森山直太朗とCHEMISTRY
昔、付き合っていた男と森山直太朗のライブに行った。
その日はものすごい雪が降っていて、遠方から参加するにはかなり過酷な状況だった。ひどい雪道のなか、男は運転をがんばった。もうそれだけで、かなり疲れていたのだろう。ホテルから会場に向かう前、もうライブ行かなくてもいいかな、なんて言っていた。なんとかライブに参加し、わたしはいつものように、思いきり楽しんだ。
今思えば、隣で男がどんな状況で居たのか思い出せないほど、わたしは森山直太朗しか見ていなかった。
終演後、近くの居酒屋で男と食事をした。そして男が言う。
「CHEMISTRYの方が歌うまいな」
わたしはキレた。「直太朗さんのライブの後にそんなこと言わなくて良くない?」
そう、わたしは森山直太朗が大好きなのだ。心から応援している。森山直太朗だって、この慣れない大寒波の中、がんばって歌ったんだぞ、こんなに空気が乾燥しているんだ、そりゃあちょっとは声がかすれることもあるだろうよ、彼は東京生まれ東京育ちなんだから。
沈黙が続いた。
帰り道の車内で、別れよう、と言われた。男は沈黙の車内で、森山直太朗の「いつかさらばさ」を流した。しかもわざわざボリュームを上げたのをわたしは見逃さなかった。別れ話に森山直太朗の曲をお見舞いされるとはね。本望だよ。
あれから何年も経つが、わたしの中での優先順位は未だに森山直太朗が一位である。だけどあの時、一番に労わなくてはならなかったのは、運転をがんばってくれた男だったんだよね。ごめん。
わたしが森山直太朗よりも愛せる男。そんな男が存在するとは思えないが、出会えたのならきっと、素敵なCHEMISTRYを起こせるはず。そう信じずにはいられないよ。
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