他の日系と違った。人事もそうだし、例えば僕が物流やってたときでも、グローバルチームを作ってという仕事を英語でやるのが当たり前になるんですけど。あんまりそういう…やっぱり日本ってもう全部日本語でしょ?社内のね。
 
もう一つ大きなのは経営危機を経験したかどうか。これがね、大きいです。変化なくのらりくらりでやってきたところでは、やっぱり新しいイノベーションって起きづらくて。一回ソニーみたいにドカーンと潰れるとか、ソニーショックとかなったときの強烈な社内改革。これで今までやってたことを全部否定して、成功体験全部ドブに捨てて。だいたいね、そういうぬるま湯できてるのは、全員が自分の若い頃の成功体験を美化しちゃって。もう俺が一番正しくやってる、俺が一番正しいんだってこうなっちゃうんです。これ一番厄介です。
 
【仲田】はいはい。いや、大事ですよね。そういう機会がないと現状維持か延長でってなってしまうのと、自分の成功体験にしがみつくっていう。
 
【三宅】自分の成功体験とかこうだったっていう昔の話ばっかりしてね。全部過去ばっかり見るんです。今どうでこれから何やるかとか、新しく何か始めるっていう話じゃなくて。こういう人を見ると、まあ付き合わない方がいいですね。もうあれ、引退しちゃったんですか?って。
 
【仲田】笑、確かにそうです。間違いないです。
 
【三宅】尊敬する上司ね、過去の人の飲み会、過去のつながりの飲み会とか、過去の話をする飲み会に絶対に行かないっていう尊敬する上司がいて、今某大手会社の社長で御活躍中です。
 
【仲田】へぇ~はいはい。
 
【三宅】この人なんかもうすごい嫌ってましたね、過去の話をする人。前向いて、今これからですよ。過去の話したってしょうがないじゃないですか。
 
【仲田】 うんいやすごい、そういう方針としてちゃんとあって、しかも徹底して飲み会にも行かないっていうのは、なかなか。
 
【三宅】昔話する人って、最初っから最後までずーーーっとその話してるでしょ。
 
【仲田】そうですね。そういうのが今の若手に嫌がられる飲み会みたいなやつでもあるみたいですね。なるほど色々面白いお話をありがとうございます。

おわりに

日本ロジスティクスシステム協会のコラムでは、コロナを経た今、多くの日本企業が抱えるDX上の課題とそれに対して何をどう取り組むべきか、三宅さんのコロナ当時の具体的な状況を含む臨場感のある話とともに語って頂きました。そちらも是非ご覧ください!
 
次回はフォワーダーの株式会社日新に、デジタルフォワーディングサービスの取り組みについて伺う予定です。お楽しみに!
 
以前のコラムも以下より是非ご覧ください。
https://www1.logistics.or.jp/news/detail.html?itemid=1026&dispmid=703
 
<告知>
弊社ハービット株式会社は2025年4月9~11日にインテックス大阪にて開催される関西物流展に出展いたします!大手荷主・フォワーダーの国際物流DXを支援する弊社クラウドソリューションのデモンストレーションも行っておりますので、是非足をお運びください。

「関西物流展2025」(4/9-11)出展のお知らせ

※1 SCM…Supply Chain Managementの略で、原材料の調達から消費者に商品が届くまでのサプライチェーン全体を管理する手法。ERPのSCMモジュールを指して使われる場合もある
※2 ERP…Enterprise Resource Planningの略で、企業の経営資源を統合・管理して、業務の効率化や経営の最適化を図るシステム
※3 ブルウィップ効果…サプライチェーンにおいて、川下の需要変動が川上に向かって増幅する現象
※4 ペントアップ需要…景気後退期に消費を控えていた需要が、景気回復期に一気に回復すること
※5 S&OP…Sales and Operations Planning。企業において、経営層と生産や販売、在庫などの業務部門が情報を共有、意思決定速度を高めることでサプライチェーン全体を最適化しようという手法
※6 PSI…生産(Production)、販売(Sales)、在庫(Inventory)の頭文字をとった用語で、製造業における生産・販売・在庫の計画を指す
※7 TMS…Transport Management System。輸配送管理システム
※8 GX…Green Transformationの略で、温室効果ガスの排出抑制と経済成長の両立を目指す取り組み
※9 JILS…公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会
※10 CLO…Chief Logistics Officerの略で、最高ロジスティクス責任者のこと。企業あるいは企業グループのロジスティクス領域で財務分析、戦略立案、課題解決を行う。2024年4月に成立した改正法案「流通業務総合効率化法」によって、一定規模以上の特定荷主事業者に対し、CLOの選任が義務付けられた