ポジティブだと生産性は上がるのか?
ネットを回遊していたら興味深いページを見つけました。
独立行政法人経済産業研究所
https://www.rieti.go.jp/jp/
ここには日本語のディスカッションペーパーがたくさん掲載されています。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/act_dp.html
これらは調査に基づいて書かれており、とても価値があると思います。
いくつか読んでみました。
大変参考になる一方で専門論文の形式であるため、読みにくさもあります。
複数ある論文からハラスメントに関係するものをいくつか解説する、ということをやってみよう、と思います。
今回は上記の「従業員のポジティブメンタルヘルスと生産性との関係」について記事にします。このnoteを書いている同月に掲載された新しい論文です。
この調査でとても興味深いのは、
「仕事に関するポジティブなメンタルヘルスと生産性との関係」を調べる際に、定性的なものではなく、売上高という皆が一番気になっているものを紐づけ、両者の関係性を検証したところです。
「ポジティブなメンタルヘルスであれば、職場の雰囲気が良い、活気がある」
のような「そういう見方もできるよね…」のような甘い調査ではないというところに価値があります。
まず、分析方法について。これも厳密に行っています。
■大手小売業 X 社の、約3,900人の調査データを使用。
→上記は売り場に勤務しない管理職・間接部門(広報、人事、企画、財務 部門など)・テナント売り場・3名未満の小規模売り場に所属する従業員を除外したもの。
■これらを180の売り場にグルーピング。
→売り場ごとの従業員のワークエンゲイジメントの集計値や、その売り場の人員構成等(男女比、平均年齢、就業形態別割合、従業員数)を求める。
店舗・主な販売ジャンルの情報も推計では利用する。
■外生的なショックを極力排除する。
X社は売り場ごとに半期の予測を立てている。直近の販売動向・販売フロアの拡張・縮小計画・セールスプロモーション計画・為替レート・訪日観光客の予測・国内外の景気動向などを元に行っている。
この予測値をベースラインに置き、売り場のワークエンゲイジメントが高まると、需要変動などの不可避な要因を織り込んだ予測値を上回る売上が実現するかどうかを検証する。
ここで、ワークエンゲイジメントとは「仕事に誇りややりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)の 3 つがそろった状態を指します。
設問も様々な角度で行っています(抜粋)
■設問
≪企業レベル≫
① 適正な時間管理について、会社として効果的な対策を講じていると思う(ワークライフバランス)
② 健康やメンタルヘルスについて、会社として効果的な対策を講じていると思う(健康管理)
③ ハラスメントのない職場づくりのために、会社として効果的な対策を講じていると思う(ハラスメント対策)
④ 会社は、従業員のために必要な教育・研修の機会を十分に提供していると思う(教育訓練機会)
≪職場レベル≫
⑤ 上司は職場の役割や期待されていることを明確に説明してくれる(仕事の明確さ)
⑥ 上司は、メンバーそれぞれの強みや特徴をよく見てくれている(上司のマネージメント)
⑦ 上司は、あなたがより質の高い仕事ができるようになるために、的確な育成計画を考えてくれる(育成計画)
≪個人レベル≫
⑧ 自ら望めば、仕事の幅を広げたり、難易度の高い仕事にチャレンジすることができる(成長の機会)
⑨ 職場において、一人ひとりの業務の目標が、具体的な活動内容や数値となっている(目標の設定)
X社の調査はワークエンゲイジメントの設問が組み込まれた従業員調査であり、これと人事データ、そして売り場ごとの売上高データを紐づけ、従業員のワークエンゲイジメントが高い売り場ほど、売上高でみた生産性が高くなるかを、検証しました。
結果として、従業員のワークエンゲイジメントの平均値が高い売り場では、売上高が高くなる。ただし、ワークエンゲイジメントの売り場平均値が高くても、その売り場の従業員間のワークエンゲイジメントのばらつきが大きい場合には、売上高が低くなることも分かったのです!!
職場の一部の従業員がとても熱意をもって働いていたとしても残りの従業員がそうでなければ生産性は低下しうることを意味しています。
考察として、従業員間のワークエンゲイジメントのばらつきが大きいほど、チームワークが悪く、結果として生産性が低くなっている可能性が考えられるというわけです(ここでは割愛していますが、この調査も行っています)。
ストレスチェックなど従業員へのアンケート調査で、平均値だけ見ていては、ミスリードしてしまう、ということになります。
この調査では、従業員のワークエンゲージメントが平均的に高く、ばらつきが少ない職場は、そうではない職場と比べて何パーセント売上が高いのか、というところまでは明記していません。
また、小売りという業態1社への調査であり、これが他の業種であるとどうか、ということは疑問が残ります。
ただし、このようにデータのとり方に気を配り、ポジティブメンタルヘルスと生産性の関係を示したことは企業にとっても非常に有意義なことであると考えます。
最近ハラスメントの講義でよくお話することは
「ハラスメントはだめ!!だとつまらない。施策がやらされ感になる。ハラスメントをしないことでより生産性が向上するし社員が生き生きする。自社の得になるように取り組みましょう」
です。この根拠がまた一つ増えました。
社員が生き生きする職場にして、生産性を上げましょう!
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